SaaSスタートアップ企業を経営をしていて大失敗した10のことを振り返ってみる
私がSmartMeetingという会議改善クラウドの代表を務めていた時を振り返ってみると、うまくいったことも多いですが、それよりも失敗の数がかなり多くありました。
今はフリーランス的にSaaS事業立ち上げをしている企業さんのお手伝いをしているのですが、その時に「あ、ここは危険だな」と先手を打てるようになってきました。それも失敗のおかげです。
成功に再現性はあまりないけれど、失敗はものすごく再現性が高いです。SaaSの成功例はたくさんあるものの、失敗例はあまり語られないので、恥を忍んで今回は私が実際にやらかしたことをまとめてみました。ぜひ皆さんは他山の石にして、事業を成功させてください!
スタートアップを経営していてやらかした10の失敗
1. お客様の課題・ペインの解像度が荒いままスタートしてしまった
最初に会議改善についてどういう・どれくらいペインがあるか?を知るために事前登録LPに登録してくれた人へのヒアリングをしていました。だいたい100社以上の方とお会いして、そこで共通するペインが分かってきました。
・会議が長い
・会議で物事が決まらない
・会議室が取れない
ここまでは良かったのですが、今思うとペイン自体の深堀りをもっとするべきだったなと思います。言い換えたら、どのペインを自分たちが解決するべきなのか?ということです。
会議改善と一口に言っても、さまざまな文脈でペインが発生します。漠然と「会議改善」と言うのではなく、その中でも具体的にどこから改善するのか?ユーザーは会議のどこにペインを持っているのか?それはどう解決するべきなのか?を「超具体的に」イメージできるまで考えるべきでした。
解像度が低かったまま始めた結果、最初のβ版プロダクトは「違う、これじゃない」という手厳しいご意見を多数頂いてしまいました。何よりもまずペインの解像度を上げる、これがスタートアップにとって最も大事なことだと思います。
2. プロダクトを作りはじめる前にモックアップをお客様に見せるべきだった
SmartMeetingのようなまだ既存マーケットに先行プレイヤーがいない場合は特にそうですが、お客様の課題は分かってもどう解決できるのかイメージがわいていないことがほとんどです。
SmartMeetingのβ版を最初に提供したときは、お世辞にも良いリアクションとは言えませんでした。課題は分かっていても、解決策がずれていたのです。具体的にどんな機能があればいいのか?を作り込む前に知っておくべきでした。
具体的なおすすめ方法としては、Figmaなどのツールでモックアップを作り、実際にユーザーに触ってもらうことです。そうするとユーザーも具体的にイメージができ
「そうそう、まさにこれ!」
「そうじゃない、もっとこの機能がほしい」
など、具体的なフィードバックを頂けるようになります。すると、本当に必要な機能を作れる可能性がぐっと高くなります。
3. MVPとMSPは違うことを知っておくべきだった
MVPとはMinimum Valuable Product(必要最低限な機能を持ったプロダクト)のことを言いますが、MSPはMinimum Sellable Product(買ってもらえる最低限の機能を持ったプロダクト)のことを指します。MVPはとにかくクイックにお客様に提供すべき、というのがスタートアップのセオリーでありそれは正しいと思いますが、お客様がお金を払ってでも使いたいと思ってもらえるプロダクトの質に達しているか?はまた別の観点で持っておく必要があります。
いわゆるPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を測るためにMVPは使われますが、実際にお金を払っても良い、と思ってもらえるレベルのプロダクトかどうかは実はまたもう一段壁があるのです。
「この機能があれば導入できる」
「今のままでも十分使えはする」
この違いをしっかり見極めることが大事です。特にSaaSでは日々プロダクトがアップデートされていくことが前提なので、どこまでの機能があればペインが解決できるのか、をMVPとはまた別に認識しておくことをおすすめします。
前田ヒロさんもツイートされていますが、特にToB SaaSではMSPという観点はとても大事になってきます。
4. 採用で妥協してしまった
スタートアップにとって採用は鬼門中の鬼門です。採用ブランドがないので、採用母集団がなく採用できない、というのはほぼ100%のスタートアップが経験することでしょう。
