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小説家になろうに偏見をもつ人たちは絶対知らない人気作6選

日本最大の小説投稿サイト「小説家になろう」。このサイトから生み出され、映画やアニメにまでなった作品は沢山あります。その代表と目されているのは、『転生したらスライムだった件』や『無職転生』、女性向けなら『本好きの下剋上』といったところでしょう。

いずれも日本人が異世界に転生して、その世界で大きな成功を収める構図となっていて、それゆえに現実社会でうまくいってない作者・読者の願望を反映したものであると根拠の無い分析を垂れ流すメディアもあります。結果、「小説家になろう」はそんな作品ばかりが投稿され人気を博していると、知った気になっている人間が後を絶ちません。

しかし、これは全くのデタラメです。

上記のような作品は確かに「小説家になろう」を代表しているものの「全て」を表すものではありません。例えば浜辺美波主演の大ヒット映画『君の膵臓を食べたい』もなろう発ですし、少年マガジンで大人気連載中の『シャングリラ・フロンティア』もしかりです。

本記事は、そのデタラメを証明するために言葉を重ねるのではなく、論より証拠として、世間が知るなろう小説とは一線を画すユニークな話題作を紹介していこうと思います。

ただ、なろうの古参読者にとってはすでに知っている作品ばかりで物足りなかったり、私の嗜好の偏りのためファンタジー作品だけになっている点は、ご容赦ください。

※本記事は「あなたの知らないすごいWEB小説」企画の第1回目となります


オススメその1: 誰が勇者を殺したか

トップバッターはこの作品をおいて他にないだろう。スニーカー文庫から出版されるや重版を繰り返し、その売れ行きゆえになろうには無かった新エピソードを書き下ろして2巻目も出した異例の作品である(何なら3巻出版も決定)。

だがこの作品が真に異例なのは、ラノベレーベルから発売されたにもかかわらず、読者の裾野が一般読者にまで広がった点である。読書メーターやXでは「はじめてラノベを読んだけど感動した」といった声が散見される。極め付けは日本のアートシーンを代表する芸術家 村上隆氏をして、「生まれて初めてラノベを買って泣いた。読んだ後、10冊買って知り合いに手紙を添えて配った」とインスタ上で言わしめたことである。

なろうでは、連載中こそブックマーク数は2であったが、完結後に多くに読まれ2023年を代表する人気作品にのしあがっている。

なお、後続作品の紹介とのバランスをとるために内容については割愛させていただく。文字数は7万字程度なので、気になった人はサクッと読もう。

誰が勇者を殺したか / 駄犬
https://ncode.syosetu.com/n1052ib/

オススメその2: 魔女と傭兵

一般のなろう作品とは雰囲気が大きく異なる硬派なファンタジー。これが本作を読んだ人たちの感想だろう。2021年に連載を開始し、約1年の雌伏を経てランキングに躍り出る。そしてそのまま2022年の人気作品の一角となった。

主人公は二十代だが、幼い頃からの傭兵家業のせいで、肝っ玉と貫禄はすでに古参兵のそれである。そんな彼がある事件をきっかけに人類種とは異なる「魔女」と知り合い、その魔女に雇われ彼女の安住の地を目指して新大陸に渡る。そこで生活基盤を固めるべく「冒険者」に志願した魔女の護衛役として、ともに現地の人たちを戦慄させるほど名を轟かせていくのだ。

この作品はハードボイルドな世界観が抜群に良く、主人公シグの普段は合理的でありならいざという時は義理や人情を優先するある種の唯我独尊な振る舞いに惚れる。そして、それを相棒として受け入れ一緒に道を歩む破天荒なシアーシャの存在も、よくあるなろうのヒロイン像とかけ離れており、新鮮かつ魅力的である。

また、戦闘描写に関してはなろう作品の中でもトップクラスと言っても過言ではなく、特に信念と信念のぶつかり合いとなったとある教団の神父との一戦の白熱ぶりは記憶にしっかりと刻まれている。

ゆえにアニメ化が期待される逸品である。

魔女と傭兵 / 超法規的かえる
https://ncode.syosetu.com/n2819ha/

オススメその3: サイレント・ウィッチ

2020年に連載開始したファンタジーのうち女性向けの作品として熱心な読者を多く生み出しているのが本作である。2020年は急激に女性読者向けの作品に人気が集中し始めた年であり、その象徴的な作品のひとつと言えるかもしれない。とはいえ、連載中は当然として完結後も爆発的に人気が拡大したわけではなく、商業デビューとの相乗効果でじわじわファンが増えていった作品である。

女性向けのなろう作品といえば悪役令嬢・婚約破棄を含んだ作品が定番と化しているが、本作は学園を舞台にした謎解きを物語の中心に据え、秘密裏に事件の調査を命じられた主人公モニカの人間的成長と、周辺の魅力的なキャラとのドラマチックな関係性の変化を愉しむものとなっている。

本作を通読すると、著者の依空まつりさんのストーリーテリングの力がずば抜けていることに誰しも感銘を受けると思うが、実は本作が商業デビュー作というのだから恐ろしい。こういった野生の天才が、ふとした拍子に読者に発見されて一気に商業の舞台に駆け上がるのも、小説家になろうの醍醐味なのである。

サイレント・ウィッチ / 依空まつり
https://ncode.syosetu.com/n8356ga/

オススメその4: 魔術師クノンは見えている

小説家になろうの2021年の覇権作品と言えば、この作品を挙げる人が多いのではないだろうか。しかもこの作品はなろうのどの異世界テンプレとも毛色の違う不思議な空気感をまとった作品として当時は話題になった。

