[第4回]保育園の保護者会 ~女性グループのなかに入りづらいパパたち~
こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年4月号』に掲載されたものです.
【はじめに】
『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
子育てを頑張りたい,でも,世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」に戸惑っている……そんな迷える男性にどう向き合ったらいい?
渡邊先生が紹介してくださる事例をみながら,一緒に考えていきましょう!
【渡邊大地先生 プロフィール】
株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。
子育て世代からよくあがるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
今回は,育休取得に苦戦するパパとママについて考えてみたいと思います。
恩返しをするために保護者会役員に
わが家の末っ子(第3子)が小学校に入学しました。ついにわが家から保育園児がいなくなってしまいました。私の生き甲斐でもあった「保育園の送り迎え」がもうできないと思うと,とても寂しいです。
思い返せば,長男が2011年に保育園に入園してから,長女,次女と全員が保育園にお世話になり,途切れることなく12年間,保育園生活とともにあった渡邊家です。一時保育も含めると,全4か所の保育園にお世話になりました。そのなかで私は,保護者会役員を4回(4期)させていただきました。そのほか,通称「卒対(そつたい)」とよばれる,年長クラスだけの特別な卒園対策役員も2回させていただきました。ですから,ほぼ2年に1回は何かしらの保護者会活動をしていたことになります。
通常,保護者会活動は,是が非でも避けて通りたい方が多いだろうと思いますが,私はあえて「できる限りやろう」と思って率先してやってきました。長女,次女のときには保護者会長もさせていただきました。
なぜそんなに積極的だったかというと,理由は単純で,保育園に恩返しをしたかったからです。
長男が保育園に通い始めた当初は,送り迎えは妻の担当でした。私は保育園生活のことなどまったく考えず, 毎日の登園準備なども妻任せでした。それが,妻が第二子妊娠中に緊急入院となったことで,私が送り迎えをすることになりました。
いやだな~面倒だな~と思いながら始めた送り迎えでしたが,園長や担任の先生方から「お母さんがいなくて大変なのに,お父さん本当に頑張ってます」「困ったことがあったらいつでも言ってください」「延長保育,土曜保育の必要があったら,直前でもなんとかするから,遠慮なくお仕事してくださいね」と励ましてもらい,徐々に保育園に対する考えを改め,信頼を寄せるようになりました。
また,当時の長男の担任の先生(現在では,園長になっておられます)には,父親としての子どもへの接し方を何度も教えていただきました。
いわば,保育園に「親にしてもらった」と思っているわけです。そんなことがあってからというもの,何とかして保育園に恩返ししたいと思うようになりました。そして,保護者会に参加することで保育園と保護者の関係を良好に保てるのではないかと考えたんです。
保育園活動にかかわりたがらないパパ
かつての私がそうだったように,保護者のなかには保育園を「サービス業」だと思っている人もいます。保育士に高圧的な態度をとったり,思いどおりにならないことに文句を言ったりする人もいます。送り迎えをしながら,そんな保護者を目の当たりにして,「こんなに先生方は保護者や子どものために頑張ってくれてるのに……」と思うようになり,その関係性をよくすることができないかと考えたんです。
実際に入ってみた保護者会はなかなか強烈でした。もちろんその年の役員の顔ぶれによって雰囲気の差こそあれど,ある年の保護者会など,園からの要望は完全に蹴る,という暗黙のルールを敷いていました。要望の内容は関係ないのです,「園からの要望である」という理由だけで,保護者会としては反発する,という有様です。
ですが,これこそまさに私が保護者会に入った意味があるというもの。反発派の急先鋒とコミュニケーションを密にとり,「保護者会の意に沿って動いている」と見せかけて,ちゃんと園の意向に寄せていく工作をしていました(笑)。
過去に 4 期保護者会役員を経験した私ですが,4 期とも,メンバーはほぼお母さんでした。10~12 名程度の役員のうち,パパがおもに役員会議に出席するのは,多くて 2 家庭。1 年間,私以外にはパパはまったく会議に参加しなかった年もありました。
事情はわからなくもないです。理由はおよそ,こんなところだろうと思います。
●女性ばかりで男性が少ないから
●そもそも保育園のことは妻に任せているから
※特に妻は任された覚えはないが,夫のなかでは任せたことになっている
●役員会議の時間が仕事と重なって行けないから
※ママも条件は同じですが……
●別に,うちが休んだって会議の運営に支障はないだろうから
●会議そのものよりも,人間関係形成や頻繁に LINE 等でやり取りするのが面倒
特に 5 番目の「頻繁なやり取り」は本当に大変でした。初めて会長をしたときなど,ほかのママ達から総スカンを食ったり,「連絡が多すぎてわずらわしい」と言われたり……。「役員をやらされている」と感じている保護者は往々にして非協力的です。
それに,1 年間役員を担当するのは,なかなか大変ですよね。そうでなくても,町内の役員がある方もいるでしょうし,うちのように小学校の PTA を妻,保育園の保護者会を夫,というように,すでに手一杯の家庭もあるでしょう。
私が十年前に初めて保護者会に入ったきっかけは,先ほども紹介したクラス担任から「お父さん,役員さんとか似合うと思うな」とサラッと言われ,その気になってやってみたというものでした。でも今は,そんな声掛けも難しいのでしょうか。保護者会について保育士が何か声掛けをしようものなら,保護者から睨まれるか,園長から「家庭の事情に介入するな」と叱られるか。いずれにせよ積極的には触れづらいものがあるかもしれません。
保護者会活動はかっこいい!
なかでも「保護者会長」というのは,だれもがやりたがらない役職ですよね。責任重大な感じがしますし,役員会議を欠席できないですしね。
ところが,私が会長を務めた翌年,いともすんなり次期会長が立候補で決まったことがありました。私の会長姿があまりにも輝いていて,ぜひ継ぎたかった……わけではなかったようで。
会長さんって,保育園の各行事で保護者代表挨拶をするんですね。私も入園式,夏祭り,運動会,などなど挨拶に立っていました。そうしたら,運動会後に,園児が運動会の思い出を絵に描いたなかに,私のことを描いた子が何人かいたんだそうで(笑)。保育士以外の大人がマイクをもってしゃべっている姿って印象に残るんでしょうかね。
子どもたちがかけっこしている横にマイクをもった私がいる,という素敵な絵を見せてもらいました。
それを見たある保護者が,こんなに子どもの思い出に残るなら自分も役に立ちたい,と思ったそうで,次期会長に立候補してくれた,というわけです。
もちろん,私もすごく嬉しかったです。
保護者会役員って,敬遠される場合がほとんどだと思うので,そこで無理にパパを巻き込もうと思っても難しいですよね。特に保育士さんなど園側のスタッフから働きかけをするのは厳しいです。
そんなときは,いま活動している役員さんを評価してあげたり,子どもに積極的に「○○ちゃんのパパ(ママ),みんなのためにお話し合いしてくれて,かっこいいね」などと伝えてほしいです。保育士や子どもから誉められることは,保護者にとって大きな自信になります。
今活動している役員が充実感を感じることができれば,次の役員決めのときにも,そのよさを伝えてくれます。子どもにいいところ見せたいパパはたくさんいますから,行事で活躍しているパパを誉めれば,次は自分が,と思う人が出てくるはずです。
保護者会活動をするパパ・ママはかっこいい!
そんなふうに応援してもらえると,少しずつ空気が変わってくるのではないでしょうか。
さて,園児がいなくなったわが家,いよいよ私も未体験の PTA 活動をしなければいけませんね!
本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。
【おわりに】
今回の記事は,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!
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