【恐い話】呪物
知り合いから聞いた話なんですがね
昔々、というほどでもない昔に巷で変な新興宗教が流行ってると教えてもらったんです
いわゆる淫祠邪教
まあ、そんなもの大概変じゃないか、と思われる方も多いと思いますが
そりゃあもう、輪をかけて変だったそうで
あ、私の滑舌が悪く聞き取りづらかったらすみません
なんせ歯が何本かないもので、へへ
なんでもそちらの信者の方たちは、「穢れ」を集めていたらしいんです
穢れ、とは一体何ぞやという話になってくると思いますが
何かの本で読んだのか、どこで知識を仕入れたか失念したものの、大層納得した表現を引用しますと、『小便を溜めたコップを何度洗おうと、使う気にならないときの嫌悪感』だそうです
なるほど確かに、これは的を得ていますよね、そりゃあ使う気にはなりませんね
ああ、もちろんそこの信者さんたちは昔の農民やお百姓さんみたいに肥溜め作って集めてたわけではないですよ
要するに彼らがしていたことは、例えて言うなれば仏教で不浄とされているもの、広義的に言えば日本人なら罰当たりだと感じる行動
それを戒律として、常日頃から積み重ねていくことが教えだったそうです
まるで己の身体を器と見立てて、そこに糞尿を溜めていくかのごとくね
浄と不浄は表裏一体であり、清めと穢れも又然り
さんざ人を斬った刀が、時代を経るにつれ威厳と風格を備える名刀とさえ呼ばれるが如く
日常では人を殺せば殺人鬼でも、戦場でなら勇猛果敢な祖国の英雄として扱われるが如く
穢れを蓄積することは清め崇め祀られる器を作る準備だと、信者たちに説いて説いて説き伏せたようです
どのようにして穢れを集めていたのでしょうか、簡単にまとめると
肉、魚、五葷を中心の食生活にする
月の物によって排泄される血を染み込ませた布を纏う
墓石を砕き、その欠片を肌身離さず持ち歩く
利き手に関係なく左手で食事をする
仏壇に飾るお線香やロウソクは息で消す
近所の葬式になるべく参加し、ご遺体に触れる
屠殺場で働く(動物を殺めるも然り)
罪を犯す(人の生死に関わると尚の事良い)
不義不貞を重ねる
なんて具合です
お気づきの方も多いと思いますが、色んな宗教における不浄観がごった煮になっています
これが新興宗教の特徴で、既存の宗教をごちゃまぜにしたものをベースにしてることが多いようです
所詮まがいもの、金儲けを目的にしている大半の新興宗教には芯の通った信念はないのでしょう
しかしながらこの宗教には大きな野望がありました
それは、神様を作ることだったそうで
教祖の下には、一組の夫婦がおったそうです
他の信者よりも特段高い位を与えられた夫婦です
夫婦の役割は、二つありました
一つは子を成すこと
もう一つは、信者の皆殺しです
夫婦は、合計36人の信者を殺害しました
信者一人ひとりが、穢れを存分に溜めた状態で殺害しました
そうすることで夫婦は、36人分の穢れと36人を殺害した穢れを負ったということになるんです
その状態で、子を成しました
果てさて、赤子とは、生まれながらに穢れを背負っているものとされています
なぜなら、両親の罪を負って産まれるから
両親の穢れを負って産まれるからです
十月十日が経ち、臨月が近づいたころ
夫婦は互いを殺し合いました
母親の遺体から、教祖は子を取り出しました
数多もの穢れを背負った、忌み子
取り出した子は、そのまま数日放置されました
余談ですが、人間の赤子だけらしいですねえ、自分で立つことはおろか食事も与えられるがまま、何もできない未熟な状態で産まれるのは
野生動物の赤子は産まれてすぐ自分の足で立つことができます
数日、数週間もすれば餌を己で取ることもできるでしょう
何年も両親の手厚い加護がなければ生き延びることもできない、そんな未熟な状態で産まれるようになったのはいつからなんでしょうか、野生の荒波に揉まれて淘汰されそうなのに、不思議でなりません
閑話休題
当然放置された赤子は、数日で亡くなったでしょう
教祖はそのまま保存状態を管理し、屍蝋化させましたと
その屍蝋に、夫婦から予め採取しておいた精液と愛液を49日間かけて塗りたくりました
彼の法の反魂術からヒントを得たのでしょう
邪教の真似事です、おぞましいことこの上ない
そうしてできあがったものを、御神体として崇めておったそうです
これが神様の正体、この宗教の大いなる目的でした
果たして、教祖は何を願ったのでしょうかね
何を目的として神様もどきを作ったのでしょうか
知人曰く、教祖はかなり右に傾いた思想を持っていたようですから、それに関連するような願いを捧げていたのかもしれませんね
その後、何故か教祖は死体となって発見されました
それは、全身が細切れになり其の上で肉片の一つ一つを丁寧に捻り潰したかのような、見るも無惨なものでした
かろうじて発見された歯の治療痕から、教祖だと断定されたらしいですが、それはそれはひどい有り様でした
そんな中、不可解なのは御神体が無くなっていたことですな
あれは思惑通りに神様となったのか、恨みを積もらせ呪いを振りまく呪物と化したのか、教祖を殺害したのは誰なのか
結局は、何にも誰にも解りませんでした
今、あなたの脳内に多くの疑問が渦巻いているのではないですかね、へへ
それも当然
私は三つ、この話の中で嘘をついていますから
話をした理由ですか、
それは、きっと数日中に分かるでしょう
今、巷では大層な疫病が流行っているそうで
そして、あなたの思い浮かべた想像は、あれとの縁を繋ぐこととなる
来たるべき災厄まで、日常という幸福と安寧を享受していてください
我々はずっとあなたのことを見ていました
今は大変気分が良い
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