米国で進む農業のデジタルツイン化
今年(2022年) 年明け直後に 2年ぶりにラスベガスで現地開催された CESはモビリティやヘルスケア分野など中々面白い内容だったと思いますが、皆さんはどんなところが気になったでしょうか?自分では農業分野(Agriculture、AgTech) の DX化がとても気になりました。特に近年 John Deere社の活動に注目しています。
米国の農場は規模が非常に大きく、見渡す限り畑という光景もよく目にします。ここシリコンバレーでも AgTechに取り組むスタートアップがいくつもありますが、農場はその広さに加えて当然人口密度が低いため携帯電話網の LTE回線も圏外になることが多く、安定した通信を確保するのが難しかったのですが、近年 SpaceXが提供する StarLinkなど衛星通信網サービスの選択肢が出てきたことで AgTechは新たなフェーズに入った感があり、米国では大規模農場の自動化が急速に進んでいます。しかし作物にはサイクルがあり、通常年に1回、カリフォルニア州のような農業が盛んな地域でも 2回程度の作物が多く、トライアルを行う機会が限られているため成果が出るまでに年単位で時間がかかり、大手企業からの長期的なバックアップを得るか、農作サイクルの短い作物に特化するなど、スタートアップにとっては非常に辛い分野です。
さて注目している John Deere社は日本ですとヤンマーやクボタといった企業と同じ業種だと思いますが、Chicago市郊外のイリノイ州とアイオワ州の州境、ミシシッピ川南側の Moline市に本社を構える 1837年に創業した、主に農機やガーデニング、建設機器の製造を行っている企業です。サステナビリティやイノベーションにも積極的に取り組んでおり、シリコンバレーをはじめとした多くのスタートアップの支援や協業も活発に行っています。1990年台後半に先進的なテクノロジーソリューションとプロセスを開発する、データサイエンティストとソフトウェアエンジニアで構成される社内イノベーションハブ Intelligent Solutions Group(ISG) を設立し、インテリジェント農業機械の開発やデータ解析と高度な自動化を中心とした最先端のものづくりを展開しています。近年ではドローン開発や自律型農業ロボット向け AI、コンピュータービジョンのソリューションを開発するシリコンバレーのスタートアップ Blue River Technology社を買収し、ハイテク機械メーカーから AgTechイノベーターへと進化しています。
その John Deere社が CESの開会期間中に自律制御型電動トラクターの市販に向けた量産を開始、モデル Deere 8Rを 2022年後半に市場投入する計画を発表しました。トラクターをタブレットやスマートフォンで制御・モニターが可能で、必要に応じて爪で掘る深さや走行速度を変更することもリアルタイムで可能のようです。自動制御技術は昨年(2021年) 8月に買収した、農業用トラクターの自動化やフリート管理を中心としたプラットフォームを開発するシリコンバレーのスタートアップ Bear Flag Robotics社の技術などが使われているようです。
冒頭でも触れましたが、近年米SpaceX社の StarLinkや 英OneWeb社、米Amazon社の Project Kuiperなど、高度 200kmから 800kmほどの低地球軌道(LEO: Low Earth Orbit) 上に多数の小型通信衛星を打ち上げ、地球規模でブロードバンド サービスの提供が始まっており、急速に地球規模のインターネット ネットワーク化が進んでいます。AgTechだけでなく様々な分野において DX化が加速され、GPSのように地球規模のサービスにワクワクします。