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時間という資産

日本が、経済成長国から成熟国になっていく中で、または文化大国になっていく中で、我々に求められる変化は何だろうか。

確かな答えなどない前提で、僕は「時間」に対する価値観だと思う。

一般的に成長国の労働力は若く安い。それでも人口が増え経済が伸びているので、みんなで沢山働き、回転数を上げることで、国全体が成長する。その時の価値観としては、時間はとにかく短いほうがいい。スクラップアンドビルドで、短期間に新たなビルが次々と建つ東京みたいなイメージだ。

一方で、経済が成熟してくると、人口減少局面に入り、中央年齢が上がっていく。今の日本は約50歳。アメリカみたいな移民国家は例外として、成熟国では上記のようなゲームはうまく回らなくなる。日本も他のアジア諸国にその座を譲り、別のポジションを持つしかない。

その時、時間に対しては「短いほうがいい」から「長いほうがいい」という価値観への転換が迫られる。同世代の異才であるSHONAIの山中大介CEOも「時間資産」と表現していた。つまりは、そこに積み重なる資産を武器にするということでもある。まちに例えるならば、京都や高山または直島を起点とする瀬戸内のようなイメージだ。

ブランドのコアの一つは歴史でもある。歴史(History)の中に物語(Story)がある。これからは日本全体でどれだけのブランドビジネスを育てられるかが肝になるだろう。そういった意味で、欧州に学ぶことは多いと思う。

数年前、ドイツ発のスーツケースRIMOWAが、フランスのLVHMに買収されたが、それは完全に高機能商品から高級ブランドになることを象徴していた。

この広告では、新商品や新機能を謳うのではなく、「生涯の思い出を保証」を約束し、使い古されステッカーだらけのRIMOWAが掲載されている。時間の長さを味方につけるとは、こういうことだと思う。これは新興国からは提案ができない。

もちろん伝統をそのまま残せばいいというわけではない。建物のリノベーションのように、蓄積した時間の気配は残しながらも、時代に合わせて進化させていくことが大事なんだろう。

先日、麻布台ヒルズギャラリーで開催されていた、「ポケモン×伝統工芸」はすごく良かった。実際、海外の方々が列を成し、感動して写真を撮りまくっていた。地方こそ、こういう時間資産を武器にした新しい仕掛けに投資していくことが戦略になるだろう。