主人公クノンはある種の呪いにより生まれた時から全盲であった。物心がつくとともにその事実は彼の心を蝕んでいったが、ある日魔法に出会い、その自由度の高さから、いずれ視覚を代替する魔法を生み出すことができると信じ、前を向いて生きることを決意。

そこから始まる彼の底抜けにポジティブでコミカルな人生は、多くの読者を魅了するものとなった。彼の言動を楽しみ、ツッコミを入れる感想欄の数多の投稿がその証左と言える。

また、この作品は魔法を研究する学園がメインの舞台になることから、様々な理由で「魔法に狂った一流の魔法使い」が多数登場するのだが、その狂いっぷりもそれぞれに個性があり、これだけバリエーションに富んだキャラ造形ができる作者の引き出しの多さに舌を巻く。例えば、世間的には忌避感の強い「造魔(死骸に仮初の命を与えて使役する技術)」を研究している教授の静かでありながら時折見せる突き抜けた狂気の描写と、それにノリノリでついていく主人公クノン、常識を捨てきれずにツッコミ担当と化した助手の会話シーンが個人的には印象深い。最近はキャラ文芸なるジャンルが流行っているが、本作ならそのジャンルで天下を取れるのでは?と思えるほどである。

2020年までに発表された人気作品の多くがアニメ化された今、次にアニメ化する作品の有力候補の一角は間違いなくこの作品であろう。
なんとこの原稿を投稿する直前にアニメ化決定の報が流れてきました。すごいタイミング……。

魔術師クノンは見えている / 南野海風
https://ncode.syosetu.com/n1314hd/

オススメその5: 崩壊世界の魔法杖職人

本作は、毎日の更新と感想への返信返しのために1日約12時間(うち感想返信6時間)をかけているというあらゆる意味ですごい作品である。その人気ぶりは2024年のローファンタジー部門でトップクラス。著者の黒留ハガネさんは、書籍化の本数こそ少ないが、小説家になろうの古参読者から熱い支持を得ている作家の1人に挙げられるだろう。

その特徴は、一部の例外を除き、主人公が「未知」のもの(魔法、超能力、迷宮食材など)をひたすら実験と検証によって解き明かし、その過程で主人公が大いなる力を手に入れるというものだ。本作もその特徴をたたえつつ、物語のテンポや喜劇的で奇跡的なシチュエーションの連発で読者を虜にしている。

すでに述べた通り本作は感想返しに6時間もかかっている。それもそのはずで、最近は毎回の更新ごとに感想が100を超え、盛り上がった回では200に迫る。これはまさにカルト的な人気を誇っている証左であり、読者が熱心に感想を書いてよこす点で本記事の冒頭で挙げた『シャングリラ・フロンティア』に比肩する。

まだ書籍化の話は出ていないが、今後間違いなく商業デビューするだろうし、アニメ化さえ夢ではない。ゆえに小説家になろうで今最もその動向が注目されている作品と言える(異論は認める)。

崩壊世界の魔法杖職人 / 黒留ハガネ
https://ncode.syosetu.com/n8281jr/

オススメその6: 水属性の魔法使い

本作は2020年に連載をスタートしてその年を代表する作品に数えられるようになった。計画的な連載と休載を繰り返しつつ、2025年1月から連載を再開しており、それに合わせるかのよう作品のアニメ化も発表されている。

本作はいわゆる小説家になろうの古き良きテンプレを踏襲しており、主人公の死と転生から始まる。と言っても赤ちゃんスタートではなく、前世と同じ肉体を使い、魔物が跋扈する大森林にセーフティエリアの機能を持つ小屋とともに転生する。周りに人はおらず、かといって森林を抜けるにはあまりにもリスクが大きいため、転生後20年はぼっちでサバイバルと修行を楽しむことになる。そして水属性魔法と剣の達人となったところで転機が訪れる。盟友アベルとの出会いだ。

そこからようやく長い長い主人公涼の物語が本格的にスタートする。その物語は、涼のボケにアベルのツッコミを挟むことで長大でありながら軽妙な出来栄えとなっており、この作品最大の魅力となっている。

また、所々に差し込まれる魔法と科学を組み合わせた知識も面白い。聞くところによると、作者がさまざまな論文を読み込んで設定へと落とし込んでいるそうで、実際の科学への関心も刺激される。特に記憶に残っているのは、ウォーターカッターを魔法で再現した時で、この時はその原理を説明するために科学的な根拠とともに書籍換算で2ページにまたがる長大な記述があり、私なんぞはそれだけでご飯三杯はいけるな!とワクワクした次第である。

なお本作は、男性読者だけでなく女性読者にも人気があり、書籍はジュニア版も出版されている。つまり老若男女全てを対象とした珍しい作品なのである。

水属性の魔法使い / 久宝忠

https://ncode.syosetu.com/n0022gd/

さいごに

今回紹介した作品は、Web小説の中のごく一部、それも「小説家になろう」限定です。話題というだけあって、どれもサイトのランキング上位に名を連ねるようなタイトルばかりとなっていますが、それでも世間にはまだまだ知られていない作品だと思います。

今後も、このようにWeb小説界隈では有名だったり、知る人ぞ知るだったり、とにかく私が独断と偏見で「これは面白い!」と思った作品を紹介していきますので、当アカウントのフォローをよろしくお願いします。

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