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人材の流動性が高まるならアリ~自治体間転籍制度/日本経済新聞報道を読んで~


1月9日に報じられた日本経済新聞のこちらの記事が話題です。

今日はこの記事を読んで考えたことを、暫定版として書き記しておきます。


◆記事の主な内容

地方公務員に共通資格を付与して、ある自治体から別の自治体へと転籍しやすくするというもの。地方公務員の志望者減少に歯止めがかからないことから、人材の流動性を高めたいという政府の意図を報じています。

記事で書かれているのは、結婚であったり親の介護などを理由に地方公務員を辞めてしまうケースを例示し、そういった場合でも、別の街で地方公務員を続けることで業界全体として人材を確保したいということのようです。

イメージは、記事にもあるとおり、地銀が全国のネットワークで人材を共有する「地銀人材バンク」。


あくまで日本経済新聞が報じている内容で、私としては総務省の研究会の資料や議事要旨から裏取りができていないので、何かを評価するのは尚早かなと感じています。(そもそも日経のこの手の記事って……以下略)

議論されているとしたら、このあたりの研究会かな?

この研究会じゃなかったとしても、総務省の自治行政局系の研究会は、今人材マネジメントや定年延長、定員管理など結構面白い議論をしているので、本件に限らず要チェックです。


◆SNSでの反応

早くもTwitterなどSNS上では、当事者である地方公務員を中心にさまざまな感想が飛び交っています。

私が見る限りではパターンは3つ。

一つ目は、比較的前向きに「他の自治体で働けるなら嬉しい」「組織も職員の働く環境を少しは考えるようになる」「スキルを活かして転籍したい」といった声。

二つ目は、シニカルに「自分には無理」「一部の優秀な公務員しか恩恵を受けられない」「結婚とか限られた場面だけでしょ」といった声。

三つ目は、組織や地域の視点から「地方から都市部に人材が流出する」「国や県庁から重要ポストに降りてくるのでは」「地域や団体間の格差が広がる」と危機感を表す声も。

どれも当事者の声として、そうだよな~と共感できる声ばかり。


◆流動性が高まるならアリ

そんな中、裏取りできないなりに、記事の情報から私が感じていることを何点かご紹介します。


細かい制度設計がどうであっても、ポイントは自治体間の人材の流動性を高めるという点です。

自治体間の人材の流動性を高めることが本当にできるなら、その思想に対しては私は強く賛同します。


じゃあ、人材の流動性が高まることが、なぜいいことなのか。


◆メリット① 組織の観点

まず組織は、職員が他の自治体を魅力に感じて転出してしまうリスクが大きくなるので、職員の満足度を高める努力が求められます。

そのためには、給与などの外的な要因も大切ですが、ワークエンゲージメントを高めるような内発的動機づけを促す施策の価値が高まるでしょう。
例えば、人事異動は今以上に職員の適性を考慮することになるかもしれません。また、転籍しようとするような能動的な職員を意識するのであれば、仕事をつうじた成長の機会も大きな報酬として求められるはずです。

首長や議会も「環境が悪くて若手職員の転出が増えている」となれば、住民から突き上げられ、その対策は公約の隅の方にポジションを得るかもしれません。


◆メリット② 職員の視点

職員は、何らかの事情(結婚・介護などのライフステージだけでなく、人間関係など含め)で今いる組織を離れたいと思ったときに、自分の希望が叶いやすいように、転籍の際にアピールできるように業務での実績をつくろうと励むようになります。自分の知識やスキルを高めることにも主体的に取り組むひとが増えるでしょう。

何よりも、「自分はいつか別の団体に転籍するかもしれない」と自らのキャリアについて主体的に考えるひとが増え、庁内でもそういった会話が同僚同士や上司と部下の間で増えることは、とてもいいことです。
管理職・監督職は、今以上に課員・係員のキャリアについて意識する必要が出てきますし、そのスキルや知識が求められます。

いずれ、SNSでの前向き派の声にもあったように、広報の専門家、公有地活用の専門家、総合計画づくりの専門家といったように、専門性を身に付けて自治体間を渡り歩くひとが出てきたら面白いと思います。


では、その手段が転籍制度だとしたら、ポイントはどんなところになるのか。


◆ポイント① ボリューム

最大のポイントは、この転籍制度をあてにした募集が、各自治体からどのくらいのボリュームで示されるかです。

私が勤めるさいたま市のように1万人を超える組織で、毎年2~3人しか募集がないとしたら、業界全体での人材の流動性向上にはつながらないでしょう。
それでも、結婚や介護による離職を防ぐくらいの募集枠はつくりだされるかもしれません。(それはそれでいいこと)


◆ポイント② 格差の拡大

また、小規模自治体や地方から首都圏や都市部の自治体へと人材が流入するのではないかという指摘も、概ねそういう流れになりそうです。人材の格差の拡大です。
そこは小規模自治体や地方の団体ほど、その地域だからこそできる魅力ある仕事や家族と暮らす環境のよさなどをアピールして、逆に呼び込む努力が求められるようになるでしょう。

もしそれが自治体規模の維持を脅かすようなレベルであれば、県庁が広域での人材活用について介入するなどの役割も求められるのではないでしょうか。


◆ポイント③ 週3勤務と副業・兼業もセットで

また、地方公務員全体での人材確保と、そのための人材の流動性確保が必要なのであれば、人材確保の施策としての転籍制度に加え、地域や広域での人材共有のための柔軟な雇用(週3勤務正職員)や副業・兼業の緩和もセットで整備すると、より実効性が高まりそうです。

例えば、私が転籍で住んでいる上尾市役所に週3勤務の正職員として勤めながら、副業・兼業として古巣のさいたま市役所と業務委託契約を結んで、キャリアコンサルタントとして月に何回か職員のキャリア相談とキャリア研修を行うといった形はどうでしょうか。


◆最後に

実際のところ、「資格」が本当にそのひとの能力・スキルを担保するものになるのか疑問もありますし、そもそも公式な資料で裏取りする前の考えなのであくまで暫定版ですが、私は比較的前向きに捉えています。

それは意図が「人材の流動性を高める」ことだから。

もちろんやりようによっては、全然流動性が高まらなかったり、逆に高まり過ぎて安定的な組織運営が脅かされるようであれば考えなくてはいけません。
ただ、それでも今までがあまりに硬直的であったことを考えれば、一度振り切ってから、揺り戻しでほどよいところに落ち着くのも一つの道筋かなと思います。

読んでくださった皆さんとの意見交換の材料になれば幸いです。


あ、そういえば、本当に転籍制度が整備されたら、皆さんは使いますか?



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