1枚の写真を制作するのに3年もかかってしまった、その記録。 "Light Sculpture"
丸山です。
先日、ウェリントンのビクトリア大学で「Light Sculpture」プロジェクトを紹介する機会を得ました。技術的な内容が多かったのですが、思いのほか好評でしたので、内容を一部整理して、こちらでもご紹介したいと思います。
水を撮ることの難しさ、面白さを感じていただければ幸いです。
Light Sculpture
Have You Ever Really Seen a Rainbow?
As I zoomed in, I realized what was there. The sunlight in the water droplets warps, reflects, and disperses, showing us the rainbow.
虹を見ると、なんだかラッキーで幸せな気分になりますよね。
しかし、私達は、実際には一体何を見ているのでしょうか。
水滴ひとつひとつの中に、色があり、その集合体が虹を形成しています。
私は、肉眼では見ることのできない美しさがそこに存在すると思っています。この作品は、それを表現するための試みです。
遠くから眺めると虹。
近づいてみると、そこに隠された美を発見できます。
私は水をテーマにした撮影が好きで、得意だと思っていました。
このアイディアを思いついたとき、3カ月で完成するものと予想しましたが、実際には3年もかかってしまいました。
■Water Sculpture 水の写真の中に色を発見
これは、10年以上前に制作した「Water Sculpture」という作品で、Light Sculptureのインスピレーションとなったものです。
彫刻に見えるように、シャープでブレていない影がでるようにライティングしました。
太陽光のような点光源で水を撮影すると、水玉の中に色が現れることがあります。当時は、その色がどこから来ているのか気にも留めていませんでしたが、後になって、これが虹の見える原理だと知りました。
それを使って作品を作ってみようと思ったのです。
■虹の見える原理
知っているようで知らない真実。
この図は、虹の原理を示したものです。
水滴に入った光は、裏側で屈折・反射し、表側から出るときに再び屈折します。光が分光して色が見えます。
1回反射すると主虹になります。
入射した光が、2回反射すると副虹になります。
これは弱い光で、色の順番は逆になります。普段見ている虹もよく見ると、外側にもうひとつの虹があるのに気付きます。
14世紀、Theodoric of Freibergが、虹の色について行った科学実験を紹介した絵本。
■制作過程
・太陽光でのテスト
原理どおり色が現れるのかどうか、太陽光で確認しました。
そして、スタジオでの撮影を開始しました。
しかし、解決しなければならない問題がたくさんあることに、すぐに気づきました。
・スタジオ撮影での、主な3つの問題点
・1.【水滴の問題】 ある程度の大きさと完全な球体
写真に写すためにはある程度の大きさの水滴が必要で、虹を形成するには完全な球形でなければなりません。
純水を使いたかったのですが、完全な球体を得るために、グリセリンを30%ほど混ぜました。
ポンプで液体を流し続けるので、水だけが蒸発し比率が変わり、屈折角も変化します。虹の発生する位置がずれます。そのため、水とグリセリンの比率を常に調整する必要がありました。
・2. 【ストロボの問題】 閃光時間の短さとパワー
直径3mmの水滴が高速で落下しているので、普通のストロボでは像がブレてしまいます。光源が大きいと分光しない。強力で、できるだけ小さく、かつ閃光時間の短い光源が必要でした。
ストロボの種類
当時、可能性のありそうなストロボはすべてテストしました。産業用ストロボや、1つのヘッドに2つのチューブを搭載したもの。
光源の大きさ
閃光時間
線が描かれた円盤を高速で回転させ撮影しています。閃光時間の短いことで知られるbroncolorやProfotoでも、今回のプロジェクトには適さないことがわかります。
ストロボ光に含まれる色
しかし、市販品で最適なストロボを見つけることができませんでした。
使用ストロボ
最終的には、メインライトには、ニコンのクリップオンストロボを6灯束ねたものを使用しました。
市販のままでは、閃光時間が長すぎたので、プログラムに手を加えています。eBayで多くの種類のストロボを購入して、プログラムをハックできる機種を探しました。最適なストロボを見つけましたが、製造中止のためeBayで世界中から取り寄せました。電子接点にカスタム制作のソケットを接続し、Arduinoで発光時間や出力を制御しています。
背景用には、イギリス製のLEDライトVelaを使用しました。
閃光時間は非常に短かく、1 / 2,000,000s
・3. 【 画質の問題】 大きなプリント&詳細も重要
プリントに近づいて見たときに、水玉がきれいに見える解像度が必要です。どのカメラ、レンズを使うかテストしました。
先ず、実際にプリントして、最終的なプリントのサイズとプリント上の水玉の大きさを決めました。
プリントサイズ:3m x 4.5m
プリント上の水玉のサイズ:1.5cm
画角の決定
通常の被写体では、パースを考えて、被写体までの距離を決めますが、虹はどの距離から撮影しても同じなので、虹のどの部分を切り取るかで画角(レンズの焦点距離)を決めました。
虹を立体的に表現するために、空間の中で水玉の存在する分量を調整して、虹が手前から後ろに弧を描くようにしました。
自然界の虹は、ほとんどの場合、平面的に見えるはずです。
撮影機材の選考
フィルムカメラ テスト
フィルムのトーンは気に入りましたが、解像度は充分ではありません。作業効率も考え、フィルムカメラを使用することは諦めました。
デジタルカメラ テスト
Phaseoneの100Mでも画質が足りないので、分割して撮影することにしました。
感度とレンズ テスト
被写界深度 テスト
ローリングシャッターテスト
定常光を使い、高速のシャッターを使うことも考えました。
しかし、当時の電子シャッターでは、ローリングシャッターの歪みが大きすぎました。
分割撮影 テスト
最終的に使用した機材
光量が足りず、ISO1600で撮影したため、ノイズが目立ち、Neat Imageでノイズを取り除いています。
プリント
・撮影データシート
1ページが1セクションです。
ストロボの光量も変えて撮影しています。
・Photoshopで合成
Photoshopのデータです。普段はMacを使っていますが、このファイルのためにWindows PCを購入しました。
ファイルを開くだけで30分くらいかかります。
1年かけて少しずつレタッチしました。
37,686px x 26,697px 1,006,103,142px
ファイルサイズ:388.4G
■展示
これほど思い入れのある作品ですが、大きすぎるため、所属ギャラリーでは展示してもらえていません。私のスタジオと、メタバース空間でのみで展示されました。現在、展示の機会を探しています。
■Instagram
他の作品のビハインドシーンも少し投稿しています。是非ご覧ください。
https://www.instagram.com/shinichimaruyamastudio/