見出し画像

小鳥と新月と日記《12月14日(土)》

12月14日(土)

午前7時、2回目のアラームの音で目が覚めた。
今日は落合さんがお休みをくれたので、久しぶりに完全オフの日だ。
通知の確認とSNSのチェックをして布団から起き上がる。いつもよりすっきりとした目覚めに、少し嬉しくなる。ぼやけた視界で眼鏡を探し当て、ベランダに出て寝起きの煙草を一本。冬の朝、薄いオレンジ色が乗る建物を見ながら吸う紙煙草は太陽の味がする。

音楽を流しながら洗濯機を回し、お米を研ぐ。お米はすぐに炊かずに1時間くらい置いておく。そうすることで、ふっくらとした美味しいご飯が炊ける。これは子どもの頃にはいつの間にか身についていた習慣だ。わたしは炊飯器は持っていないので、普通の鍋でご飯を炊く。
ちなみに水の量は測ってもいいけど、お米に人差し指をつけて、そこから第一関節くらいまで水を入れるとちょうどいい柔らかさでお米が炊ける。これは居酒屋のキッチンでアルバイトをしていた時に、料理長から教えてもらったことだ。

前日のラヴィット!を見ながら朝ごはんを食べる。テレビがないから、ラヴィット!はTVerの見逃し配信をPCで毎朝見ている。今日の朝ごはんは先日、小鳥書房の常連さんがくれたりんご、それと温かいルイボスティー。りんごは皮を剥くのがめんどくさいので、いい感じに切って皮のまま食べる。甘くて美味しかった。
朝ごはんを食べたら、シンクから溢れ出しそうな食器や調理器具を洗って、昨日取り入れてそのままだった洗濯物を畳む。ちょうどお米を水に浸して1時間くらいたったので鍋に火をつける。ピーッピーッピーッと洗濯が終わった合図が聞こえたので洗濯物を干す。今日は部屋干しだから、柔軟剤の匂いが部屋の中に広がって気分が落ち着いた。
そのまま部屋の掃除を始める。書類の山を整理したり床をクイックルワイパーで拭いたり、本棚の整理をする。一旦休憩、と電子タバコを吸う。電子タバコは部屋で吸えるので、ついつい本数が増えがちになる。お医者さんから煙草の本数を減らすように言われているから気をつけたいところではある…。
いつの間にかご飯が炊けていたので、サランラップで小分けにして冷凍する前に冷ます。その間に音楽を聴きながら昨日の日記を書いていく。文章考えているとお腹が空くから、お昼ごはんを食べる。卵とさっき炊いたご飯でたまごごはんにした。たまごごはんには牡蠣だし醤油が一番合う。お笑いを見ながら食べると、ひとりでも楽しくごはんが食べられるから寂しくない。
ごはんを食べ終わって日記の続きを書く。15時半、無事に書き終わって外に煙草を吸いに行くと、微かに建物がオレンジ色に染まっていた。朝見た景色と似ていて時間が止まっているようだった。

今日は夜から七月堂という出版社もしている本屋さんで「ことばあつめの夜」というイベントがあるので、早めの夜ごはんを食べる。パスタは常備しているので、3種類のソースの中からジェノベーゼソースを選ぶ。ダイソーで買った、電子レンジでパスタを茹でられる容器は重宝している。発明してくれた人、ありがとう。
ごはんを食べ終えたので、イベントに行く前に読んでおきたかった「AM 4:07 vol.2」を手に取った。この本は2024年12月1日の東京文学フリマの七月堂さんのブースで買ったもので、すべて手製本らしい。本を開いて一番最初の「創刊にあたって」という文章を読んですでに、この本を手に取って良かったなと思った。読み進めていくといろんな方が寄稿していて、ページをめくるごとに変わっていく文体が楽しかった。vol.1を買ってなかったことが悔しい。もう売り切れてしまっただろうか。名残惜しい気持ちで最後のページを読み終え、本を閉じる。
そろそろ準備を始める。シャワーを浴びて化粧をいつもより丁寧に、髪を乾かして服を着替える。最後に指輪とピアスをつけて家を出た。

