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【AI】声優と生成AIの法的論点

先日、「コナン君に「#歌わせてみた」流行曲、実はAI偽音声」という記事に接しました。

生成AIについては、画像生成AIの脅威的な進歩により、既存のキャラクターやイラストに似たようなものが生成され、著作権が大きな問題としてクローズアップしましたが、音声生成AIも進歩しているので、問題が音声にも拡大するのは必然の流れといえるでしょう。

問題は、「声優さんの声を勝手に生成AIで使うのを声優は法的に止めることができるのか?」(利用者の観点からは勝手に使ってOKなのか?)という点で、本稿はその問題を取り上げます。

この問題については、近々発売の拙著「生成AIの法的リスクと対策」のコラム「音声の生成AIへの利用と法的リスク」(180頁)で取り上げています。
その文章を引用すると次の通りです。

音声の生成AIでの利用に関しては、声優などの音声を生成AIに学習させて、生成AIによりテキストを音読させたり、リアルタイムにボイスチェンジすることが考えられます。このような生成AIを開発・利用する場合にどのような法的リスクがあるでしょうか。AI学習・開発段階と生成・利用段階に分けて以下で解説します。

①AI学習・開発段階 
声優の音声を、映画やアニメのセリフから採取する場合には、セリフにはセリフの著作者の著作権が、声優の発声・演技には声優の著作隣接権が生じます。これを機械学習する場合の法的リスクは、2-2-2で前述した他人の著作物を学習用データとして利用する場合の問題と大きな違いはありません(著作権法30条の4は著作隣接権にも準用されます。著作102条1項)。他方で、単にひらがなの50音を読み上げただけのように、音声の対象が著作物でない場合には、著作権や著作隣接権は生じないのでそれらの権利侵害は問題になりません。声優の音声の無断利用についてはパブリシティ権も問題になります。パブリシティ権については、2-4-2で前述のとおり、ピンク・レディー事件最高裁判決にいう「肖像等」には声も含まれると考えられているため、声のパブリシティ権の侵害が問題にはなります。もっとも、AI開発・学習段階では、学習に用いられるデータの公表の問題が生じることは考え難く、一般的には、パブリシティ権が問題になることは少ないと考えられます。

②生成・利用段階
声優の音声の無断利用について、生成・利用段階のうち、生成段階(プロンプトでの音声の無断入力)の法的なリスクは、AI学習・開発段階と変わりません。もっとも、利用段階では、声優の音声を学習させた生成AIを使ったテキストの音読やボイスチェンジャーで利用することの法的リスクは、AI学習・開発段階と異なります。 利用段階で、音声のみを利用して、音声採取の元となった著作物(あるいはこれと同一・類似した表現)を利用しない場合には、著作権や著作隣接権の問題は生じないので、それらの権利の侵害は問題になりません。通常、音声生成AIでは、利用者が用意したテキストを音読・音声変換するので、その場合には元の著作物に関する権利侵害は問題になりません。

ちょっと専門的でわかりにくいかもしれませんので、以下、噛み砕いて(?)説明します。十分検討していないところもあるので、後で修正するかもしれないことはお含みおきください。

著作権・著作隣接権について

声優の音声に関する権利については、脚本などの著作物を演じた場合には、声優には「著作隣接権」という権利が発生します。これを機械学習する場合、著作隣接権の侵害が問題になるのですが、著作権法30条の4の適用が問題となります。

まず、声優の音声をAIに学習させる段階において、無断利用できるかということが問題になります。
大量の音声を機械学習させる場合には、著作権法30条の4が適用され、声優の許諾を得なくても利用できる可能性は高いと考えられます。
他方で、特定の声優の音声を少量学習させる場合には、著作権法30条の4が適用される要件である「情報解析」(大量の情報を解析することが必要)や「非享受目的」の要件を満たさず、声優の許諾を得る必要がある場合がそれなりにあると思います。

