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深掘り・楽典講釈 #3拍・拍子

拍とは

beat[英]、Taktteil、Takt[独]、temps、battement de mesure[仏]、battuta[伊]

 拍の辞書的な定義は「音楽における時間周期の基本となる単位」。
しかし、そこには「均一な強さで、等間隔なもの」という条件も加わります。

◆正確な拍

 良い音楽家になるためには、まずは、「均一で、等間隔の拍」を演奏できる必要があります。
 ピアノなどの楽器演奏の前に「手拍子」で正確な拍を作れるようになる必要があります。正しく拍が作れていないのなら、正しいテンポ(等間隔)で演奏できるはずがありません。また、正しいテンポを体得しているからこそ、意図的に微細な位置で音を前後に揺らすことができることになるわけです。
 東京藝術大学で長い間ソルフェージュ教育に携わってこられたP.ロジェ女史(1910-1992)は、モーツアルトなどの単純な曲を使って、メトロノームを掛けながら正確に演奏する訓練を推奨していました。ピアノの音とメトロノームの音が完全に一致するとメトロノームの音が聞こえなくなります!これが出来て、初めて、その拍を微妙に前後させた表現が出来ると教えていました。

◆正確過ぎると

 一方、コンピュータ音楽の拍は正確な数値で出力されます。
4分音符が1分間に64拍という速さだとすると、すべての音が正確に64拍の間隔で発せられます。こうした極めて正確な音を聞くと、私たちは機械的な感じがします。現実に、人間が演奏する音楽は、長さや強弱など不均一なのです。また、こうした長さや強さを微細にコントロールすることで「音楽」と作り出しているのです。そこで現代では、コンピュータが作り出す正確な音に、人間の不正確な「」を自動的に付け加えた音を出力します。(ヒューマンプレイバック機能とか呼ばれています)こうして少し歪な音楽の方が人間には自然に聞こえるのです。

拍子

 これまた、音楽辞典的な定義では「拍を一定期間(数)で区切ったときにできる音楽的な時間単位」(難しい!)となります。単位拍を2拍ごとに区切ると「2拍子」になり、3拍ごとに区切ると「3拍子」になります。

 ここで注意したいのは、拍子にはそれ以外の「強弱」などに関する要素が原則関わらないことです。

 学校教育で習う、3拍子は「強-弱-弱」、4拍子は「強-弱-中強-弱」と習いますが、真の音楽としては、そうした強弱をともなわず、何拍子であろうが拍の原則にしたがって「均一で、等間隔の拍」が連続しているだけ。

 たとえば、拍子に強弱が関わってくることを楽譜で表現すると、下の楽譜のようにアクセント記号強弱記号を必要とします。これは拍子とは何の関係もない、表現の領域です。

正しい4拍子ではない

 ヨーロッパの楽典書には、「主要な強勢(Hauptbetonung[独])」と「副次的な強勢(Nebenbetonung[独])」と説明されています。「強勢」、つまり、アクセントとも訳される言葉を使っていますが、それは強・弱の関係ではなく、(Haupt)・(Neben)の関係です。したがって、楽典書の中でもアクセント記号などではない、特別な記号で説明されています。

この記号は絶対的な記号ではない

◆拍子を感じる要素

 周期的に繰り返される、「フレーズ」、「アクセント」、「和音の交代」など、様々な音楽的要素から私たちは拍子を感じ取ります。

◆拍子の種類

 単純拍子:基本的な、2や3の単純な数で構成されます
 複合拍子:同じ単純拍子の組み合わせで構成されています

  単純拍子    複合拍子
   2拍子      6拍子
   3拍子
   4拍子

  4拍子はかつては複合拍子(2+2)でしたが、現在では、その音楽的な性格の違いから単純拍子に区分されています。音大受験の底本となっている、石桁真礼生他著『楽典―理論と実習』(音楽之友社刊)にもそのことが記述されています。

◆ヨーロッパでの拍子の分類方法

 ヨーロッパの理論書では、拍子の分類法が少し異なります。
まずは、大きく「2拍子系」と「3拍子系」に分類します。

2拍子系
 ・単純: 2/2拍子、2/4拍子など
 ・偶数(2)による構成: 4/8拍子、4/4拍子など
 ・奇数(3)による構成: 6/8拍子、12/8拍子など

  まず、単純な2拍子を挙げ、それを偶数倍で構成するか、奇数倍で構成するかで分類します。この方式だと、4/8拍子とか12/8拍子とかもきちんと体系化できます。

3拍子系
 ・単純
: 3/8拍子、3/4拍子など
 ・奇数(3)による構成: 9/8拍子など

 次に3拍子系です。
この場合には「偶数による構成」はありません。分子にあたる拍数を偶数倍すると必ず偶数になり、2拍子系と同じになってしまうからです。

混合拍子

 上記の2拍子系と3拍子系以外に「混合拍子」と「変拍子」があります。

 混合拍子、vermischte Taktart[独]、特殊拍子peculiar time[英]
単純拍子の「2」と「3」が組み合わされたもの。5拍子(2+3、3+2)、7拍子(2+2+3、3+2+2・・・)など。

