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【プロ野球】奇跡と栄光のバックホーム~横田慎太郎さん本を読んで

おそらく、多くの人が感じたことではないかと思いますが、今年の阪神日本一の立役者の一人は「横田慎太郎さん」だったのではないかと思うのです。今回、横田慎太郎さん自身がお書きになった「奇跡のバックホーム」と、お母様である、まなみさんから伺ったエピソードをまとめた「栄光のバックホーム」の両方を読んで、改めてそう感じました。

思えば日本シリーズ最終戦の9回に岩崎投手がマウンドに向かう際に流れたのが「栄光の架け橋」。これは横田さんが大好きだった曲でもあります。なんでもかんでもスピリチュアルなものと結びつけるのは相応しくないかもしれませんが、きっとあの瞬間に阪神チームのメンバーには横田さんが強い思い浮かべられ、力になったのではないでしょうか。今回はこの2作を読んだ感想をまとめていきたいと思います。


感涙間違いなし!お母様の愛情がひしひしと伝わる感動作!

最初に読んだのは「栄光のバックホーム」でした。というのも、こちらの方が最近発売されたものだったので、まず読んでみた、という軽いスタートだったのですが・・・いやー、途中からは涙の連続でした。「奇跡のバックホーム」が慎太郎さん目線だとしたら、こちらはお母様目線。健康そのものだと思っていた我が子が突然、脳腫瘍と診断され、念願だったプロ野球選手の道を断たれることになる。もうこれだけで、青天の霹靂といいますか、どうすればいいんだ、とパニックになりますよね。とにかく我が子の無事だけを信じ、母の必死の看病が始まります。

辛うじて一命を取り留め、身体自体も無事だったのですが、視力だけが回復せず、一軍に戻ることはできなかったのです。この無念たるや!それでも生きてさえくれれば・・・という母の思いを、この後も病魔が幾度となく襲ってくることに。お母様のまなみさんは気丈に振る舞い、明るくポジティブな方なのですが、それでもやはり、我が子を何度も襲う病魔に苦しんでいくことになります。このあたりの描写は涙なしでは読み進めることができませんでした。きっと代われるものなら、代わってやりたい、と思ったことでしょう。と、同時に、ご自分も責めることもあったようで、このあたりも本当にやるせない気持ちになりました。

あまりネタバレになるのは、これから読む方に申し訳ないので、極力避けたいと思うのですが、本編中にも、慎太郎さんとお母様が闘病中にスピリチュアルな体験をするエピソードが含まれています。特にこうした話ばかりに興味があるわけではないのですが、なんとなく科学だけでは解説できない、超越した世界もあるんじゃないか、と漠然と思ったりすることがあるので、このあたりの不思議体験に関する話には「やっぱり、そういうことってあるんだな」と思いながら読み進めていました。

「20歳のソウル」との不思議な縁

実はこの「栄光のバックホーム」の作者は中井由梨子さんといい、実は数年前に「20歳のソウル」という、市立船橋高校の吹奏楽部の方で、今や「神曲」として名高い「市船ソウル」という応援曲を作った、浅野大義さんの実話を基にした作品を書いた方だったんです。これは「あとがき」で書かれているのですが実は、この本が映画化された時の監督さんから、横田さんの話を伺い、そこから縁が生まれて今回の本が作られたそうです。しかも、実際、浅野大義さんと横田慎太郎さんは「同い年」なのだとか!もうここまで来ると、単なる「奇跡」では片付けられない「縁」を感じますよね(しかも、お二方とも同じ病気というのも、何か偶然だけではないような)。

中井さんは前作「20歳のソウル」でも、丁寧に取材をされて、大義さんのお母様とのインタビューを重ねながら、大義くんと「市船ソウル」誕生のストーリーを優しい視点で綴っていましたが、今回もそうした「中井さんらしさ」の溢れる、横田慎太郎さんのお母様に寄り添った視点で話が進んでいきます。きっと中井さんご自身が劇作家兼演出家でもいらっしゃるので、ストーリーのカタルシスといいますか、起伏に富んだ展開に関するスキルをお持ちなんだと思います。とても温かく、そして丁寧な文体で気持ちよく読み進めることができると思います。

誠実さと心の清らかな好青年さが伝わる、横田さんの半生記!

