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なつの想いで

重たい雲から落ちる大粒の雨と刺すような雷。
夏らしい夕方の空を見て、3年前の出来事を思い出していました。

そのころの私は一旦仕事から離れ、ある勉強をしながら夏をすごしていました。

「そういえば、先生どうしているかな」

ふと思い出したある1人の先生。
笑顔の素敵な可愛らしい人。

もう10年以上会っていないし、連絡先も知らない。
なんとか先生に会いたくて、人生で一番勇気を出したあの夏に戻って…

***

当たり前に会えると思っていた、あの夏

ほんの少しのズレだった
なんでもっと早く思い出さなかったのか
いや、そもそも思い出しもしなかった

笑顔が素敵な先生
嫌なことがあった時は
黙って話を聞いてくれて

楽しいこと、嬉しいことがあれば
一緒に喜んでくれた

学校に行けばいつも先生は迎えてくれた

いつでも先生はそこにいると思ってた
笑顔で話を聞いてくれると思ってた

先生に会いたくなって、色んな人に聞いてみた
でも点と点はつながらない

やっとつかんだ糸もたぐり寄せたら、切れていた
そう簡単には会えないらしい

最後に一縷の望みを託した、手紙
「なんとか繋がれ」と願いを込めた

手紙は無事届いた
でも返事は私が知りたくないものだった

無邪気に尋ねた私に、言葉を絞り出したような返事
辛い思いをさせてしまった

もう私はあの頃の、制服を着た私じゃない
あれからずいぶん時が経っている

私も歳をとるし、先生も歳をとる
私はすっかり大人になったし、
先生は体調を崩しやすい歳になった

ただそれだけ
私の気持ちだけ、いつまでもあの頃のままだった

情けない

先生ともっと話したかった
いろんな話をしたかった
先生と同じ道をちょっと歩き始めたところだった

先生が歩いた後ろなら安心
ちょっと走れば先生の背中が見えると思ってた
会いたかったのに、ごめんなさい…

あとで聞いたけど、
先生はお酒が飲めないらしい

先生、私お酒が大好きな大人になっちゃったよ
お茶でいいから乾杯しよう

あれから色々あったんだ
ここまでたどり着くのも大変だった

今度はつかんだ糸を離さないように、乾杯。


***

お題にあった「また乾杯しよう」から、今会いたい人とのお話を書きたい思い、下書きとして寝かせていたお話です。

実体験なのであまり詳しくことがかけず、ぼかしている部分も多いですが、「叶わない乾杯」への、私から先生への、想いをつづっています。

この夏、会いたい人に会えなくて、
「このご時世だから仕方ない」
と思わねばならない時も多くあります。

でもだからといって
「じゃあまた今度」「落ち着いたら」では
この先、叶わないこともあります。

様々なツールが発達した今。
選択肢は無限にあって、色んな形で乾杯ができます。

もちろん目の前でその人を感じての乾杯は、
やっぱり最高です。

でも見えない敵と戦っている今。
待っていても「また」はないかもしれない。
まずはできることを、一つずつ。

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