「君の司会はつまらない」と言われたわたしは、noteフェスで台本を用意するのをやめた。
noteフェス、終了しました。つい先日まで準備に奔走していたのに、もう終わってから5日も経ってしまっていました。
終わったあとの達成感とか、高揚感とか、関わってくれたみなさんへの感謝とか、ぶわーっとめぐっていた気持ちは落ち着いて、いまは「振り返りと反省をして、次のイベントをさらに進化させるぞ」という虎視眈眈とした、冷静な気持ち。
ということで、熱気のこもった全体の振り返り記事は書けなくなってしまったので、このnoteではとても個人的な振り返りだけをしようと思います。
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noteフェスには、会社としてもチームとしても、いろいろな目標がありました。それらの達成のために、もちろんわたしも精一杯がんばったつもりですが、わたしにはそれだけではなく、トークセッションのモデレーターとしての「裏目標」がありました。
裏目標とはなにか? 話は9ヶ月前に遡ります。
「君の司会はつまらない」
2019年12月に「note感謝祭」というイベントが開催されました。noteを支えてくださったみなさまに、ご報告と感謝を伝える場所として1Dayで5つのセッションを行ったこの日、わたしは最初のセッション「本や雑誌とnote連携の未来」のモデレーターを担当しました。
早川書房の溝口力丸さん、ライツ社の大塚啓志郎さん、文藝春秋の村井弦さんという、そうそうたる編集者をお招きし、「出版×デジタル」の可能性をお伺いするというけっこうな大役。もともと人前で話すことは苦手で、イベントのモデレーターはできれば避けて生きていたかったわたしにとって、胃がめちゃくちゃ痛くなる仕事でした。
「ファーストセッションだし、失敗するわけにはいかない」
とにかく、失敗しないために、わたしは事前に準備を重ねました。大きなテーマを決め、それに沿った問いを考え、ゲストの回答をある程度予想し、そのときの派生の質問や反応を細かくシミュレーションする。
そうして臨んだ本番は、時間ぴったりに進行でき、「こんな話をしてほしい」と想定していた話はほぼお聞きすることができました。終了後に会社で同僚と飲んでいたときも「司会が安定しているね」「上手だね」と褒めてもいただきました。
でも、わたしの心はモヤモヤしていました。なんというか、予定調和感があったし、わたしにとって「驚きや発見」がなかった。そりゃ当たり前。わたしが知っていることばかり聞いていたんだから。なによりも、ゲストにもっと生き生きと話してもらいたかった。3人の魅力を引き出しきれなかったのではないかという後悔が、心の奥でざわざわしていました。
そこで、信頼している知人に、「わたしの司会、ぶっちゃけつまらないよね?」と聞いてみたのです。
「うん、つまんない」。はい、即答。
気遣いなんて一切なく、バッサリと一刀両断。自分で聞いておきながら、ひとにはっきり言われるとかなりショック。事実だからしょうがない。でも、悔しくて悔しくて、「いつかこの人に『志村のモデレーターはいい』と言わせたい」と、負けず嫌いのわたしの心に火がつきました。
そこから、わたしはモデレーターのスタイルをおもいきり変えることにしたのです。
台本はつくらない
まず、台本をつくるのをやめました。正確には、質問や流れを用意しすぎるのをやめました。
わたしの進行が「つまらない」のは、「最終的にこうまとまってほしい」という結論を決めて、そこにたどり着くための道筋を誘導し過ぎていたことだと思います。
登壇者のことは、めちゃくちゃ調べます。著書も、インタビューも、読めるものは全部読んでいました。
それ自体は悪いことではないと思っていますが、「正解のかたち」を描いて、そこへの収束ばかりを気にし過ぎていたのが、「つまらない」原因でした。
だから、自分のための台本はつくらない。細かい質問も用意しない。イベントのテーマに通じる大きな「問い」だけ考えて、それ以外はフリーハンドで臨むことにしました。
自分のスタンスを決める
とはいえ、細かいことを決めずに臨むのは不安だし、なにより、イベントがまったくまとまらずに終わってしまうかもしれない。そうならないために、自分のスタンスだけは必ず決めるようにしました。
noteのイベントの場合は、基本的にはいつも「登壇者の大ファン」であるようにしています。ファンだから登壇者のことはよく知っている。でもさらにいろんなことを知りたい、聞きたい!
