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社交不安障がい者が旅をする。#9
スタッフのお姉さんは、困った顔をしながらも丁寧に接客してくれた。
朝、いつものように散歩をしていると、気になる店を見つけたので、入ってみた。
狭い道の脇に露店売りが連なる中、「店内」という概念のある大きめの飲食店だった。
店員の女性に挨拶しても、反応が悪い。
どうやら言葉が通じていないらしかった。
ジェスチャーでこれが食べたい、と示すと、若そうなお姉さんが対応してくれた。
頼んだのはベトナムでも見かけた小さなフランスパンを使ったサンドイッチ。
挽き肉がサンドされており、お好みで付け合わせの具材をサンドして食べるようだ。
見た目は小さなフランスパンだが、サクサクさていて食べやすい。
僕は、もったいないので全ての具材をパンの腹に突っ込んでキレイに食べ切った。
ベトナムでも似たようなものを食べたが、カンボジアでも素朴な味わいで美味かった。
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食べ終えると先ほどのお姉さんに料金を支払った。
この店は、恐らく地元の人が利用するもので、旅行客が1人で来ることは少ないような気がした。
そんな中、クメール語が全く分からない男が1人で来たのだから、相手からすると「なんだこいつ」と思っただろう。
少なくとも現地の言葉で最低限のコミュニケーションは取りたい。
そう思って、挨拶のフレーズをしっかりと調べることにした。
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朝のルーティンを終え、街に繰り出した。
まずは、余ったベトナムの通貨ドンをカンボジアの通貨に交換するため、旅行代理店に向かった。
宿からほど近くにある代理店に入ると、愛想の良さそうなおじさんが1人、店内に座っていた。
「チョムリアップ スォ(こんにちは)」
挨拶をすると、おじさんも丁寧に挨拶を返してくれた。
先ほど学んだ言葉が通じているようだった。
「I’d like to exchange a currency.(通貨を交換したいんですけど)」
そう希望を伝えると、おじさんは換金率を計算して、カンボジアを通貨を渡してくれた。
「Please count the bills. (金額が間違ってないか確認して)」
「Okay, correct. オークン!(うん、合ってそう。ありがとう!)」
「オークン!(ありがとう!)」
去り際にクメール語でありがとうと伝えると、おじさんも笑顔で返してくれた。
英語だけじゃなく、あえて現地の言葉で伝えるだけで、心が通い合ったような気がした。
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旅行代理店を後にした僕は、カンボジア国立博物館に立ち寄った。
中に入ると仏陀の像が立ち並んでいた。
でも、何か違和感を感じた。
よく見てみると、仏陀はナーガと呼ばれる7つ首の蛇神に座っている。
仏陀の背後からは、ナーガの頭たちがこちらを見つめていた。
そう言えば、街の至る所でナーガの彫刻を見かけた。
カンボジアでは、ナーガは天上界とこの世を繋ぐ架け橋として、崇められているようだった。
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さらに館内を回ってみると、ヴィシュヌやガルーダ、ブラフマーの彫刻が鎮座していた。
プノンペンの街を歩いていると、オレンジ色の装束をまとった僧侶を見かけた。
この国では仏教が信仰されていると思っていたが、ヒンドゥー教の神々も崇められているようだ。
長い時間をかけて色々な宗教が融合した結果、この地域独自の信仰を生んでいるような気がした。
スマホやインターネットなんてない時代、人々の口づてに伝えられた情報が、形を変えて今に繋がっている。
現代まで脈々と続く人間の営みを感じずにはいられなかった。
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午後2時、博物館と王宮を見学した僕は、腹を空かせていた。
王宮を出てぶらぶらしていると、いかにもローカルな飲食店を見つけたので、入ってみた。
「入る」と言っても、「店内」という概念はない。
屋根の下にテーブルと椅子があるだけだ。
「チョムリアップ スォ(こんにちは)」
店にいたお兄さんに挨拶をし、1人ですとジェスチャーで伝える。
「Noodle?(麺でいい?)」
どんなメニューがあるかも分からず、とりあえず首を縦に振って席についた。
出てきたのは一見カレーうどんのような色をした麺だった。
ベトナムでも見た香草が付け合わせとして出された。
食べてみると、想像以上に優しい味だった。
付け合わせの香草も、そのまま麺が入って器に突っ込んで食べていると、店のお兄さんが、こうやって食べるんだよ、と教えてくれた。
なるほど、茎から葉や花だけ取って麺に入れるようだ。
「オークン!(ありがとう!)」
そう伝えると、彼は笑顔で元の仕事に戻って行った。
教えてくれた方法で食べると、香草のえぐみがまろやかになり、数分で完食してしまった。
「これで4000リエル(約150円)は破格だな」
現地の人との、温かい繋がりを感じつつ、腹が満たされた以上の充足感を感じていた。
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遅めの昼食後、少し歩いているとスーパーがあったので立ち寄った。
目当ては洗剤だった。
というのも、今日まで洗濯がしっかりできていなかったからか、若干汗疹ができていたのだ。
店内を物色していると、クメール語で表記された商品と同じくらいの、英語や中国語、日本語で表記された商品が並んでいることに気がついた。
なるほど、海外から輸入してきた商品をそのまま陳列しているようだ。
国際色豊かなスーパーに、並んでいるものを見るだけでテンションが上がってしまった。
しばらく見て回った後、手頃な洗剤を手に入れ、スーパーを後にした。
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「次はどこ行こうか」
Google maps を見ていると、近くにイオンがあるらしい。
今日はもう行きたい場所もなかったので、寄ってみることにした。
店内に入ると、雰囲気は日本のショッピングモールそのものだった。
スーパーや、飲食スペース、色々なブランドの店が入っている。
現地の人も、休みの日はこういうところに来てショッピングを楽しんだりするのかな。
そう思うと、使っている言葉も文字も違っても、同じ人であることには変わりないと思った。
僕は、スーパーで安物の菓子パンだけ買って、この日は宿に戻ることにした。
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