外はもう真っ暗で風も冷たい。マフラーをしてきてよかったなと思う。いくつかマフラーは持っているけど、今日はくすんだ赤が可愛い一番のお気に入りにした。今季初マフラーだ。
千歳烏山駅までバスで行き、電車に乗って下高井戸駅まで、そして世田谷線に乗り換えて宮の坂駅についた。七月堂さんは豪徳寺にあるから山下駅で降りる人が多いと思うけど、わたしは2023年の夏まで宮坂に住んでいたので、やっぱり住み慣れた町で降りたいと思う。それに山下駅から行くのと宮の坂駅から行くのはほとんど時間的に変わらない。
駅前のファミマでミルクティーを買って、近くの世田谷八幡宮へ行く。ここにもよく来ていた。懐かしさを感じながら、お辞儀をして鳥居をくぐると、土と枯れ葉の匂いと共に銀杏の匂いが漂ってきた。自分以外誰もいない神社は落ち着く。イチョウの葉が地面を覆っていて、黄色い参道ができていた。明るいうちに来たらこの黄色い道は、木々の間から差し込む陽の光を受けてすごく綺麗なんだろうなと思う。
階段を登って左にある手水舎で身を清め、本殿で今年の感謝と本屋さんになることを報告して、「来年もよろしくお願いします」と言って裏口から世田谷八幡宮を後にした。

七月堂さんにはイベント開始時刻よりも早くついたので、店内を見て回った。七月堂さんは詩集を主に扱う本屋さんでもあり、詩集専門の出版社でもある。わたしは詩を書いているので、宮坂に住んでいた頃はよく通っていた。わたしの私家版詩集も七月堂さんに置いてもらっている。代表のGさんはとても優しくて、わたしが本屋さんを始めることを伝えた時は応援してくれた。
19時半になって、外で受付を済ませる。今日のイベントは「ことばあつめの夜」と言って、閉店後の明かりの消えた本屋さんで、心に浮かんだ言葉を書き記す、というものだ。そして、集まったことばたちは「紙とゆびさき」のTOさんの手によって本になる。今までにも何回か開催していたのは知っていたけど、なかなかタイミングが合わなくて行けなかった。今回はイベントリニューアル後の第一回目ということで、すごく楽しみだ。

受付でランタンをひとつ受け取り、真っ暗な店内に入る。夜の本屋さんと言っても、ただ夜に行く本屋さんとは違って、特別な時間がそこにはあった。心地よいBGMを遠くに感じながらゆっくり見渡すと、ランタンの明かりが柔らかく本棚を包む。明るい時には見えなかったひとつひとつのことばたちが、ふわっと浮き出してくるようだった。
しばらくランタン片手に歩いたり立ち止まったりしていると、ふと、ことばが浮かんできた。忘れないうちに、と思ってわたしは静かにことばを書ける場所を探して外に出た。お店の中だけじゃなくて、外にもことばを書くための机や椅子がある。投稿用紙を一枚ちぎって、一番端の机に向かった。TOさんからカイロをもらい、お店のスタッフの方が電気ブランケットを貸してくれた。みんなの優しさがとても温かい。それからはランタンの明かりを頼りに、寒さも忘れて夢中で詩を書いていた。かじかんだ手でぎこちなく書いたことばたちは、不恰好で愛おしい。それでもやっと書き終わり、店内にある投稿ポストにことばを入れた。TOさんが言うには、わたしは2時間も外でことばを考えていたらしい。なるほど、だからか、Gさんやスタッフの方たちが声をかけてくれていた。心配されていたのかもしれない。ご心配おかけしてすみません…。

外の受付で、TOさんがこの日のために書き下ろした短編小説を買って、今日のことばたちが集まる本を予約する。出来上がるのがすごく楽しみだ。みんなはどんなことばが浮かんできたのだろうか。
時計の針が22時に差し掛かろうとしていたので、Gさんにあいさつをして、ほくほくした気持ちで七月堂さんを後にした。
家に帰り着くと少しお腹が空いていたので、何の躊躇いもなく夜食を食べる。どん兵衛のきつねうどんは、冷えた体に優しく沁み渡った。

いいなと思ったら応援しよう!