そのスタンスを崩さずにいれば、見ていてくれる人、つまりは登壇者のファンの皆さんが聞きたいことを引き出すことができるはずです。
とにかく自分が一番たのしむ
そしてなにより、自分が一番たのしむこと。イベントがおもしろくなるためには、登壇者がリラックスして話すことがとても大事だと思います。登壇者がリラックスできる雰囲気をつくるためには、わたしがまずたのしんで、その場の空気を明るくしなくてはいけない。
だから、どんなに緊張して胃がキリキリしていても、その場は全力でたのしむようにしました。
いや、もちろん簡単なことではないのですが、まずは笑顔で明るく話すことを心がける。そうしていれば、自分の脳は「お、たのしいのか?」と誤解してくれると信じているし、登壇者もつられてたのしい気分になってくれると思っています。
もちろん各々のイベントに対するこうした心構えに加えて、普段からの準備も大事です。その場でフリーハンドで質問を繰り出すには、質問力を鍛えておく必要があります。
質問力は、問いを立てる力。つまり、編集者にとっての企画力に通じるもの。これは、社長の加藤さんの受け売りで、自分の中に「疑問と仮説を貯める」ことを日々こころがけています。
予測不能の「僕たちに『企画』はいらない」に、台本なしで挑んでみた
そんなこんなで数ヶ月間、毎月のようにイベントのモデレーターの経験を積んできました。そして迎えた、noteフェス当日。わたしは1日目の2ndセッション、漫画家の羽賀翔一さんと編集者の柿内芳文さんが登壇する「僕たちに『企画』はいらない」のモデレーターの担当です。
数日前に「原稿(連載中の『ハト部』)がたぶん終わらないと思うので、フェス中に描きます」と、おふたりが言い出し、予測不可能なイベントになることが決定。「羽賀さんがずっと原稿に集中して、ぜんぜん話をしてくれなかったらどうしよう……」そんな不安を抱えながらも、3つの方針は崩さずに臨みます。
自分の進行のための台本はつくらず、決めていたのは「『企画はいらない』の真意を聞く」ということと、観終わったあとに視聴者が、「ふたりのテーマ・キャラクター・ストーリーのつくりかたがわかった状態になっている」「そして『ハト部』のことが好きになっている」ということだけ。細かい予備質問は考えませんでした。
もちろん、画面を切り替えたり、会話にあったテロップを出してくれる配信チームのために、「こんな話をするかも」という共有用の台本や、「もしこういう話になったら出そう」というスライドなどは準備しておきました(でも結局使わなかったスライドがたくさん)。
そして、おふたりとその作品『ハト部』の大ファンというスタンスを保ち(もともと大ファンなのですが)、本番中になにが起きようと、トラブルもハプニングもたのしむ!という気持ちで前に立ちました。
その結果がどうだったのか……は、まだイベントをご覧になっていない方は、ぜひアーカイブでご確認いただければと思います。
個人的には、イベント中はとにかくたのしかったし、わたしがおふたりに聞きたかった話は聞けたので、満足しています。もちろん、「生放送中に締め切りを過ぎた漫画を描く」という強烈なシチュエーションと、名言連発のおふたりのトークがすばらしすぎた。それがすべてなのですが。
辛口男の評価はいかに?
さあ、そして、9ヶ月前に「つまんない」と言い放った男に、満を持してもう一度、聞いてみました。「わたしの今回のモデレーターどうだった?」
「うん、よかったよ」
わたしの、9ヶ月分の奮闘が報われた瞬間でした。
4日間にわたって開催されたnoteフェスですが、わたしの超個人的なフィナーレは、実は初日に訪れていたのです。
とはいえ、すぐに100点をもらえるほど、世の中甘くはありません。自分の中で(あそこの反応はイマイチだったなぁ)と思っていた箇所をズバリと指摘され、ついでにいくつかダメ出しももらったわたしのモデレーター修行は、まだまだつづきます。