短文「あの熱」

 友人の勧めで手に取った。
 人の名前のようなそれには、他人の肩を借りているような気恥ずかしさを覚える。背伸びしているわけではない。爪先が攣りそうになるなら初めからやらなければいい。
 アルコールを嗜まない私。経験と言えば聞こえは良い。しかしその実、私は繋がりを求めていたのかもしれない。
 グラスに注がれた少量の液体。こんなもので大人を満足させることができるのか、甚だ疑問だった。喉元をそれが通ると、自ずと答えは出た。
 鼻から抜ける甘く粘り気のある香り。食道が焼けるような熱を帯びる。まるで時限式の爆弾。同時に、不快感が私を襲った。
 飲んでいる自分や呑まれている自分に酔って初めて、これを好きと言えるのだと思う。

 匂いは何よりも記憶に残るらしい。私はこれを二度と手に取ることはないだろう。そして、二度と忘れもしないだろう。

ありがとうございます。 作家になるための糧にさせていただきます。必ず大成してみせます。後悔はさせません。