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時間系SF映画の傑作がまた生まれた『ドロステのはてで僕ら』

6月5日に公開された『ドロステのはてで僕ら』。劇団ヨーロッパ企画が手掛けた本作は、映画ファンの間で密かに話題となっている。筆者も8月5日にTOHOシネマズ日比谷で、18:45からの回で鑑賞してきたぞ(お客さんは10人程度、ちなみにパンフレットは販売していなかった)確かに評判通りの面白さだった。ここでは本作の魅力を、製作の背景や感想を交えて解説していきたい。(ネタバレには触れないけど、演出や製作経緯に触れるので気になる方はお気をつけ下さい)

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製作年:2020 年製作国:日本 監督:上田誠

カフェの店長のカトウ、仕事場のカフェのすぐ裏にあるアパートの2階の自室に帰ると机に置いたモニターの中から呼ぶ声がする。画面を見ると、そこには自分の顔が映っていた。画面の中のカトウから「オレは2分後のオレ」と語りかけられるカトウ。何故かは分からないが、2階の部屋と1階のカフェが、2分の時差で繋がってしまったらしい。焦るカトウだったが、その事を知ったカフェの常連達は、この法則を利用し、もっと先の来を知ろうと躍起になるが…

【様々な映画の原作にもなった人気劇団『ヨーロッパ』が手掛ける長編映画】

本作を手掛けたのは、劇団『ヨーロッパ企画』。有名な劇団なので、演劇に詳しくない人でも、名前くらいは聞いたことがある人は多いのではないだろうか。しかし、そもそもヨーロッパ企画とはなんぞや?という人も多いと思う。まずは簡単に説明していきたい。

ヨーロッパ劇団:京都を拠点に活躍する劇団。毎年の公演で1万5千人も動員する有名人気劇団。演劇以外にも、イベント企画、映像制作、テレビ・ラジオの出演や企画構成など、幅広い活動をしている。その作風は、SFやファンタジーを織り交ぜた一風変わったコメディを得意とする。

ちなみに筆者が初めてその存在を知ったのは、2005年に製作された『サマー・タイムマシン・ブルース』。大学を舞台にタイムマシーンで起こるドタバタを描いた青春SFコメディ映画だ。監督を『踊る大捜査線』シリーズの本広克行がつとめ、瑛太上野樹里が出演した本作は、ヨーロッパ企画の戯曲が原作である。
2009年には、カフェに集った超能力者達とテレビ局のADが巻き起こす騒動を描いた『曲がれ!スプーン』が、本広克行監督、長澤まさみ主演で製作されているが、この作品の原作もヨーロッパ企画の『冬のユリゲラー』が原作だ。
筆者は、両作品ともDVDで鑑賞したが、どちらもSFを題材にしており、凝った展開と笑いが散りばめられた脚本が印象的だった。

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ヨーロッパ劇団の主宰、上田晋也は、これまでにも『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)、『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)など様々な映画の脚本を手がけている。
ヨーロッパ企画自身の短編映画『ハウリング』をリブートした本作は、初めて劇団全員で取り組んだ長編映画となる。

【凝りまくった脚本と演出が凄い、開始5分で物語に引き込まれた】

本作は、とにかく脚本が凝りまくっている。ネタバレになるので、詳しくは書かないが(本作はあらすじは何も知らない状態で観るのがおすすめ!)、上記に挙げた『サマー・タイムマシーン・ブルース』と同じく時間が題材となっている。そしてタイトルの『ドロステ』とは、ドロステ効果の事。

ドロステ効果…再帰的な画像(紋章学における紋中紋)のもたらす効果のこと。あるイメージの中にそれ自身の小さなイメージが、その小さなイメージの中にはさらに小さなイメージが、その中にもさらに……と画像の解像度が許す限り果てしなく描かれる(Wikipedia)
↑だけ読むと、何のこっちゃと思うかもしれないが、要は鏡を向かい合わせにした時に、鏡に映る映像が無限に続くような入れ子構造の事を指している。

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このドロステ効果が物語の要になってくるのだが、それと同時に物語も進むにつれ、ドロステのように入り組んでくるので、観てる者は混乱必死となるだろう。
更に本作は、あるカフェとアパートを舞台に巻き起こる物語なのだが、基本長回しで撮っている。お陰で観てる側も、まるでその場にいるような臨場感を味わう事ができる。これ作り手側は相当苦心したろうな。
本作は上映時間が70分と短い。だからこそサクッと観れる点でもおすすめなのだが、その70分に無駄な時間は一つもない。開始5分も立たない内に引き込まれたら最後、あっという間に物語を体感する事になる。

【雰囲気はまるで藤子・F・不二雄の短編、物語の中にはメッセージ性も感じる】 

本作は凝ったSFながら、ヨーロッパ企画のこれまでの映画同様に、物語の随所に笑いが散りばめられている。なので、全体的な雰囲気はゆるめ。
本作の雰囲気だけでいえば、それこそ『サマー・タイムマシン・ブルース』、『曲がれ!スプーン』などに近い。
筆者は本作を鑑賞しながら、藤子・F・不二雄先生の短編のような雰囲気を感じていたのだが、劇中でもまさにその事に言及しているので、元にしてることは間違いないだろう。
シリアスというよりはあくまでコメディなので「そんな馬鹿な!」と思う場面もあった(なのでリアルスティックな演出に拘る人は不満に思う点もあるかもしれない)が、個人的にはそういったゆるさも含めて、まるで藤子・F・不二雄先生の短編のよう。そういう意味で藤子・F・不二雄先生作品が好きな人(ドラえもんも好きだけどSF短編が特に好き!という人)には、是非お薦めしたい!

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また、脚本にはメッセージ性も含まれているように感じる。それは劇中で何度も発せられる「未来に引っ張られている」という台詞。この言葉はまさしくラストの展開に掛かっているのだが、この言葉は、決められたレールの上を歩くなというメッセージのようにも聞こえるのだ。

【まとめ】

いかがだっただろうか。筆者は、本作はタイトルにも書いたように、これまでの時間を扱ったSF映画の傑作に名を連ねる作品だと思う。また『カメラを止めるな』(2018年)、『メランコリック』(2019年)と同じく低予算で面白い邦画でもある。興味のある方は是非ぜひ劇場で観て欲しい。


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ヴィクトリー下村
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