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『夢の細胞農業 培養肉を創る』の編集協力をしました

6月8日に発売される、羽生 雄毅さんの書籍『夢の細胞農業 培養肉を創る』(さくら舎)の編集協力をしました。

「ぼくがかんがえたさいきょうのSF」を実現する物語

2023年2月、あるスタートアップ企業が、アヒルの肝臓細胞を培養してつくった「培養フォアグラ」の試食を公開しました。

普通、フォアグラはガチョウやアヒルに餌をたくさん食べさせて脂肪肝になった肝臓からつくります。

一方、今回の培養フォアグラは、最初にアヒルの肝臓細胞を取り出し、体外で細胞を人工的に増やす「培養」という方法を使ってつくりました。

この培養フォアグラをつくっているのが、今回の書籍の著者である羽生さんが創業した会社「インテグリカルチャー」です。なぜ羽生さんがインテグリカルチャーを創業して培養フォアグラをつくろうと思ったのか、その経緯が書かれています。

とはいえ、壮大な野望があったかというと、どうもそうではなさそうというのが、羽生さんから話を聞いて僕が感じたことです。培養肉というと、動物愛護とかタンパク質の確保とかいろいろ言われていて、インテグリカルチャーも会社の姿勢としてこうした意義を挙げています。でも、羽生さんはそうではなく、きっかけは起業セミナーの思いつきでした。

「そうだ、培養肉つくろう!」——ある起業セミナーのワークショップで、私がふと思いついたことです。そしてここから日本の培養肉開発が実質的にスタートしました。

『夢の細胞農業 培養肉を創る』(さくら舎)プロローグより

羽生さんの原動力となっているのは「ぼくがかんがえたさいきょうのSF」です。培養肉はSF、特に宇宙船の中でタンパク源としてよく登場します。最近でも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』で少し出てきました。

今のところ、シンガポールではチキンナゲットのようなかたちで2000円くらいで買えるようになっています。普段食べるには向かないけど、試しに食べてみるくらいなら手の届く値段になっています。そこにたどり着くまでの25年の歴史も本で紹介しています。もちろん、培養肉のつくり方や難しさ、お肉だけでなく細胞を培養していろんなものづくりをする「細胞農業」も、これ1冊でわかるようになっています。むしろ、タイトルにあるように「細胞農業」という大きな技術があって、培養肉はその例の一つに過ぎないです。

夏休みの自由研究にいかが?Shojinmeat Projectの自宅でDIY培養肉

羽生さんは、インテグリカルチャーの創業者以外にも、もう一つの顔があります。「自宅で作るオープンソース純粋培養肉」をコンセプトに掲げる細胞農業の有志団体「Shojinmeat Project(ショージンミート)」の立ち上げ人でもあります。

Shojinmeat Projectでは、個人が自由に活動していて、自宅で培養肉の実験をしている人もいれば、細胞培養するための装置を自作している人もいれば、細胞培養をベースにしたフィクション作品をつくっている人もいます。活動内容をまとめたものを、毎回コミケで薄い本として売っています。

Shojinmeat Projectは、自由に活動して自由に発信するスタンスとなって、誰でも自由に参加できます。僕も何かの機会で数年前に一度イベントに参加したことがあります。それから今回の書籍のお手伝いをすることになるとは思ってもいなかったので、やはり人生何があるかわからないですね。

今回の書籍では、Shojinmeat Projectで培ってきた自宅で細胞培養実験のレシピが細かく掲載されています。せっかくなので自分でやってみたいという人も、自分でやるのは気が引けるけどどんなフローなのか気になるという人も、ぜひ読んでください!

実は日本初の細胞農業の入門書かも

本の制作は去年の夏くらいからスタート。羽生さんとは累計で10時間くらいお話をしてきて感じたのは、SFやアニメが好きで、ネット文化やオタク文化にも精通しているということ。なので、いろんな小ネタを入れると羽生さんの人物像も浮き彫りにできるかなと思って、いろいろ工夫しました。

「なんの成果も!!得られませんでした!!」とならないためのDIY培養肉レシピ

目次より

代替肉は日本でもさまざまな食品メーカーが参入していますが、単にヘルシー志向の流行に合わせて「乗るしかない、このビッグウェーブに」としているだけではありません。

41ページより

初めて培養をやってみると、たいていの人は確実に失敗します。そう、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実に。

145ページより

こんな小ネタも織り交ぜつつ、羽生さんの波瀾万丈な人生も入れつつ、細胞農業がわかる一冊となっています。日本でここまでしっかり培養肉や細胞農業を掘り下げた本はほとんどないと思うので、細胞農業の入門書としても優れていると自負しています。ぜひ手に取ってくださいませ!


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