熊谷守一美術館
池袋駅西口から歩くこと20分ほど。住宅街のど真ん中に、突如としてその美術館はたち現れる。それもそのはず。なにせ、この美術館は作家本人が永く暮らした家の跡地に建てられたものなのだから。
最近はもう、大きな美術館だと疲れてしまうからこれくらいの規模の美術館がちょうどいいと感じる。休日の上野とか六本木とかに行きたいと思えない。(ただし竹橋はよい。なぜなら人がいないから)
以前からわたしは、モネよりもゴッホを、ミュシャよりも杉浦非水を好む人間である。つまり何かを描くとき、その選び取る線が少なければ少ないほど、輪郭線がはっきりすればするほど、デザイン線が高まれば高まるほど、好ましく思う。
ディック・ブルーナの生み出したミッフィー、藤子不二雄の生み出したドラえもん、チャールズ・モンロー・シュルツの生み出したスヌーピー、トーベ・ヤンソンの生み出したムーミン。どれも皆、天才たちの偉業だと思う。それのみならず、サンリオが生み出したMade in JAPANのキャラクターの数々も、どれもみな洗練されていてすばらしい。たとえば地井明子先生はケロケロケロッピとポムポムプリンという、世界でもっとも可愛いカエルとゴールデンレトリバーを生み出した。これを偉業と言わずしてなんと言おうか。サンリオは日本の宝なのだから、みんなディズニーにばかり散財せずにサンリオキャラクターズをもっと愛でるべき。
話が逸れた。
美術館の造りは小さい。1階はカフェ兼展示室で、2階と3階にも展示室がある。無論エレベーターやロッカーなどはない。そして、その所蔵されている作品群も小さい。画家はあまり大きなキャンバスを好まなかったようだ。
これは今日もらったパンフレットの表紙なのだが、この作品は熊谷守一の最晩年の作品(絶筆?)らしい。
これ、写真ではうまく伝わないのだが、実物はものすごく見事な色彩のコントラストだ。すごく、きれいだ。そして筆使いが独特。まるで彫刻刀で掘り進めたかのような筆致である。
他の多くの美術史に名を残した偉人たちと同様、彼もまた「唯一無二」の作風だった。オリジナリティにあふれている、というより、オリジナリティしかない。
そしてこれもまた、他の偉大な画家たちと同様、熊谷守一も若い頃から経済的成功を収めたわけではなく、晩年(80過ぎ)になってようやく世間からその芸術的価値を認められたようだった。それなのに国からなんとかっていう偉い賞をもらえますよっていう連絡がきたときは「お国の役に立っていないので要りません」と言ってすげなく断ったとか。(このへんのエピソードはたしか樹木希林が出てる映画の予告編でも切り取られていた気がする)
まあ、私は行ってみてよかったけれど、所蔵作品が少なめなのと駅からのアクセスが悪いので正直いって「オススメです!」とは言いきれない。
だけど、散歩が好きな人、歩くのがそんなに苦ではないという人なら池袋駅、もしくは要町駅、千川駅からぶらぶら歩いていってみるといいかもしれない。ふだん目にしない町並みを見て歩くのも、その町の暮らしが垣間見えて面白い。わたしは帰り道に「パンテス」っていうあん食パン専門店に寄って、あんパンを買ってみた。食との出会いも一期一会である。
ただ、あんこ好きな父親にあげたので味は不明である。