【映画感想】 『関心領域』
雑誌などに載っている2024ベスト映画に、結構上位で入っている『関心領域』。
この映画を見てピンと来なかったと言うと、人でなしのように思われそう。だが、個人的にピンと来なかった。
あまり知らない作家の人がやっているYouTubeのチャンネルで、『関心領域』はシネフィルだけがわかるようなマニアックな映画で、自分は全く意味がわからなかったといっているのを見たのだが、流石にそれはないし、話ぐらいははわかるでしょう。
アウシュビッツ強制収容所の責任者が、その施設の横に住居を構え家族と住んでいる。残酷な所業が行われているその側で生活している彼らは、どう言う心理でそこで過ごしていたか❓まあ、ざっくり言えばそんな話なのでしょう。
評論家などは解説で人間はどんな非道な状況でも慣れてしまう。これぞ「凡庸な悪」やおまへんか(ちょっと違うか)。そんなことが言うのだろう。
(自分の見た回ではポップコーンの箱を持って、劇場の中に入る人がいた。
ホロコースト施設の近くにいるくせに、何も思わぬ非人間的な人間を観察するという映画。それをポップコーン食って見るというのもどうなんでしょう。別にいいんだけど)
しかし、『関心領域』というタイトルが、そこに疑問を起こさせる。
彼らは本当にホロコースト施設の横で暮らしていて、何も考えず平気でいられたのか。「人間というものは、そんなものだ」と言えるのか。
本当かな?それこそ人の真理を決めつけて、自分の関心領域を狭めているのでは?と思ってしまう。
自分が所長を務めているとはいえ、そんなところの近くに住むのにストレスはなかったのか。嫌な役割を押し付けられていると思わなかったのか。無意識的にもストレスはあったのではないか。本当の真相はわからないのだが…。
『関心領域』が狭いといえば、そもそも、なぜドイツのホロコースト映画ばかり作られるのか。他に戦争犯罪などの話はあるはずだ。ベトナム戦争やイラク戦争もまた再び掘り起こしていいはずだ。
ヒトラーとドイツ帝国がやったことは、馬鹿馬鹿しいほど残酷でわかりやすい。しかし、戦勝国にも戦争を起こした責任があるのではないか。作り手も観客も凡庸に悪という存在を決めつけ過ぎているのではないか。
ロシアとウクライナの戦争にしても、ロシアが悪という単純な対立構造が、容易に戦争を肯定することになってしまう危険性もある。
『関心領域』を見ている時に思い浮かぶのは、イスラエルとガザの戦争こと。
トランプが前期の大統領だった時、人種差別の問題が増加したことによって、いつもより上映されるホロコースト映画は多かったと思う。
その時と今とは時代のフェイズが変わっている。映画の制作時期もあって、それに追いついていけているのだろうか。
ただユダヤ人=被害者という構造が、変わってしまっている。
社会的意義があるから、2024のベスト映画に選ばれているとしたら、今、起こっている戦争を無視していることになってしまう。
A24の映画は苦手で、どれも面白いと思えるものがない。(何か一つぐらいあったかもしれないが全く思い出せない)
そのせいでイマイチいいとは思えなかった可能性もあるが…。
この映画で一番怖いのは、エンディングのタイトルロールで流れる曲だ。
ガス室で叫んでいる人々のような恐ろしい声が延々とつづく音楽。なぜ、こんなホラー映画のような音楽をエンディングで使うのか。
本当にホロコーストで死んだ人のことを思えば、こんな音楽を使わないはずだと思うけど。
ポン・ジュノの『殺人の追憶』ではオープニングでも使われるテーマ曲が、事件の被害者に捧げるように、エンディングでは讃美歌のようなコーラスが入っている。
ベタな方法ではあるけど、讃美歌のようにホロコーストの被害者の人を追悼するような曲で良かったのではないか。
あのエンディングテーマでは、あまりにもデリカシーが無さすぎると思う。
音響がすごいという感想も何かで見た。
音響とホロコースト施設とその近くですむ所長の家族。と考えると何か新しく面白い映画の像が朧げに浮かばなくもないんだけど、しかし、今、映画にするべき社会的意義と、映画の面白さが相反するような気がする。(終)