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かわいいコンビニ店員飯田さん本公演『とりあって』観てきました

こちらを観てきました。
2ヶ月経ってしまいましたが感想を書いてみました。
以下、ネタバレを含みます。

かわいいコンビニ店員飯田さんとは

”『1秒でも多く心動く瞬間を』
自分達の持っている小さな才能を勇気を出して発信し続ける舞台創作チーム”(HPより)
主宰の池内風さんが作・演を務めていらっしゃいます。

前々から気になっていた団体でしたがやっと観に行けました。去年WSに参加した時に感じたとおりに、人間の感情の機微や言葉選びをとても大切にされています。

概要

あらすじ

舞台はいくつか店舗を持つスポーツジム(最近多いマシンのみの無人タイプではなく、エアロビとかプールがあるような大型スポーツジム)。
不況のせいなのか店舗の売り上げが落ちたり他の店舗が立ち退いたり…立て直すために体制が変わろうとした時、もともと存在していた問題が浮き彫りになっていく。

登場人物

私の感想含めての紹介になります。

進藤怜(インストラクターのアルバイト):小比類巻諒介
元広告代理店の社員だったが、色々あって辞めた後、このスポーツクラブでアルバイトしている。勤務態度は真面目。

三島克己(店舗マネージャー):猪俣三四郎
店舗と会社の板挟みの中間管理職。よく胃薬?錠剤を飲んでいる。デスクに立てられた写真立てにはきっと家族が写ってる。

栗林舞子(サブマネージャー):ししどともこ
職場の不協和音の原因のように描かれているが…?
サービス業なのに土日祝日休みを申請する肝の据わった人。

白石美香(店舗経理担当):上蓑佳代
栗林を苦々しく思っている、頼られポジの社員。

八木大河(インストラクターで、契約社員になる予定のアルバイト):鹿野宗健
長身が映える、スポーツクラブにいそうな爽やかなインストラクター。契約社員になる前だからか気を遣う場面がしばしば見られる。自己犠牲になりがち。

瀬奈柚葉(新入社員):安達優菜
可愛い声とフレッシュさを持った新入社員。なのでまだ把握していないことが多い。堀田に口説かれ困っているところを夏目に諭され、理不尽さを自覚する。

夏目文(インストラクターのアルバイトの大学生):宇野愛美
スポーツ好きそうで爽やかな女子。
不純な動機で女性たちに近づこうとする堀田にマグマのような怒りを滾らせている。

初芝理恵(フロントスタッフのアルバイトの主婦):小嶋直子
平和主義のおっとりタイプ。なので我慢しがちで、はっきり意見も言わないため、それが周りをやきもきさせたりもする。でもこういう人は必要だよ。

堀田利伸(フリートレーナー):髙橋龍児
その自己肯定感の強さはどこからくるんだ…あらゆる面で押しの強い陽キャ。距離感近いがフリーという立場柄、立ち入れない場面に出くわすこともしばしば。でもその遠慮のなさ、ちょっと羨ましい。

兼持望(インストラクターのアルバイト。声のみの出演):高畑裕太
大体プールサイドを見守っている。人懐っこさがトランシーバーからも伝わってくる。

感想

いやあ…観始めて数十分で既視感…
私はスポーツクラブで働いたことはないのですが、人物相関図とか問題点とか「あれ?私これ経験したよな?」の連続!

まず上(本部)からの無茶振り。
まるで下々の生活を知らない政治家が頭で考えた理論だけで作った法案のように、現場の声を無視した指示。”見えない家事”が主婦をイライラさせるように、細かいオペレーションの存在を知らねえ人が打ち出した提案にみんな頭を抱える。
キッズクラスを作ることになるのですが、子どもに慣れた人が足りてないのにそんなの関係ねえ!とばかりに強行するので、ただでさえ休めなかった人にさらに仕事がのしかかる。後半では休憩を取るのすら困難に(労基…)。

しかし!
どんな状況でも休む人間は休む!それが栗林(サブマネ)だ!
スポーツクラブも飲食店のようにサービス業でもあると思うのですが、

土日祝に3連休を申請しちゃう鋼の心臓の持ち主なんだぜ…

信じられる?しかも一度や二度じゃないのよ。

長くカフェでバイトしてたのですが、週末に連休って取り辛かったなあ…。
栗林は社員だけど、サービス業は基本平日が休みになるはず。本部もこんな申請通すなよと思うのですが…作中には書かれていませんが、多分これ、有給を通さないと労働基準法的にまずい、という事情がある気がする。こうなると当然土日祝日に別の人間にしわ寄せが行くわけで、責任感というか犠牲心を持った人が抱えがちになるよね…泣ける。