そんな中、とはいえ事業を伸ばし、プロダクトを改善しなければいけないとき、つい妥協して人を採用してしまいがちです。それはスキル面・スタンス面の両方に言えますが、結論として妥協することは絶対NGです。
特にスタートアップではスタンス面でのミスマッチはお互いにとって悲惨な結果になります。早期退職、会社の雰囲気が悪くなる、全員のパフォーマンス低下などなど。採用をするときスキル面に目がいきがちですが、スタンスは後から変えられないので特に重要になります。
もちろん、教育コストを払う余裕がないスタートアップではスキル面での妥協もあまりおすすめしません。私も入社してくれたはいいけど、スキル面でミスマッチがありパフォーマンスを全然出せないで退職してしまった、ということがあり大きく反省しています。
スキルとスタンス両方がある人の採用はとてもとても大変ですが、この苦しさから逃げてしまうと逃げた分だけ自分にしっぺ返しが来ます。辛い気持ちは十分わかりますが、スタートアップだからこそ採用はめちゃくちゃこだわる、という気持ちでいてください。
5. 採用にかける時間が短かった
こちらは単純に時間の問題です。スタートアップはとにかくやることが多く忙しいので、採用にかける時間がついつい短くなりがちです。ですが、これだと長期的には会社の成長にブレーキをかけることになったり、いざというときに社長が忙殺されて大事なことを考えられなかったりと、大きなデメリットになりがちです。今やり直すなら、採用活動にはもっともっと時間をかけたであろうと思います。
採用はダイエットやスポーツと同じで、やり始めてすぐ結果が出ないのでつい後回しにしてしまいがちです。しかし、採用活動は始めてからすぐに採用できるというわけではありません。
・採用PR
・採用母集団形成
・採用チャネル検討
・スカウト送信と文章を考える
などなど、やることは本当に多岐にわたります。社員であればどんなに早くても2〜3ヶ月、通常6ヶ月、長くて1年のリードタイムがあります。採用は一夜にしてならず、コツコツ継続して時間をかけて工夫していくことが、1年後の自分を大きく助けることになるでしょう。
6. スキルと報酬のミスマッチがあった
社員でも業務委託でも共有していますが、転職市場やスキル相場とかけ離れた報酬設定にしてしまい、バーンレートが上がった割には事業が前に進まない、ということがありました。今でこそ私もある程度、年収やスキルの相場観がわかりますが、最初はわからないまま言い値で仕事をお願いしてしまったことがありました。
報酬の相場がわからない時は、周りの経験がある人にヒアリングをすることをおすすめします。自分のスキル単価と客観的な相場との乖離は、意外と自分では気付きにくいので明らかに高額な単価を提示してくる人もいるのです。会社として最低限の報酬の基準をもうけ、バーンレートを上げすぎず適正な報酬をお支払いできるようにしてください。
7. カルチャー作りに注力しなかった
こちらもミスですが、カルチャー作りを最初軽く共同創業者と話したきり宙ぶらりんで終わってしまっていました。カルチャーがなくて何が困るかというと、
・プロダクト作りの軸がぶれる(どう決めるべきだっけ?)
・採用で合う人がわからなくなる(スキルだけで決めてしまいがちになる)
ということがありました。
スタートアップはやること山盛りなので、カルチャーについて話すことを後回しにしてしまいがちですが、やはり採用でもプロダクト作りでも、カルチャーは大事です。例えばメルカリさんなんかもGo Boldという分かりやすい指標があるため、メンバーの考え方に一定の統一感を持たせることができます。
カルチャー作りをし、それを言語化する。意外とサボってしまいがちですが、スタートアップは初期から考え始めることをおすすめします。もっと簡単に言えば、どんな人と働きたいか?どんな会社にしたいか?だけでもOKです。少しでも考えておくことであとから思考プロセスをショートカットできることも多かったなと振り返って思いました。
8. PRをもっと積極的にすればよかった
サービスのリリース後、メディアへの声かけ、知り合い経由でメディア担当者を紹介してもらうなどの取り組みをもっとすれば良かったなと思います。
スタートアップの多くはPR活動にあまり注力しないことが多いのですが、メディアも記事のネタを探していたり、トレンドが来たり去ったりするので、常にメディアの担当者さんとは良い関係で良いタイミングを図っておくべきだったなと思います。
あと、スタートアップの場合は自分たちのプロダクトが取材されると、単純に社内のテンションが上がり雰囲気が良くなります。これ意外と大事でしたね。前に進んでいる感を意図的に作ることは社長の大事な仕事だと思います。
