うつ病を治すには?~治療方法について解説~
うつ病は早期発見・早期治療が大切
厚生労働省によると、平成29年に病院を受診した患者のうち、精神疾患が主な理由である人は約390万人だったとされています(注1)。このうち、うつ病が分類されている気分障害は約125万人でした。患者数は年々増加しており、15年間で1.8倍に増えています。
うつ病は心身のエネルギーを低下させ、様々な病気の原因や、悪化させる要因ともなりえるだけではなく、自殺にもつながりかねない、決して軽視できない病気です。
ですがうつ病は寛解(症状がほとんどなくなり、穏やかな状態になること)する病気です。適切な治療を早い段階で受けることでうつ病で苦しむ期間は短くなり、以前の生活に戻ることができます。
うつ病の治療は休養、薬物療法、精神療法の3つが重要とされていますが、近年では脳に直接アプローチする治療方法も確立されています。今回はこれらの治療方法について紹介していきます。
うつ病の治療の3本柱
➀休養
うつ病が発症した際には仕事などを休み、心身に負荷がかからないようにすることが重要です。うつ病発症のメカニズムは完全には解明されていませんが、ストレスが原因となって、ホルモンバランスの乱れ、記憶をつかさどる海馬の萎縮、神経細胞新生の抑制などが生じ、発症すると言われています。そのためストレスの少ない環境で心と体をしっかりと休ませる必要があるのです。
しかし患者さんのなかには真面目な性格や責任感の強さから、「自分だけ休む」「何もしないで過ごす」ことに抵抗を感じてしまう方もいらっしゃいます。そういった方の場合は主治医や心理師に相談し、穏やかに過ごせる方法を考えていきましょう。また、「家にずっといると罪悪感でいっぱいになる」という方の場合は入院して治療に専念することも1つの方法です。
②薬物療法
休養でストレスから離れながら薬物療法を行っていきます。うつ病は脳の病気ですので、休養だけで寛解を目指していくのは難しいのが現実です。お薬の力を借りながらゆっくりと症状を無くしていきましょう。
うつ病に対しては抗うつ薬が処方されます。乱れたホルモンバランスを整え、症状を緩和していきます。またうつ病の症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入薬、気分安定薬などの薬が処方されることがあります。主治医の先生と相談しながら治療を進めていきましょう。
薬物療法は定期的に薬を飲むことで効果が表れます。「調子が良いから飲まない」「飲み忘れたから次に多めに飲む」「効果が感じられないから飲まない」このように服薬が不定期になると薬の効果が得られない場合があります。
また薬の種類や量は主治医の判断のもと決められています。自分で薬の量を勝手に変えたり、飲むのをやめたりといったことは避けましょう。わからないことや不安なことはすぐに主治医や薬剤師に相談してください。
③精神療法
うつ病は寛解する病気ですが、うつ病の原因となったストレスに対処しなければ再発のリスクがあります。精神療法を通してストレスへの対処法を学び、自分自身についてより深く理解することでうつ病の再発防止につなげることができます。
うつ病に効果的な精神療法として、認知行動療法があげられます。認知行動療法とはその人のものの受け取り方や考え方に働きかけ気持ちを楽にする精神療法です。
具体的には、無意識的に「きっとうまくいかない」「自分はどうせできない」などと思い込む「考え方の癖」に目を向け、それがどの程度、現実と異なっているのかを考えていくことで、「自分にもできることがある」「思い込みだったかもしれない」などと思考のバランスを調整していきます。
脳にアプローチするうつ病治療
うつ病治療の新たな選択肢として、脳に直接働きかける「TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)」が注目されています。TMS治療は、うつ病の症状が薬物療法だけでは改善しない患者に対し、新たな希望をもたらす治療法です。
TMS治療は、磁気を用いて脳の特定の部位を刺激し、神経の働きを正常化させることを目指しています。この治療法は、薬物療法に比べて副作用が少なく、効果が現れるまでの期間が短いとされています。また、外来での治療が可能で患者の日常生活に影響を与えにくいことも大きな利点です。治療は通常、1回20〜40分程度のセッションが数週間にわたって行われ、徐々に改善が期待できるとされています。
しかし、TMS治療にはいくつかの課題があります。治療の効果には個人差があり全ての患者に有効ではない場合があること、治療費が高額であること、TMSを行える施設が限られているため、利用できる患者が限られるということがあげられます。
TMS治療はうつ病治療の新たな柱として、薬物療法や精神療法と併用することで、患者の症状改善を目指すことが可能です。今後の研究と治療環境の整備が進むことで、多くのうつ病患者がこの新しい治療法の恩恵を受けられることが期待されています。
最後に
うつ病は、私たちの心と体に深刻な影響を与える病気ですが、適切な治療とサポートを受けることで、回復へと向かうことができます。従来の休養、薬物療法、精神療法に加え、脳に直接アプローチするTMS治療のような新しい選択肢も登場しています。これらの治療法を組み合わせることで、患者それぞれの状態に合った効果的なアプローチが可能となります。
うつ病は脳の病気であるため、自然と良くなるものではありません。普段の自分と比べ違和感を持ったり、周囲の人から違った様子を指摘されたりなど、異変を感じた際にはすぐに医療機関を受診してください。
脚注
注1)厚生労働省(2022)「(参考資料1)参考資料」, ( 第13回「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」)(2024.8.10参照)
参考文献
・独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所(2013)『精神保健研究』(2024.8.10参照)