『再石灰化と重症化予防を目指す 歯冠う蝕のマネジメント―検査に基づく診断と治療のフローチャート』より―序文
現在,う蝕は一方的に進行するのではなく,可逆的な病変であることがわかってきたが,数十年前むし歯の洪水といわれた時代は,う蝕の進行が速く,う窩になってから発見されることが多く,さらなる進行を防ぐため,すみやかに切削介入し修復しなければならなかった.
近年,フッ化物配合歯磨剤の普及などによりう蝕の進行は遅くなってきた.それに伴い,う蝕のマネジメントの1つである保存修復治療の必要性は減っているはずだが,今でも,う窩へのアプローチが主流であることに変わりはない.
しかし,う窩ではなく白斑などの初期う蝕をう蝕病変の検出基準とすると,初期う蝕はプラーク(バイオフィルム)を除去し目視により確認することができ,同一口腔内で多数認められる場合もある.
初期う蝕を放置すればう窩に進行する可能性が高くなる.初期う蝕のマネジメントには切削介入は必要なく,再石灰化療法などの治療により,う蝕の重症化を予防することができる.
すなわち,う蝕を早期に検出できれば,う蝕の停止あるいは回復(健全化)を図ることが可能になり,歯の保存ひいては歯の延命につながる.したがって,初期う蝕のマネジメントがきわめて重要である.
従来,初期う蝕のマネジメントは,う蝕の進行を防ぐために画一的にプラークコントロールや甘味制限を行っていた.しかし,現在では各個人の口腔内状況や生活習慣から,う蝕病変の活動性とう蝕のリスクを確認し,そのうえで病変の活動性およびう蝕リスクをコントロールするようになってきた.そのため,歯科医院における初期う蝕への対応を確立することが急務であるといえる.
以上から,う蝕のマネジメントは,う窩のみに注目するのではなく,初期う蝕からう窩に至るプロセスを考慮し対応する必要がある.そこで,歯冠う蝕の検査に基づく診断と治療のフローチャートを作成することにした.
本書の第Ⅰ章では,歯冠う蝕の検査に基づく診断と治療のフローチャートを作成するうえで必要なう蝕のマネジメント,特に初期う蝕のマネジメントに関する知識および根拠を整理する.
第Ⅱ章では歯冠う蝕の検査に基づく診断と治療のフローチャートの実際の活用法について症例を通して説明する.そして補足として,再石灰化療法を就学時前の幼児に行った症例と,再石灰化療法においてプラークコントロールの重要性を再認識した症例を提示する.
本書が読者の皆様の明日からの診療の一助になれば幸いである.
最後に,当院でう蝕のマネジメントを行ううえで欠かすことのできない,妻であり歯科医師の景山亜由美先生,実際に患者さんを担当している歯科衛生士の飯田しのぶさん,田中浩子さんに感謝するとともに,本書で図の作成にご協力いただいた中野予防歯科研修会の三橋守泰会長と神澤 晃先生,そして会の皆様に感謝の意を表する.
2024年1月
著者 景山 正登
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