【有料記事】『難経』第七十五難 は「頭寒足熱」の説明の試みである ~陰陽理論を用いた「東方実、西方虚、瀉南方、補北方」の新解釈の試み~(本木晋平)
七十五の難に曰く、経に言う、東方実し、西方虚せば、南方を瀉し、北方を補うとは何の謂ぞや。然るなり、金木水火土当に更々相平ぐべし。東方は木なり、西方は金なり、木実せんと欲せば金当に之を平ぐべし、火実せんと欲せば水当に之を平ぐべし、土実せんと欲せば木当に之を平ぐべし、金実せんと欲せば火当に之を平ぐべし、水実せんと欲せば土当に之を平ぐべし。東方は肝なり、即ち知らんぬ肝実することを。西方は肺なり、則ち知らんぬ肺虚することを。南方の火を瀉し、北方の水を補うとは、南方は火.火は木の子なり。北方は水、水は木の母なり、水は火に勝つ、子能く母をして実せしめ、母よく子をして虚せしむ。故に火を写(ママ)し、水を補い、金をして気を平らぐることを得せしめんと欲するなり。経に曰く、其の虚を治すること能はずんば何ぞ其の余を問わんとは、此れ之の謂なり。1)
本稿は、月刊誌『医道の日本』2019年4月号の「オピニオン」に発表した「『難経』第七十五難が教えてくれること」の補遺である。
結論から言うと、『難経』第七十五難は「頭寒足熱」の原理を五行理論を用いて説明しようと試みているのである。
どうしてそう断言できるのか?
これから陰陽理論を用いて「東方実、西方虚、瀉南方、補北方」を解釈するのだが、その前に、前回発表した第七十五難の西洋医学的解釈を再掲する。
「東方」=「木」を「筋・ストレス」、「西方」=「金」を「肺(呼吸器)」、「北方」=「水」を「水、冷却・腎経(足・腹側)と膀胱経(背面全体)」、「南方」=「火」を「熱・心経と小腸経(手・頚肩部の背側)」と反訳して解釈したものである。
「呼吸器感染症で発熱しており、(咳やくしゃみ、鼻水などによる体力消耗・ストレスで、特に上半身が著しく)筋肉がこわばっている場合、水分を補給させ、冷湿布や水まくらなどで熱を下げなさい。症状が比較的軽い場合、全身(手足と特に背面全体)の筋緊張を取り除くように鍼を打ちなさい。また、寝たきりなどの影響で冷えがちの足や腹部を温めることも大切です」
本論に入る。
まず、陰陽理論について簡単に復習しておきたい。
●陽は「上・火・熱・頭・背側」、陰は「下・水・寒・足・腹側」である。
●「東」は「陰中の陽」、「南」は「陽中の陽」、「西」は「陽中の陰」、「北」は「陰中の陰」である。
●陰陽の気は「陰中の陽(東)」→「陽中の陽(南)」→「陽中の陰(西)」→「陰中の陰(北)」→「陰中の陽(東)」・・・と変化しながら循環していく。これは五行色体表中の「五行」「五季」「五刻」が理解の助けになるだろう。「木→火(→土)→金→水→木・・・」「春→夏(→長夏あるいは土用)→秋→冬→春・・・」「朝→昼(→午)→夕→夜→朝・・・」というぐあいである。
●陽が極まれば陰になり、陰が極まれば陽になる。(陰陽の転化作用)
以上を踏まえ、図を用いながら説明する。
通常時(健康なとき)は「東=陰中の陽」から「南=陽中の陽」に、上へ向かう陽の気がちょうどよく供給され続ける。「南=陽中の陽」で極まった陽の気は転化して、「西=陽中の陰」へと滞りなく流れていく。
一方「西=陽中の陰」から「北=陰中の陰」には、下へ向かう陰の気が、やはりちょうどよく供給され続け、「北=陰中の陰」で極まった陰の気は転化して、「東=陰中の陽」へと滞りなく流れていく。結果、気はきちんと循環できている。(図1a)
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