メカちゃん6 あなた運がいいのよ(4)
おばあさんに守られたメカちゃんはおばあさんの手を引いて、橋を渡り終えた。橋のたもとを左に折れ、川に沿って歩く。
グーグルマップの明るい光が、二人をおばあさんの家へ導く。
「こんなに遅くなっちゃったわ。きっと娘に叱られてしまうわ」
「娘さんがいらっしゃるんですね」
「そう。娘は厳しいけど、優しいの。優しくてね、でもきっと叱られる」
「優しい娘さんがいていいですね。るりさん宝物を生んだですね」
マイナンバーカードで個人情報をゲットしたメカちゃんがおばあさんの名前を呼ぶが、おばあさんは意に介さない。
「そう、宝物なの。娘はほんとうに優しいの。とても厳しいけどね、すごく優しいの。それとね、うちには孫が二人いるんですけど孫まで優しいの。
私には二人姉がいて、やっぱりどちらも私にすごく優しいの。
兄は亡くなってしまったのだけどね。
私は5人兄妹の末っ子だからずっと甘えてばかりで、みんな優しいの」
「いいですね。宝物いっぱい」
「そうなの。ありがたくて」
「大丈夫ですか?」
声に振り向くと、自転車に乗った女性が私たちの背後にいて片足を地面に下ろし軽く息をついている。
5分前、メカちゃんたちに「どうかしましたか?」と声をかけてくれたエプロン姿の女性と同一人物だと気づいた。
さっきは見当たらなかった自転車にまたがっている。近所に住んでいるのだろう。
「なんか大丈夫かなって、思って。道わかりそうですか」
あまりに二人がゆっくり歩くので、目標を見失ったのかと心配になったのかもしれない。
川向うから自転車に乗って、ここまで走ってきたのだ。
「ありがとうございます。あちらのほうみたいです、もうすぐです」
「ならよかった」
女性は笑って自転車の向きを変え、もと来た道を戻っていった。
「まあ、ありがとうございます。ご親切にあなた、ここを巡回されてらっしゃるの?」
るりさんのお礼は、遠ざかる自転車には届かない。
るりさん、エプロンの方はきっとうろうろしている私たちを川向うからずっと眺めていて、ついに心配になって追いかけてきたんですよ。
メカちゃんは心のなかで言った。
おばあさんは見知った道とついに再会を果たしたらしい。
はっきりした足取りで、家に向かって歩き出した。
すごいなこの人、赤の他人の優しい人たちをつぎつぎと引き寄せる。
上弦の月の引力か、るりさんの万有引力か。
メカちゃんにはわからないが笑えてくる。
「あなた、運がいいのよ。きっといいことありますよ」
さっきるりさんがメカちゃんに言った言葉は、るりさんの自己紹介みたいだった。