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【怖い話】山観音

地元の友達Hくんから、昔不気味な事があったって聞かせてもらいました。


軽音サークルで同じバンド組んでたNってやつに聞いて欲しい話があるって持ちかけられて。

2年生の頃だったかな。モラトリアム真っ盛りだったから、そりゃあもう無敵な訳よ。

だから相談事なんて、金か単位の為のレポートか女の3択だよね。

だから、おん、どうしたって返事したら、
「困ってるわけではないんだけどね、ちょっと不思議な事が起きててさ」って言うのよ。

え、なになにって食いついたらさ、
「五百円玉貯金がすごく進んでる」って。

うん、俺も最初聞いたときは、ぽかーんとしたよ。

良いことじゃん、自慢かって。

それがなんと、不気味になるくらい捗ってるっていうのね。

なんとなーく、感覚で五百円玉が財布に何枚あるかって分かるじゃん。あいつ、硬貨の中では最強だからさ、あるのとないのじゃ安心感が違うから、なんとなく把握してるじゃん。みたいな事をいうのね。

そんで一日の終わりに、財布にある五百円玉を取り出してあられ缶みたいなのに入れてるらしいんだわ。

その取り出すときに、あれ、こんなに財布にあったっけってなる事がすごく多いんだって。

一枚しかないと思ってたら、二、三枚あるとか。
今日は体感で一枚も入ってないだろなと思ってたのに入ってるとか。

まあ嬉しい誤算ってやつだよな。

けどさ、その誤算の頻度が多すぎるし、なんなら缶の中を計算してみたら、始めて二ヶ月もしてないのに、ざっくり月のバイト代以上に入ってたって言うんだよね。

いやいや、月収の半分以上が五百円玉になることあるかって。

ていうか貯金箱に入れて財布の中をリセットしてんだから、毎日体感より多く入ってるのもおかしいし、って嬉しさが不気味さを超えたような表情でつらつらと語ってくれてて。

それは、確かにちょっと不思議だなあ、って相槌打って聞いてたんだけど。

まあでも、別に増える分にはいいんじゃねえの、やましいこともないんだろ、って言ったんだよ。
普通に羨ましかったし、さして面白味もなかったしな。

そしたらNがさ、「やましいことには、なんとなく心当たりはあるなあ、それかどうかは分からないけど」って言うのよね。

え、何だよ、心当たりあんのかよってなるでしょ。

とりあえずそれ聞かせてくれよって言ったらさ。

「まあちょっと俺んちで宅飲みしよ、今から。そん時喋る」

って口を濁したから、あー酒入ってないと言えない系か周りの目を気にする系かってなんとなく察してね、二人でコンビニ行って酒と煙草買って、財布忘れたっていうから一旦俺が立て替えてNの家向かったのよ。

家着いて乾杯して、少しだべって酔いが回った頃に、「そんで、心当たりってのは何したの」って斬り込んでみた。

そしたら、「山観音に登ったときに、供えてある小銭を盗った」って言うわけね。

山観音っていうのは、俺らの大学のそばにある名前もないような小さい山のてっぺんにある観音像のことなんだよ。

ほんと山という程の山ではなくて、どっちかと言うと高い丘って言った方が正しいかもしれない。

頂上までは舗装されているとは言い難いんだけど、一応通路があって、膝よりも少し上に来るくらいの岩の段差を登っていく感じ。だから昼間とかだと年寄りとか運動がてらに拝みに行ってたり、小学生も麓の公園で遊ぶような何でもないとこ。観音像にまつわる逸話とかもあるかどうかすら知らなかったし。

そんなとこにNが登りに行ったんだって。

夕方に一人で、なんとなくずーっと気になってたから、大学終わってバイト始まるまでの時間に、行ったんだと。

登るのに15分もかからなかったって言ってたかな。
ほんとに高くないからさ、近くの道路からも目視できるくらいの高さと大きさなんだよね。

頂上着いて、3mくらいの山観音を見上げて、近くで見ると意外とでけえなって思いながら、一服しようとして煙草を取り出したら、空だったんだって。

しくった、って思ったらしいよ。
お前煙草吸わねえから分からんかもだけど、なんかやり遂げたときの煙草ってなんとなく吸うときより美味いから、一応見晴らしのいいとこ登ったら達成感でめちゃくちゃ吸いたくなるわけ。

更にNは、その日も財布忘れて家を出たらしいんだよ。
結構な割合で財布を忘れるやつなんだよな。
だから帰り道でも買えない、一回家帰ってまた出てコンビニ行くってなったらさすがにそれは怠すぎるって、小銭入ってないかポケットまさぐってたら、山観音の台座のとこに供えらた小銭の中に五百円玉があったらしくてさ。

罰当たりだけど、観音様ありがとうって思ってその五百円玉盗ってコンビニで一服したらしいんだ。

それがNの言うやましいことだった。

でもさ、いやそれは関係ないだろって俺言ったんだよ。

だって、小銭盗ったやつに罰が当たるのは分かるけど、五百円玉が増えるなんて良いことが起こるのはおかしいじゃん。それこそ五百円玉が気付いたら無くなってるって言う方がまだ筋通ってるよな。

そしたらNも、うーん、確かにそうなんだよなあって腕組んで唸ってさ。

ふと「あ、そういや立て替えてもらった金渡すわ、五百円玉でいいか」って言ってテレビの裏からあられ缶持ってきて。

パカって開けて、ほい1,500円ね、って缶からテーブルの上に取り出したのがさ。


石三つだったんだよ。


は、こいつふざけてんのかって思って顔見たら、ものすごく真面目な顔、というか当たり前な顔して、石を差し出してる。

そのまま平然とNが、「ついでに五百円玉入れるか」って取り出した財布の小銭入れがパンパンでさ。

「あれ、やっぱまた入ってるわ。今日なんて財布忘れてったのになあ」
とか言いながら、なぜか小銭入れから石ころ一つ取り出して、あられ缶にカランって放る。

まじで意味わからんくてさ。缶の中を覗いたら、下の方には五百円玉が見えてたけど、上には石ころびっしり入ってて。

しっかり罰当たってんじゃねえか、ってぞっとして「とりあえず五百円玉貯金は続けとけ、あんま使わないようにしろよ」みたいな事言って、逃げるように帰った。

それからはあんま関わらないようにしてたけど、まだ石ころが五百円玉に見えてるのか、財布に勝手に石ころが入ってるのかは、わからん。

ずーっと他人と価値観ずれたままだったら、きついよな。


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