泣けてくる人たち

栗林が原因で泣けてくる人たち

  • 白石
    栗林を苦々しく思っている人が9割ですが、その中でも白石(経理)は特に嫌悪しているように感じた。それは社員という責任を持たないといけない立場なのに自分を最優先させる態度と、同性ゆえという主に二つから生じている気がした。責任感のある女性なので、「私がやる」とどんどん仕事が増える。出勤数も増える。休みは減る。

  • 進藤
    事情あって大きな会社の正社員からアルバイトに転身した進藤。
    多分入った時は、体も動かせて健全そうな職場でリハビリがてらゆっくり働こう、ぐらいに思ってたんじゃないかと思うのですが、持ち前の責任感と真面目さから、自分から次々に仕事を引き受けてしまう。この人の栗林への憎悪も結構なものだった。進藤の真面目さと栗林の奔放さを足して割れたらいいのにと思うけど、大体人間てバランス悪いよね。

  • 冒頭からナイスなマッスルを見せてくれた八木。
    じきに契約社員になるという時で、気合も入るよねって時にこんなに環境が悪くなってかわいそう…。これから長く働く職場だし、”上手くやりたい”からか、週6(7だったかも?)勤務とかありえない状態になっていく。就職難はわかるけどここ辞めなよって言いたくなった。

色々泣けてくるんだけど、何が一番やるせないって…
栗林が顧客契約件数1位なんだよなあ。
ある。あるあるで泣けてくる。

違う意味で泣けてくる人たち

  • 三島
    個人的に面白かったのは、店舗マネージャーの三島と進藤のやりとりでした。
    訳あって広告代理店を退職し(!)ここでアルバイトしてる進藤に、勢いついでに前職での給料を聞いたりしちゃうのですが、新卒の進藤の給料はおそらく600~700万なのに対し、推定40代半ばの三島の給料が(多分)300万円台で絶句するんです。
    私はこの劇の中で一番共感したのは三島なんですね。

三島の悲しさとは
店舗マネージャーという、中間管理職の立場にある三島。
現場に立つ人間ながら本部の命令には従わないといけなく、売り上げノルマ、従業員、お客様に挟まれるという、ぶっといサンドイッチみたいになりながら、机の上の謎の錠剤を飲んでは奮闘する毎日。きっとあれは胃薬で、写真立てには家族の写真が収められているはず…。勝手な想像だけど、家族仲があまり良くない気がするんですよね…だって全然帰れてない上に薄給なんですから。家庭が憩いの場ならあんなに薬に頼らないはずだし。
仕事バリバリしたいであろう三島にとっては、多くの人が憧れる職種・企業を自主都合で進藤が辞めたのは理解不能だろうし、歯痒さすら感じているはず。自分なら頑張れるのにって。でも自分がそこに入れはしないのだ。
転職したら?と言いたくなる環境だが、それが難しい年齢等というのは抜きにしても、三島は動かないんじゃないか。
消耗の激しい職場だろうと、こんなにも時間や労力を尽くした環境だからこそ”ここ”で認められることに拘ってしまうあまり、離れられないじゃないだろうか。

堀田というパワー

登場人物紹介で少し羨ましいと書きました。人との距離感がもともと近い人っているよね…それが堀田。無神経と陽キャの狭間の人。勘違いでも自信を持っているので自己肯定感は高いし、人にも遠慮なくコンタクトが取れる姿勢は、「距離を感じる」と言われがちな自分には遠い存在です。営業力の高さって色々な場面で大事だと思うし、例えコケても冗談に出来る器用さは羨ましいものがありました。

しかし…

女性にも無遠慮に近づこうとする姿勢はセクハラにもなっていました。
入ったばかりのヒヨコ状態の瀬奈に狙いを定め、しつこくSNSを聞こうとしたり飲みに誘ったりとぐいぐい来る(瀬奈が笑顔ながらも頑なに拒否していたのが笑えた)。後日WSでこの堀田について池内さんが仰っていたのですが、堀田自身は自分がおじさんという自覚はなく、むしろ世間のおじさんみたいな部分を自分は持っていないだろうと買い被っている節があるそうです。
ああ、いるよなあ…他の人がやったらアウトなことを、自分ならジョークで済むと思っている人。だけどアプローチの仕方や目の光り方はぎっとりと脂が乗っていて、もう迷惑なおじさん以外の何者でもないのだ。しかしパワーが強いので回りは巻き込まれる。