次に、利用段階において、無断利用できるかということがもないになります。
音声生成AIをつかって音声を生成する場合には、入力するテキストや音声が、自分の著作物であれば、そこには著作権侵害は生じません。声優の声を無断で使っても、著作物と結びつかない、単なる音声だけの利用は著作隣接権の侵害になりません。なぜなら、著作権法は、著作隣接権が発生する「実演」について「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること」と定義しており(2条1項3号)、著作隣接権は著作物と結びついている必要があるからです。

もっとも、上記の読売新聞の記事にあるように、楽曲を歌う場合には、楽曲には通常は著作権があるので、(声優ではなく)楽曲の著作権者の許諾が必要になります。
この点、Tiktokは、JASRACとの間で利用許諾契約を締結しており、一般ユーザーが個別にJASRACへ利用許諾手続きを行なわなくともJASRAC管理楽曲を利用したUGC(動画・歌詞)をアップロードすることが可能とされています。

なお、声優(実演家)には、実演家の人格的利益を保護するため、著作権法に定められた権利である実演家人格権があります。 具体的には、氏名表示権(著作権法90条の2)と同一性保持権(著作権法90条の3)があります。声優の音声を無断で利用することは、同一性保持権の侵害に当たる場合もあるかもしれませんが、替え歌であればともかく、全く違った歌を歌う場合には、ケースバイケースの判断になるように思われます。

パブリシティ権について

パブリシティ権については、俳優の肖像や容姿はパブリシティ権によって保護されており、無断で利用することはできません。

では、声優の声はどうでしょうか。この点については、ピンク・レディ最高裁事件の最高裁調査官解説に「肖像等」には声も含まれているとの記載があり、この考えに従えば、声優の声もパブリシティ権によって保護されることになります。パブリシティ権は「人格権」に基づく権利です。

もっとも、パブリシティ権で保護されるのは、ピンク・レディ最高裁事件で、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合、③肖像等を商品等の広告として使用する場合のいずれかのパターンに当たる場合と原則としてされています。
したがって、コナンを演じている声優の高山みなみさんの名前で「歌ってみた」場合には、上記の①〜③のいずれかにあたれば、声優のパブリシティ権を侵害することになります。

問題は、声優ではなく「コナン君が歌った」という場合です。この場合、声優のパブリシティ権は害されないことになります。他方、コナン君にはパブリシティ権はありません。パブリシティ権は「人格権」に基づく権利なので、人にしか認められず、モノには認められないのです。この点は、ギャロップレーサー最高事件判決でも明確にされています。
もちろん、コナン君には商標権があるので、利用態様によっては商標権侵害となるかもしれません。

まとめ

なんか腑に落ちない結論になってしまいますが、その原因は、人の声が法的に保護される範囲が現行法では狭すぎるということにあるかもしれません。

ちなみに、ハリウッドでは、俳優・脚本家によるAIに対する懸念からストが起きています。

米国の俳優たちは、スト中は収入がなくなるのにもかかわらず、犠牲を払って権利を勝ち取るためにこのような行動をしているわけです。

それはともかく、声優さんは、アニメや吹き替えをするのに必須の人材で、高度な演技力が必要な職業です。このような声優さんの技術が失われてしまうことがないような仕組みがあってほしいと個人的には思います。例えば、声については、登録すればこれを保護する法制度を作るといったことがあってもよいかもしれません(声優がロビイング活動したり、フアンが支援したりしたらどうでしょうか)。
もっとも、本当に演技力のある声優さんはAIが普及しようが影響を受けないと思いますし、音声生成 AIが、本当に声優さんの職業に悪影響を及ぼすのかもよくよく考える必要があります。多くの一般人にとっては、「ずんだもん」の音声が使えれば十分かもしれません。そもそも権利を勝ち取ろうという動きをしなければ、権利は勝ち取れません。

なお、タイトルの写真は、Canvaで生成した画像です。確かに生成AIは便利ですね。

文中で紹介した拙著「生成AIの法的リスクと対策」は10月5日発売ですので、ご興味ある方は手に取っていただけると幸いです。

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