9. リードタイムをもっと考慮して売上計画を立てるべきだった
SaaSの初期顧客は大企業から行くべきか中小企業からいくべきか?この議論は事業計画を立てるうえでいつも議題にあがるネタです。結論から言うと私は「大企業から狙う派」だったのですが、これは事業領域と事業ステータスによって変わるので良し悪しではないものだなと今では思います。
さて、大企業を狙うという戦略は良かったのですが、大企業はとにかくリードタイムが長かった。アポをしてから早くても3ヶ月、通常は6〜12ヶ月ほども検討や稟議でかかることがありました。どうしても予算確保などの動きは小回りが聞かず、自分たちがコントロールできない要因に振り回されることが多くこれが本当に辛かったです。
スタートアップはランウェイがあるのでいつまでにお金がなくなるか、少なくなる残高とにらめっこしながらそれでも大企業を狙わなければいけません。ただ、今思うと大企業を狙いながらも中小企業にももう少し注力してARRが小さくても受注実績を作っておけば良かったなと思います。当時は選択と集中で意図的に中小企業にフォーカスしてなかったのですが、もうちょっと7:3くらいでリソースは割いても良かったかなと今では思います。
10. 料金設定はもっと強気でいくべきだった
これは9の話とも関連するのですが、大企業狙いでいくサービスの場合は特にそうですが、価格は思っているよりも高めに設定して良いと思いました。なぜか?
・SaaSの初期プロダクトは機能が少ないので弱気な価格設定にしがち
・でもユーザーは「お金を払ってでも解決したい」と思っている
・価格ではなく「課題解決」で勝負するべき(良いものは高くても買う)
要するに、お客様の課題をしっかり解決していれば多少高くても払ってくれますし、逆に課題解決ができてなくディスカウントのことばかり話す場合はたいてい値段がいくらであってもチャーンする結果になります。
また、価格設定は強気なほうが事業計画も達成しやすいです。例えば、アカウント単価が500円と1,000円では、同じ売上目標を達成するために単純計算で2倍の顧客数を獲得しなければならなくなり、その分多くリソースが必要で、キャッシュフローは悪くなってしまいます。また、しっかりお金を払った方がお客様も本気になってくれることが多くカスタマーサクセス活動もしやすかった印象があります。
特にSmartMeetingは大企業向けでかつDXや働き方改革の文脈に乗ることも多かったので、半分SaaS半分コンサル的な動きが特に喜ばれました。コンサル的な動きをするとリソースは取られますが、ARRが上がることと、お客様にべったり伴走できるのでカスタマーサクセスにもなり、課題吸い上げも素早くでき、チャーンリスクも下げやすくなります。初期のSaaSプロダクトには特におすすめできる施策だったなと思います。
逆にやって良かったこと
UXに超こだわったこと
SaaSは使いやすいことはそのまま競争優位性になりますし、チャーンリスクも下げられます。大企業狙いのプロダクトだと使いやすさやUXが軽視されることが多いですが、使いやすいUXを提供することにはかなりこだわっていました。
お客様にお客様を紹介してもらえた
初期はお客様がお客様を紹介してくれるサイクルが自然とできたので、営業活動がかなりショートカットできたことを覚えています。特に、こちらから言わなくてもバイラルしたり、口コミで社内外で広まったりした時は嬉しかったですし、ARRアップにも寄与してくれました。
良いプロダクトを作って、課題解決をし、そして他のお客様に広がる。これがSaaSプロダクトの最も良いサイクルなのだと思います。
初期は90%リファラル採用だったけどとても良かった
初期採用に苦労していたとき、初期メンバーの知人友人でほとんど採用していましたが、これがとても良かった。スキル・人柄ともにマッチすることが多く、安心して働けました。創業者は初期フェーズでは恥ずかしがらずに「誰か良い人いない?」「ご飯おごるから面談しない?」とどんどん依頼していきましょう。意外とみんな好意的に協力してくれるものです。
以上です。スタートアップは1周目だとなかなか分からないことが多く失敗たくさんでしたので、これから起業する人、スタートアップの挑戦なうな方のお役に立てれば幸いです!
今はフリーランス的にいろいろな企業のお手伝いをしているので、事業相談などあればお気軽にご連絡くださいませ。特にスタートアップの方、お仕事抜きで応援してるのでSNSなどでもよろしくお願いします!