【漢方】 一貫堂医学の基礎理論
漢方の伝来
漢方は、允恭天皇の御代に朝鮮半島から伝わったとされます。
その後、漢方の受容は、遣隋使や遣唐使を通じて本格化したと考えられます。漢方の創生は中国大陸ですが、現代日本で用いられる漢方は日本国内で独自に進化発展したものであり、その過程でいくつかの流派が生まれました。一貫堂医学は明治末期に創生された新しい流派です。とは言え、基盤になるのは古来より伝わる漢方理論です。創始者の森道伯先生は、古来からの理論を精査統合し、新しい理論を組み上げたのです。
今回は、『漢方一貫堂医学』(矢数格先生 著)とお師匠の『講義録』を元に、一貫堂医学の基礎理論を投稿します。
三大証分類
一貫堂医学は、日本人の体質を、瘀血証体質、臓毒証体質、解毒証体質の3つに分類していることが特徴で、その体質ごとに罹りやすい病気があるとしています。この分類は素早い診断、将来予想される病気の予防などの利点があります。ただし、これらの体質がピタリと当てはまることは少なく、それぞれの体質が混ざり合っています。また、体質は成長や老化、生活習慣などによって常に変化しているものです。
この体質分類は、日本人という民族形成の歴史と呼応しています。この点にも触れて解説します。
瘀血(おけつ)証体質
この体質の人は、古い血液が毛細血管に滞っていると考えられています。そのために血液の滞留が起き、さまざまな病気の原因になると考えられています。
瘀血は下腹部に溜まりやすいとされます。腹部は多量の血液を有していながら、血流が緩やかなため、瘀血が溜まりやすいと考えられています。女性の方が瘀血を溜めやすいとされますが、男性でも40代以降は瘀血の滞留に気をつけなくてはなりません。
瘀血の要因は、(1)母親からの遺伝、(2)外傷、(3)熱性病(4)ストレス(5)月経と多岐にわたります。改善には身体から瘀血を排出することが基本方針となりますが、各人に適した漢方薬を用いなくてはなりません。
瘀血証体質の人は、色白でぽちゃぽちゃした体型で感情豊かであるとされます。脳溢血、半身麻痺、喘息、胃腸病、肝臓病、痔、淋病、神経性疾患、便秘、腰痛などに罹りやすいとも考えられ、女性特有の疾患も瘀血が原因である場合が多いとされます。
臓毒(ぞうどく)証体質
この体質の人は、臓器に毒を蓄積しやすいと考えられています。毒とは、風毒、食毒、水毒が主です。漢方に於いて風毒の概念は幅広く、風邪や破傷風は言うに及ばず、中耳炎や神経痛なども風毒が原因とされます。食毒とは、食物が持っている毒ですが、フグ毒などの急性の毒素ではありません。肉類や高コレステロールなどの食物に多いとされるため、美食家は食毒を溜めやすいと言われます。水毒は腎臓機能の低下などで、液体老廃物が排出されないことが原因となります。また、上記の毒以外にも梅毒も臓毒体質者が罹患しやすい病気と考えられています。
臓毒証体質の人は、体格に恵まれていることが多く、若い頃は比較的健康です。その反面で、壮年期以降には大病を患うことが多いと考えられています。脳溢血、動脈硬化、腎臓疾患、糖尿病などに罹りやすいと考えられています。
解毒(げどく)証体質
この体質の人は、肝臓の解毒機能が弱い人と考えられています。また、ウイルスや細菌を原因とした病気に罹患しやすいとも考えられます。解毒証体質の要因には、両親からの遺伝が強く反映しています。そのため、幼い頃ほど体質の傾向が強く現れます。多くの場合は成長と共に体質が緩和されると考えられますが、全ての人に当てはまるものではありません。
解毒証体質の人は、痩せ型で肌の色が浅黒いことが特徴で、神経質で癇癪持ちの傾向があります。風邪に罹りやすく、蓄膿症や扁桃変、気管支炎、目の病などを発症しやすいとされます。また、アトピーは解毒証体質が原因とも考えています。他には結核や淋病に罹患しやすとも考えられています。
三大体質の形成要因
以上のような体質は、父母からの遺伝的要因が作用していると考えられることから、遡ってゆくと日本人のルーツまで辿り着くと考えられています。
『講義録』では、日本人は北方系、大陸系、海洋系の3系統が融合していると捉えています。つまり、北方系=瘀血、大陸系=臓毒、海洋系=解毒とそれぞれが別のルーツを持っていて、その混在が日本人の体質を形成していると考えられています。だから、東北地方の人は瘀血体質が多く、九州地方は解毒体質が多いのだと解説されています。
ただ、この理論に疑問もあります。日本列島は南北に長いため、各地で住環境は大きく異なります。同祖の体質であっても、特定地域で何十代も定住することで子孫が環境に適応していき、結果として北方、大陸、海洋の系統に近い体質を獲得した可能性も考えられます。
いずれにせよ、診断にあたっては両親、祖父母くらいまで遡れば情報としては十分でしょう。
治療薬について
三大証分類には、それぞれ適した漢方薬が定められています。しかし、安易に薬を服用することは危険ですから、当noteではご紹介しません。また、今回ご紹介した理論は、広大な漢方世界の一端です。適切な治療のために、専門家の意見を十分に聞いてご判断下さい。
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