 東ヨーロッパでは5拍子などは特殊な拍子ではなく、民謡の中でも使われています。コダーイともに民謡を収集したバルトーク(1881-1945)の曲にも混合拍子の旋律を多く見ることができます。

 また、5拍子はポピュラー曲の中でも多く見られる。

ジャズの名曲『テイク・ファイブ』。アルトサックス奏者のポール・デスモンドが、デイブ・ブルーベック・カルテットに在籍していたときに書いた作品。

Paul Desmond: Take 5(1959)

 また、TVドラマ『スパイ大作戦(Mission: Impossible)』(1966-73)のテーマ曲ラロ・シフリン作曲

Lalo Schifrin: Mission: Impossible(1968)

 ちなみに、この曲の作曲家シフリン(Lalo Schifrin、1932-)は、アルゼンチン出身の作曲家、指揮者、ジャズ・ピアニストで、バレンボイムの父エンリケ・バレンボイムに師事し、その後、パリ国立音楽院でメシアン、ケクランに師事という正統は作曲家。映画音楽では、ブルース・リー主演映画音楽『燃えよドラゴン』も有名。

変拍子

 変拍子、irregular time[英]
1小節または数小節ごとに不規則に拍子が変化するもの。現代音楽ではほとんどの曲が変拍子で書かれています。

Stravinsky: Dumbarton Oaks(1938)

さまざまな拍子

◆判別の難しい2拍子と4拍子

 たとえば「マーチ(行進曲)」は2拍子ですが、倍にして4拍子のマーチなどはありません。4拍子と2拍子は明らかに性質が違うものなのです。

Elgar: pomp and circumstance march No.1 (1901-07)

 しかし、2拍子と4拍子の判定には難しいものもあります。特に聴音の問題で、判別の難しいものがあります。

 また、ゆっくりした曲の場合、2拍子を倍の4拍として数える場合があります。また、その逆に、速い曲で4拍子を2拍と数える場合もあります。
 たとえば、Mozart『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』(1787)は、譜面には4/4拍子で指定されていますが、ヨーロッパでは基本的に2拍子で指揮をします。これは、速いテンポであることのほか、この曲の持っている2拍子的な性格を表現するためでもあります。  

◆6拍子

 「6拍子は何拍子・・・??
 変な質問です・・・答えは2拍子。

 6拍子は、2拍子の1拍を緩やかに3分割したものです。その点で、「2拍子の3連符」とは性質が異なります。ブランコのように揺れる音楽を表現するときに使われます。曲でいえば、子守歌、舟歌など緩やかに揺れているものを表現するときに使われる拍子です。

Debussy: “Petite suite” (1989)En Bateau

◆3拍子と6拍子

 3/4拍子と6/8拍子にも判別が難しいものがあります。
Ravelの有名な『ボレロ』(1928)は3連符を使い「3/4拍子」で書かれています。

Ravel “Bolero”(1928)

 さらにRavelの『ピアノ協奏曲』第2楽章(1931)では、右手の「3/4拍子」と左手の「6/8拍子」を混合したポリメトリックのリズムを用いて、非常に不安定で移ろいやすい表情を描いています。

Ravel Piano Concerto

◆ヘミオラ

 特にバロック時代では、3拍子の曲の終止で2拍子が用いられました。これをヘミオラ[ギ]と呼びます。ヘミオラは「つまずいた」ような、または、「ブレーキを掛けられた」ような感じがして、終止感を強めます。

ヘミオラの例
Handel“Suite No.7 Courante” (1733)

 リズムの天才でもあるBeethovenは、交響曲「第3番」第3楽章で、3拍子を突然2拍子化することでヘミオラ的な表現をしています。             

Beethoven“Symphonie Nr.3” SatzIII(1804)

 この「3拍子の2拍子化」はヘミオラの終止的な役割だけではなく、引き延ばされたフレーズを作る際にも使われます。

 音楽を盛り上げる方法には一般に音型を「短縮」していく技法が用いられます。しかし、Tschaikowskyは音型を逆に引き延ばした形を取ることで、長い盛り上がりのフレーズを形成していきます

Tscaikowsky バレエ『くるみ割り人形』花のワルツ(1892)

◆3拍子と6拍子の混合

 3/4拍子も6/8拍子も、どちらも1小節には「8分音符が6個」です。これを交互にトリックのような感じで扱うことも出来ます。(ソルフェージュの問題にも良くある)

どちらも8分音符6個

 Bernstein作曲のミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』(1957)の音楽『アメリカ』では、この変換をコミカルな表現で使っています。

America

 あの有名な『ウエストサイド』の映画化は1961年。
ミュージカルの場合、複数の作曲者、アレンジャーなどが関わるので権利が複雑。昔は数年に1度公開されるモノを見るしかなかった。恐らく、著作権の中の人格権を主張している人が体のだと推測できる。で、今は1円もしないDVDで思う存分鑑賞することができる。そして、2022年スピルバーグによって再映画化された。若干、楽譜が書き換えられている。

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