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社交不安障がい者が旅をする。#13
午前3時40分。
眠気100%で歯を磨き、身支度を整えた。
なぜこんな時間に起きたのかと言えば、アンコールワット見学のツアーに参加するためだった。
腹を下してしまっていたが、今日は腹の調子も悪くなさそうだ。
2日間のツアー初日の今日は、アンコールワットから望む日の出を拝んでスタートという内容だった。
4時15分。
「こんな時間でもトゥクトゥク走ってるんだな」
未だ醒めない頭でそんなことを思いながらホステルのロビーで送迎を待っていると、一台のバスが目の前の道路に停まった。
降りてきたのは少し小太りで愛嬌のあるおじさんだった。
今回のツアーのガイドのようだ。
一度乗り込むと、バスは目的のアンコールワットに向かって走り出した。
バスが走っている間、おじさんは自己紹介やら今日の予定やらを説明してくれる。
だが、寝ぼけた頭で彼の癖のある英語を聞き取るのは少々難易度が高かった。
10分もしない内に、バスは停車した。
真っ暗で何も見えない中、僕はバスを降りた。
この日のツアー参加者は、僕を含め7人だった。
おじさんに続き、暗がりを歩いていく。
周りには街灯など一つもない。
各々スマホを懐中電灯にしながらゆっくりと歩みを進める。
僕は他の人の明かりを頼りに歩いていた。
ふと空を見上げると、星々が燦然と輝いていた。
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日の出を拝むための所定の位置に到着すると、既に多くの人が「ベストショット」を狙おうと陣取っていた。
僕は比較的空いている位置にスタンバった。
待っていると、徐々に西の空が白み始めた。
暗がりの中から、アンコールワットのシルエットが浮かび上がる。
手前の水面に反射した「逆さアンコールワット」も手伝って、幻想的な景色だ。
さらに待っていると、いよいよ太陽が顔を出した。
朝日に照らされ、遂に世界遺産の寺院がその全貌を表した。
「…」
いつの間にか眠気は消えていた。
そういえば、自然が作り出す風景は、いつも僕の心を動かしていた気がした。
カンボジアを出た後は、またも陸路でタイに向かう予定だ。
やりたいことはいくつかあったが、その中でひとつ気になっているのもがあった。
それは、11月にタイで行われる祭りだった。
なんでも、非常に有名な祭りで、他にはない景色が見られるらしい。
調べてみると、イーペン祭りという、チェンマイで開催される祭りで、コムローイと呼ばれるランタンを、夜空に一斉に放つのだそうだ。
昔は伝統的な祭りだったが、近年その美しさからこの祭り目当ての観光客が急増し、会場周辺の混乱や、一斉に上がる大量のコムローイによる環境被害が問題になっているようだった。
それを見て、僕は心底「しょうもな」と思った。
祭り自体を否定する気は全くない。
ただ、このイベントに参加したい人に、映える写真を撮って誰かに自慢したいという、SNSの普及によって加速したしょうもない欲求を強く感じた。
きれいな景色なら、この世界にいくらでもある。
地元にある橋から見た夕陽ですら、僕はその美しさに感嘆した。
タイのイーペン祭りには、自分の承認欲求を満たしたい人がこぞって集まってくるような気がして、旅先の候補から外した。
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日の出を拝んだ後は、おじさんのガイドを聞きながら様々な寺院を巡った。
どこも数百年の歴史を感じる建物だったが、それよりも僕の胸に引っかかるものがあった。
それは、バスで次の目的地に向かう途中に聞いた、おじさんの話だった。
「今のカンボジアの子供たちは幸せだ。
自分が子供頃は戦争で生き延びるだけで精一杯だった。」
「キャンディを与えられた子どもたちは、一箇所に集められた。
そんな風に甘いものを楽しんでいる子どもたちを、背後から一斉に銃撃した。
何かいいことがあると、常に裏があるんじゃないかと警戒しなければいけなかった。」
彼は、今のカンボジアの子どもたちは幸せだと言った。
街で見かける子どもたちは、学校に行ったり、屋台やコンビニで好きなものを買ったりしている。
確かに、おじさんが生き抜いた時代に比べれば今はかなりマシになったのだろう。
だが、都市間を移動するバスの車窓から見た、田舎町に住む人たちは、どうなんだろう。
流れていく景色を眺めているだけでも、そこには都会との格差があるように感じた。
普段日本に住んでいると、そこでの生活が自分にとっての「基準」になってしまう。
本気でこの国に住む人の幸せを考えるのであれば、まずは現地の人に今困っていることを聞かなければならない。
自分が「これが普通だ」と思い込んで持ってしまった「基準」で測ることなんてできない。
その基準で、歴史も文化も、住んでいる場所の気候も、何もかも違うものを持った人々の暮らしを測るのは、おこがましい気がした。
だから、今の僕にできるのはこの国での滞在を120%楽しむこと。
そして、それをまだこの地に訪れたことのない人に伝えることなのかもしれない。
疲れが溜まっていたのもあり、この日は早々に体を休めた。
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