【全力で走り抜け、青春も人生も】映画『スターターピストル』感想
「スターターピストルが鳴ったら目の前のチャンスを逃すな」
舞台は現代の中国の高校。
スタータピストル(陸上競技などで使用される拳銃)を盗んだ陸上部の女子選手モン。たまたまその場に居合わせたジュアンはその犯人にさせられてしまう。
その事件をきっかけにモンに興味を抱いたジュアンは彼女に積極的にアプローチをするのだが…というあらすじ。
東京国際映画祭2本目は中国映画の『スターターピストル』を鑑賞。
ジュアンとモン、どちらも不器用な2人の男女。
そんな2人が惹かれあっていく「ボーイ・ミーツ・ガール」的な展開にはなるのかと思いきやそうはならない。
映画は安易なセンチメンタリズムに陥ることを否定する。要は「この世界には僕と君だけ」ではない。
韓国の学歴社会が熾烈なのは知っていたけど、中国も負けず劣らず。
同級生たちの「あんたたちは自分に酔っているだけ。私は良い成績を出して家族を養っていかないといけない」という台詞で分かるように中国では子供でもその背中には生活が懸かっている。
そんな彼らからしたら2人の悩みなんて甘っちょろいものに見えるのかもしれない。(確かにモンはかなり裕福な家庭だし、ジュアンの一家も裕福とまではいかなくても困ってはいなさそう)
ジュアンの父親の「自分のためじゃない、皆のために行動しろ」という台詞。その言葉通りにジュアンは行動し変わっていく。これはジュアンの成長物語だ。
こうした展開が中国っぽくて面白かった。少なくとも今の日本だとこういう方向に話は展開していかないと思う。
そしてこの辺りから2人の違いも明確になっていく。
仲間に囲まれるジュアンの姿とホテルの1室で過ごすモンの姿が対照的だ。
ラストの卒業式の場面こそ2人の今後の人生に対するスタンスの違いを表していると感じた。
走り出すジュアン、そこにモンが並んで走ることはない。副題が示すように彼女は他の人たちと同じように座ったまま。
ジュアンの「バイバイ」がとても切ない。あれは淡い恋への別れだと捉えた。
シャープな映像や雰囲気が良いし主演の2人も瑞々しくて可愛い。(場面写真だとモンばかりだけど個人的にはジュアンのキャラクターも良かった)
主人公の悪友やピアノを弾いてた子のその後など「あれって結局何だったの?」というようにエピソードが取っ散らかってる印象もあるのだけど、映画のところどころにこれから社会に出ていく子供に向けたメッセージが散りばめられていて、まさにユース部門に相応しい作品だった。
最後の場面も素敵。
机に書かれた「自分は大切な存在」という言葉。この言葉は子供だけじゃなく大人になっても常に頭の中に入れておきたい。
社会で生きていくと皆ついつい忘れてしまうから。
それにしても東京国際映画祭で観る中国映画は本当に面白いものが多い。これからも東京国際映画祭では中国映画をチェックしていこう。
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