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雑用は押し付けられるのか、学びのためにやらせていただくのか


今日の記事は、少し若い人に読んでいただきたい記事です。(でも、中堅以上でも受け入れ側として大切な視点を含むと思います)


私がまだオッサン顔の若手だった頃、毎朝始業前に職場の皆さんの机を拭き、珈琲を淹れるという作業がありました。

このような雑用に対して私は、面倒だし仕事に関係ないし「下っ端に雑用を押し付けやがって~」と思ったものです。

でも、若手がやらされていると感じている雑用が、実は本人にとって大切な意味がある場合があります。



人の学びなどに関する研究分野(学習理論など)に『正統的周辺参加』(J・レイヴ、E・ウェンガー)という考え方があるのをご存知でしょうか。
この『正統的周辺参加』の考え方においては、学習者がチームの中で周辺的(相対的に重要性も難易度も低い)作業から徐々に中心的(相対的に重要性も難易度も高い)作業を担うようになる過程そのものが学習であるとしています。

私なりの言葉で説明すると、言われるがままに雑用をこなしていた最初の頃から、チームの重要な仕事を任せられるようになっていく成長の過程そのものが学習だということ。(比較対象となるのは、私が経験した30年前の学校教育のような知識を自分の中に詰め込むスタイルの学習)

さらに、その過程においてはチームの構成員としての文化を身につけアイデンティティを形成するとされています。


この正統的周辺参加の考え方で職場を観察してみると、雑用の見え方が少し変わります。

下っ端は雑用を任されることから始まり、徐々に中心へと、つまりは重要性も難易度も高い仕事を任されるように”なっていく”過程が学習であり、そこに成長があるということ。

同時にその過程で職場の作法や常識、考え方を纏いながら、先輩たちの特徴や人間関係の機微なども覚え先輩たちに”一人前”と認められ、自らもチームの構成員として居場所を得ていくということ。つまりは職場というコミュニティの一員に”なっていく”ということです。


この”なっていく”ために必要なのが、周辺的な仕事、つまりは重要度も難易度も低い仕事なのです。


でも、どうして”なっていく”ために最初は重要度も難易度も低い仕事が必要なんでしょうか?


まだ正統的周辺参加についてちゃんと学んでいないので、あくまで推測の域を出ませんが、私の中ではこのように理解しています。

①本人にとっては、その職場の作法や常識、考え方、先輩たちの特徴や人間関係の機微なども知らない中で、いきなり重要度も難易度も高い仕事をするのはそもそも困難である

②職場にとっては、構成員としてまだ”一人前”と認められていないその人に、いきなり重要度も難易度も高い仕事を任せるのは心許ないし、リスクがある


もちろん、重要度も難易度も低い仕事が「朝机を拭く」「珈琲を淹れる」でいいのか、という点は議論があるところです。コミュニティの一員になるのには有効かもしれませんが、仕事上の学びとしては「・・・」という気もしますね。

そういう意味では、職場において新しく転入者を迎える側には、この正統的周辺参加の考え方(この理論自体は知らなくても)のような、転入者が”なっていく”ための任せる仕事のデザインが大切だと言えます。


私がさいたま市役所に新人として入職し、最初に配属された環境対策課という部署では、朝の机拭きと珈琲を淹れることとは別に、市内の事業者を対象とした研修会の開催を担当させてもらいました。

この仕事は、私が”なっていく”ための最初の仕事として、とても有効なものでした。

研修会なので、内容を考えるのはもちろん、講師や会場との調整、周知・集客、発注、当日のロジ周りなどをひと通り経験できました。
準備の過程では、公用車の手配のために庁舎管理課にも連絡し、挨拶をする部長のスケジュールも押さえ、課長以下スタッフのタイムスケジュールも調整し、事前の打ち合わせなども準備しました。
庁外の人に初めてメールで仕事の依頼をしたのもこのときが初めてでしたし、印刷物のための見積書の徴収も初めて経験できました。
どの作業も新人が先輩の助言を得ながら実行できる難易度になっていて、作業を重ねながら、課の中だけではなく市役所内外の様々な人や仕組みを知ることができるとてもいい仕事だったと思います。(そのことに気付くのは、何年も先でしたが)

6月に研修会が終わる頃には、職場での仕事にもある程度慣れることができ、先輩たちとも仲良くなることができていました。



この正統的周辺参加の「周辺的な作業から徐々に中心的な作業を担えるようになりながら、チームの構成員になっていく」という考え方は、新人の場合だけではなく、異動先での定着などでも同様です。

前の部署でどんなに活躍していたエース職員でも、最初は周辺的な作業から任され、徐々に自分の居場所をつくりながら、中心的な作業を任せてもらえるようになっていきます。
異動して着任したばかりの頃は、妙に周りは忙しそうにしているのに「自分は何をやったらいいんだろう?」と感じることってありますよね。そういうときこそ、チームの中の周辺的な作業を積極的に探し出してどんどん片付けていくのです。
広報誌の校正でも、問い合わせの電話の対応でも、文書の回覧でも、休日出勤の当番表の作成でも、周辺的な作業を片っ端から引き受けていくと、元からその職場にいる他のメンバーからの信頼残高も貯まっていき、”なっていく”過程を高速で駆け上がっていくことになります。
「私はもっと難しい作業ができるから、そういう仕事をください」という気持ちは一旦脇に置いて、周辺的な作業を片っ端から引き受けながら徐々により重要な仕事を拾いにいくことを繰り返していけば、”そういう仕事”を任せてもらえる場所へ短期間で駆け上がることができるのではないでしょうか。


職場では様々な”周辺的な作業”が発生します。

個人は、新しい職場で成長し、メンバーとして居場所を得るため
組織は、転入者が他のメンバーから認められ、チームに定着するため

それぞれの立場で雑用を有効に活用するとよさそうですね。


あ、ちなみにどういう作業を担いながら、どうやってメンバーとの関係性を構築していくかという考え方は、地域活動のグループやNPOなどでも有効だと思います。


皆さんは、いかがお考えでしょうか。

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