「栄光のバックホーム」で号泣した後に、そのまま「奇跡のバックホーム」を読みました。こちらはドラマ化されていますし、それこそ横田さんに関するドキュメンタリーやテレビ番組等も作られていますので、皆さんも知っているエピソードが含まれていることと思います。とはいえ、ぜひとも本書を読んで頂きたいのは、この本からは「横田慎太郎さんの実直さ、誠実さ、そして心のきれいな好青年さ」が伝わってくる点です。

ちょっとオーバーな形容かつ、たいしたボキャブラリーではないので、凡庸な表現かもしれませんが、まさしくこれが正しい感想だと思いました。どうしたらこんなに心が澄んだお子さんが育つのか、と感心してしまいました(きっとお父様、お母様の教育が素晴らしかったのでしょう!)。と、同時に「どうして、こんなに素晴らしい青年に、神様はこんな試練を与えるのか!」という憤りも同時に感じましたね(これは「20歳のソウル」の浅野大義さんの時も同様でした)。これからの活躍が期待されるちょうどそのときに、襲ってくる病魔。それを認めたくない、きっと軽いものに違いないと思いたい・・・しかし・・・。こんな辛いことはないですよね。

最初の闘病では「絶対にグラウンドに戻る」つまりは、プロ野球選手として復活することを目標に、辛い闘病生活、リハビリ生活と戦います。しかし、結局視力が戻らず、引退を決意。そのラスト試合で「奇跡のバックホーム」と伝説になる最高のプレーを披露。その後、病気が再発。きっと普通の人ならここで諦めてしまっていると思うのですが、横田さんは「自分以外の病気と闘っている人たちを応援する」という活動を次の目標にし、誰かのために役立とうと立ち上がるのです。まだ20代半ばの青年が、これほどまでに崇高な思いを貫き、周囲を励まし続け、周囲に元気を与え、生きる喜びをもたらしていくのです。しかし、どんどん病魔は横田さんの身体を蝕んでいきます。

ほんのひととき、横田さん(とご家族)に思いを馳せる時間を

これら2作を読んだ感想としては、なんとも人生の不条理と申しますか、きっと悔しい気持ち、やるせない気持ち、いろんな葛藤があったことと思います。それでも、今の自分にできることは何かと考え、その目標に向かって真剣に取り組んでいく横田さん。そして、病魔が忍び寄ることを知りつつも、息子(弟)を応援し、見守り、サポートする家族。何ができるわけではありませんが、ほんの少しの時間で良いので、横田さんの物語を知り、健康でいること、生きていることへのありがたさを考えてほしいな、と思いました。

大義さんも横田さんも絶対に「もっと生きたい」と思ったはず。しかし、残念なことにそれは叶わなかったわけです。だとしたら、今生きていることに感謝し、彼らの分まで(というと、おこがましいですが)しっかり生きなければ、となんだか無駄に熱くなっている自分がいました(笑)。

エピローグ~横田さんの旅立ちの日と、日本一になった日の件

今年の7月に横田さんが亡くなられた後の一戦。球場には「栄光の架け橋」が流れ、同期の選手たちが「ヨコのために」という思いで必死に戦い、見事勝利。最後にマウンドで彼らが人差し指を空へ目掛けてかざし、天を見つめるシーンが写真でも撮られましたが、きっと彼らには当日、横田さんが「見えた」のではないかと思うんです。そして冒頭にも書きましたが、日本シリーズ最終戦の9回、岩崎選手登場と共に流れた「栄光の架け橋」。と同時に、姿は見えませんが、きっと横田さんも一緒に登場してきたのではないでしょうか。オリックスも一撃の意地を見せますが、最後は横田さんの応援の甲斐もあって見事優勝。なんだかそんな神掛かった日本シリーズであり、2023年シリーズだったように思います。




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