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社交不安障がい者が旅をする。#15

目には見えないが、確かにある「境目」。
車窓を流れていく景色の変化が教えてくれる、「こちら側」と「向こう側」の歴然とした差に、僕は愕然とせずにはいられなかった。

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日本を出て、早くも3週間が経つ。
この日、僕は約1週間滞在したカンボジアを後にし、タイはバンコクに向かおうとしていた。
移動手段はもちろんバスだ。

アンコールワットのある街、シェムリアップからバスに揺られること数分、車窓に映る景色はベトナムからここまで陸路で移動する中で見たものと似通っていた。

どこまでも続く、片側1車線の道路。
何もない平野が広がっているかと思えば、突如として中規模くらいの町や、小さな集落が見えてくる。
その町や集落には、簡素な家々や個人経営と思われる小さなお店が点在している。
先進国に慣れ親しんでしまった者からすれば、とても豊かとは思えない。
そんな先入観が頭をよぎるたびに、いやいや、ここに住む人たちからしたらこれが「普通」なんだ、と言い聞かせる。

そんなことを考えているうちに、バスはタイとの国境に到着した。
荷物を持ち、カンボジアの出国手続きをする。
来る前は、他の東南アジア諸国と比べて若干治安に不安があると聞いていたが、その実、とても温かい国だった。
この国の人々がこれからも幸せだといいななどと思いつつ、無事に出国手続きを通過した。

カンボジア側の国境から歩くこと数分、すぐにタイ側の国境検問所に到着した。
イミグレーションの前には大勢の人が並んでいる。
その中に紛れて待っていると、僕の番がやって来た。
パスポートを渡し、指紋を取る。
数秒の後、入国審査官は何も言わず入国のスタンプを押した。

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そんなことで、2回目の陸路での国境越えも、呆気なく終わった。
再びバスに乗り込み、バンコクを目指す。
夜はしっかり寝れていたせいか寝る気にもならず、相変わらず車窓からの景色を眺めていた。

タイ側の国境から走り出して数分、僕は明らかな違和感に気がついた。
目に飛び込んでくる景色が、先ほどまで見えていたものと、全く違ったのだ。
平野であることは同じだが、辺りには木々が理路整然と立ち並んでいる。
道路も2車線あるし、明らかにきれいだ。
走っても走っても、それまで見ていた町や集落にで会うことはなく、挙げ句の果てには巨大な陸橋を建設中のようだ。

さらに走ると、街が見えて来た。
ここでも、明らかな差があった。
街中に、個人経営の小さな店はおよそ見当たらなかったのだ。

「国境を超えて少し先に進むだけで、こんなに違うのか。」

それは、ここまで陸路できたからこそ判る、国と国の間にある確かな格差だった。

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出発から7時間、いよいよバンコクの街が見えて来た。

「高速もあるんだ。」

カンボジアにはなかったものにまたしても差を感じつつ、街の風景にショックを受けた。

「あれ、ここ東南アジア?」

バスは高速道路を走っている。
その高速は、街中に無造作に林立するビルの間を縫うように通っている。
ビルは、数十回建てのものから、マンションらしきものまで様々だ。

これまでフィリピンを旅したり、ベトナム、カンボジアを経てここまで来たが、その景色は僕が知っている東南アジアのそれとは、全く違った。

「ていうか、名古屋じゃん。」

やって来た場所の雰囲気は、僕にとって親しみのある街に似ていた。

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