堀田に迷惑してる女性たち
大学生とは思えない責任感の強さで、何かと理由をつけては現場にでたがらない栗林のせいで受付を引き受けたりと活発に動く爽やかな夏目ですが、過去に堀田のセクハラを受けていました。セクハラってニュースで見ると「なんで毅然とした態度で断れないんだ?」と思うかもしれませんが、その人との人間関係や今後、自分が舐められたことへの怒りなど、あらゆることが一気に降りかかるので、瞬時にベストな対応方が見つからず、愛想笑いとかしちゃうことが多いんじゃないかな(私はそうだった)。後になって沸々と怒りが沸いてしんどいし、同じ状況の人を間近で見た日には、その時の自分を見ているようでやきもきする。「あいつはここを金がもらえるマッチングアプリだと思ってる」はこの劇一番の台詞だと思った。
主婦の初芝は平和主義だからか、明るく努めるあまりに自分の夫婦生活の悩みを自虐的に堀田に話していたりと痛々しかった。これは側で聞いていたらぞっとする…。

こんなに迷惑な男ですが、インストラクターとしては人気があって、予定が詰まっていたりするんだから理不尽だ。でもリアルだ。

明かされる進藤の過去と栗林の同一性

さて、諸悪の根源のように描かれる栗林ですが、彼女には彼女の言い分があります。
たびたび話に上がる週末の有給申請ですが、彼女的にはこれは正当な権利であり、正規の申請なんですよね。堀田とちょろっと話していましたが、そもそも経営難な会社でどんなに頑張ったって給料が上がりはしない。だったらできる限りの権利を行使したい。

いやわかるよ…わかるよ栗林!
ただもし自分が同じ立場だったらやっぱり周りの目を気にしてできないけど、その気持ちめっちゃわかるよ…あんたの心臓ちょっと欲しい。

てかこんな働いて今期ボーナスなしって!!!

進藤に厳しく責められた栗林は適応障害を発症し、正論を唱えた進藤は退職を促されます。真反対に見える進藤と栗林ですが、実は栗林は進藤でもあったのでは?と暗喩しているのがこの脚本の最大の魅力です。
進藤は広告代理店を辞めた理由も適応障害でした。精神疾患について詳しくありませんが、適応障害というものが“(その場に)適応(することができなかったゆえに起きた機能)障害”とするならば、自分なりに職場を良くしたかった、という栗林なりの姿勢がこの職場に合わなかった栗林は、過去の進藤でもあったのではないでしょうか。正論とはこの場に適した判断であり、ここでは進藤がそれに該当した。絶対の正義も悪もなく、適応しているかが肝心なのだということ。
まあ栗林は自分のタイムカード誤魔化したり顧客対応避けたりと他にも問題があるので悪いところが目立ちますが、きっと広告代理店では進藤も適さなかったゆえ、悪になってしまった進藤は心身に支障をきたしてしまったのではないかと推測しました。その環境に自分が合わなければ誰もなり得ることの恐ろしさと危うさが丁寧に描かれていました。

しかし、栗林の掲げる“気持ち良い職場”のモットーが『笑顔』とか『元気に挨拶』という、みんなの共有する問題点からズレまくってるのがやはりリアルだったなあ。進藤が去った後の話し合いでもこれを頑として主張するのも居そうだなあ…と思いました。きっとずっと平行線なんだろうな。

栗林は現実を認識していて、逃げ口実のために言っていたんだろうか?それとも本当にズレた人だったんだろうか?どっちともとれる曖昧さを脚本は緻密に描いていたし、演じた女優も良かった。

一番悪いのは誰か?

それは進藤でも堀田でも栗林でもなく…

このスポーツクラブの運営会社だろう。

経営が危機的な状況になると当然人件費は削られ、給料は減るのに仕事が増えて従業員のストレスはあっという間に最高潮になります。
ちなみに私が働いてたカフェもこんな感じでみんな余裕がなくなり、10年ほど前に倒産しました。

「とりあって」
何を取(獲・奪)り合った?
それは自分の権利か、尊厳か。
”わけあって”になかなかなれないのが悲しいですね。

池内さんて繊細なんだろうな。

リンクなど

余談ですが、私はいつかこの団体が作るものに出演したいと思っております。よろしければ応援お願いします!

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