見出し画像

物価だけにこだわらない構想力を

 黒田東彦・日銀総裁は、今年1月下旬の会見で「現在の金融緩和政策を変更することは全く考えていないし、議論もしていない」と述べ、日本の金融緩和政策の変更を全面的に否定した。しかし、欧米では金融緩和の変更に手をつける国が出ており、黒田日銀総裁もひそかに緩和政策変更のタイミングを計り始めたようにみえる。

 黒田総裁は、日本の物価上昇率が目標としている2%に達しない限り、現在続けている金融緩和策を変えないと明言し続けてきた。ただ、日本の株に関心を示さない海外の投資家は面白味のない日本株を事実上無視しているため、日本株が市場で話題になることは殆んどなかった。日本の投資家もまたアメリカや欧州の市場に投資したほうが刺激があり、儲けるチャンスが多いとみて、ここ数年は魅力のない証券市場に見切りをつけていたのが実情だった。

 結局、ここ数年の日本株を買い支えてきたのは日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などで、実態は、官庁主導の相場だったのである。例えば、12月の第1週に日本の投資家は、久しぶりにアメリカなど海外の株と投信に1兆2000億円を買い越し、ここ20年弱でみると最大の買い越し額となった。このことは、市場と株に関心を持つ一般投資家は海外に目を向けていることを意味しており、自動翻訳機などを利用して海外株をリアルタイムで売買しているのだ。

まして海外の投資家は、かつての日本企業が次々と新製品を作って、投資家が魅力を感ずる日本市場のダイナミズムに惹かれてきたが、いまやすっかり影をひそめているので日本市場や日本株は眼中にないというのが実情といえる。そこへ黒田総裁が“物価2%の上昇が金融緩和変更の条件だと、頑固に言い続けているため世界の投資家は日本市場を見限ってしまったといえる。

 しかし、ここ1カ月で欧米の中央銀行は、金融緩和のための資産買い入れペースを緩め、金融政策の正常化に向けて動きだした。まずイギリスが12月末に政策金利を0.1%から0.25%に引き上げた。またアメリカも“3月には金利を上げたい”と明言し、今後少なくとも3回以上は利上げに踏み切りたい意向を示している。この背景には原油価格が上昇し始め、物価全般に影響を及ぼしてきたことや時間当たりの労賃も上昇し、インフレ懸念が出てきたことがある。北海ブレンド原油の先物は、7年3カ月ぶりに1バレル=90ドル台に乗せている。

また労働市場も原材料高から逼迫気味の傾向が続いており、日本でも醤油、パスタ、ティッシュペーパーといった生活必需品の値上がりが拡がっている。最近の円安も輸入物価の上昇につながっているという。こうした傾向をうけて物価上昇率が、春に一時的に2%に達するとの見方も出ている。

 黒田総裁は、今後も頑固に2%にこだわり国際的な金融緩和政策見直しの流れに重きを置かない方針を続けるつもりなのだろうか。日本の年収は30年にわたって横バイを続けており上昇していない。その一方で企業の内部留保(利益剰余金)は史上最高の484兆円に達している。“新しい資本主義”を目指し、分配と成長のバランスを取ることを今後の政策の柱としたいなら、物価2%目標だけにこだわらず、もっと大きな構想力を打ち出して金融政策の変更も含めた豊かな成長を目指す日本に、日銀も知恵と構想を打ち出してもらいたいものだ。
【TSR情報 2022年2月7日】

■参考情報
世界的な高インフレから、特に米国長期金利(10年物国債)の利率が上がり続けています。さらに、ロシアのウクライナ侵攻による原油高や中国の都市封鎖による供給網の制限も懸念材料です。また、日米金利差から円安も続いていますので、参考まで本日の価格をご紹介します。

以下は、米国市場の4月11日(日本時間の4月12日、早朝)の終値です。
・米国債10年 2.782%(前日比 +0.123%)
・NY原油(WTI) 1バレル=USD 94.29 -3.97(前日比 -4.04%)(5月渡し)
・NY金(COMEX) 1オンス=USD 1,948.2 +2.60(前日比 +0.13%)(6月渡し)
・米ドル・円(USDJPY)=125.37円(NY朝方に2015年6月5日以来、約6年10カ月ぶり高値となる125.76円を記録)
 日本時間4月12日の17時時点 米ドル・円(USDJPY)=125.51円(2015年6月の高値125.86円が意識されています)

各国の政策金利<次回の金融政策日程>
・米国 <5月3日、4日>  フェデラルファンド(FF)金利 :0.25%-0.50%
・日本 <4月27日、28日> 日本銀行当座預金のうちの超過準備預金の金利(短期):-0.10%
・欧州 <4月14日>  中銀預金金利:-0.50%
             リファイナンス金利:0.00%
                           限界貸付金利:0.25%
・英国 <5月5日>    準備預金金利:0.75%
・豪州 <5月3日>   キャッシュレート:0.10%
・NZ <4月13日>  オフィシャル・キャッシュレート:1.00%
・カナダ <4月13日>   翌日物金利:0.50%
・スイス <6月16日>   SNB政策金利 -0.75%

画像:日本銀行本店(日本銀行サイトより)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?