【開催レポート】第30回市民ゼロポイントブックトーク
第30回市民ゼロポイントブックトーク
開催日:2024年1月19日(日) 於:松本市中央公民館
紹介者:福岡(企画運営委員)
参加者:11人(企画運営委員含む)
企画概要については告知ページをご覧ください
発表要旨
2024年12月3日に韓国の尹錫悦大統領が「北朝鮮の勢力に支配されている国を正常化する」と非常戒厳令を発布。市民の抵抗もあって戒厳令は取り消され、尹大統領は弾劾され、内乱罪で拘束された。発表者は12月7日、大統領弾劾に賛成する市民の大規模デモ、大統領を支持する市民の集会を取材した。その経験をもとに、今回の韓国での騒動について、発表者の見解を述べた。
最初に、大統領弾劾を求めるデモで盛んに歌われた、kpopガールズグループ「少女時代」のデビュー曲「Into the New World(また巡り合う世界)」の歌詞を紹介し、参加者で輪読。歌詞にある「私たちの目の前に聳える、未知の未来と壁。変えることはできないけれど、私は諦められない」「たくさんの知らない道のなかで、かすかな光を私は追いかける」「この世界で繰り返される悲しみにさよならを」のフレーズが、今回の市民による異議申し立ての本質を衝いていると指摘した。
その後、弾劾賛成派と大統領支持派の集会を発表者が撮影した動画を公開。前者の参加者は、年齢的にも多様で、20~30代女性が四分の一を占めている事、自発的参加者が多かったにも関わらず、整然と秩序だっていた。振られる旗も多様で、特定団体の動員ではない事を示していた。一方、大統領支持派はほとんどが高齢で、太極旗(韓国国旗)と星条旗(アメリカ国旗)のセットを振っていた。
その後、韓国で「繰り返される悲しみ」として、建国後の様々な悲劇(朝鮮戦争、軍部独裁、市民運動弾圧)に対する市民の抵抗運動の歴史を紹介。そのなかで若い女性が果たした様々な役割を指摘した。
① なぜ弾劾賛成派デモに若い女性の参加が多かったのか。
尹錫悦政権は、進歩的な前政権(文在寅大統領)のもと、根強い女性差別を指弾する韓国発のムーブメントで、トランプ再選に反対するアメリカ女性層にも広がっている4B(結婚しない、出産しない、恋愛しない、セックスしない)運動が盛んになり、男女の不平等改善が進んだことに対する反発から生まれた保守的(ミソジニー)政権であることが大きい。
② なぜ大統領支持派デモで韓国とアメリカの国旗が掲げられたのか。
朝鮮半島は日本の植民地が終わった後、ソ連に後押しされた北朝鮮と、アメリカ軍に後押しされた韓国とに、38度線で南北に分断された。数百万の犠牲者が出た1950~53年の朝鮮戦争は、休戦状態であり、法的には終わっていない。そのような状況のなか、1960年から27年にわたって韓国を支配した軍部独裁政権は、反対する勢力を北朝鮮の手先と決めつけ、極端な反共政策を行う一方、安全保障面では駐韓アメリカ軍に依存してきた。保守的な尹大統領支持派は、軍事政権時代の反共教育を引きずる世代が多い。
③ なぜ弾劾賛成派のデモで「Into the New World(また巡り合う世界)」が歌われたのか
韓国では、日本の植民地支配に抵抗した三・一独立運動(1919年)で梨花女学堂(現在の梨花子大学)の学生が大きな役割を果たすなど、女学生が抵抗運動に参加する歴史があった。2016年7月、学内改革に反対する梨花女子大学学生がキャンパスに立てこもり抵抗を示した際、警官隊に包囲されながら歌ったのが「Into the New World」だった。この時の動画が広がり、同年の朴槿恵大統領退陣を要求するロウソクデモで、一部の参加者が歌うなど、韓国における異議申し立て運動のテーマソングとなった。
このように、今回の非常戒厳をめぐって起こった弾劾賛成派と大統領支持派による大規模デモの対立軸は、北朝鮮への姿勢など安全保障をめぐったものの他に、韓国社会に根強い女性差別という要素が濃かったが、日本ではあまり紹介されていない。
発表の合間に参加者から、さまざまな質問が寄せられた(「なぜ韓国では日本よりもデモの参加者が多いのか」「尹大統領の支持率が低かったのはなぜか」「韓国の大統領が辞任後、刑事裁判に処せられたり、自死を選ぶのはなぜか」等々)。
今回の発表の柱となった、韓国における市民抵抗の歴史への理解をさらに深め、さらに日本の民主主義の在り方を考えるため、次回も、このテーマで行うことを確認して散会。
(福岡)
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