火山に埋もれた街の名を冠した書体Herculanum(ヘルクラナム)
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
ざっくり書体の歴史
アルファベットが現在使われているような形になったのは結構最近で18世紀ごろ。たとえばそれまでは「U」という文字は正式には認められていない文字でした。「U」意外にも「W」や「Y」「G」「J」も途中で生まれた文字です。
アルファベットのみならず、日本語の仮名遣いも第二次世界大戦に制定されています。文字が現代の形になったのは、和洋ともに最近になってから。
文字の歴史においてものすごく重大な発明でありイベントがありました。印刷機の発明です。ご存知、グーテンベルク。
グーテンベルクは1450年頃に印刷所の運営を開始しています。以降、文字というものは、印刷という技術のために整えられ、ついで印刷技術を向上・変容させながら、文字は進化・変化していきました。
では、グーテンベルク以前の文字ってどんなものがあったのかしら? こんな主旨のプログラムをドイツのライノタイプ(Linotype)という書体メーカーが企画し、書体デザイナーたちにいくつかの書体をデザインしてもらいました。グーテンベルク以前の書体を現代でも使えるようにと。
そのうちのひとつにヘラクネウム(Herculanum)という書体があります。
Herculanum(ヘルクラナム)
書体名:Herculanum(ヘルクラナム)
カテゴリ:Script
デザイナー:Adrian Frutiger(アドリアン・フルティガー)
ファウンダリー:Linotype
発売年:1990年
スイスの著名な書体デザイナー、アドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)氏がデザインしました。フルティガー氏といえば、Avenir(アヴェニール)、Frutiger(フルティガー)、OCR-Bなどが有名で、書体Frutigerは、日本の駅名表示も使われいたりします。
では、フルティガー氏が制作した、この“ちょっと読みにくい”Herculanum(ヘルクラナム)という書体はどんな書体なんでしょうか。
イタリアのこの書体のなまえとそっくりな地名がかつて存在していました。その名も「Herculaneum」(ヘルクラネウム)あります。場所はナポリやポンペイの近くで、現在はエルコラーノという名前になっています。
エルコラーノの場所
火山の爆発によってポンペイという街が地中に埋もれてしまった話は有名ですが、このときポンペイ以外の街もまた火砕流や火山灰によって地中に埋もれてしまっていました。そのひとつが、ヘラクネウム。ギリシャ神話の英雄ヘラクレスからつけられた名前です。ヘラクレスはすごく強くて地獄の番犬、ケルベロスすら生け捕りにするほどでした。
さて、このヘラクネウムもポンペイも地中に埋めてしまった火山の名前は、ヴェスヴィオ山(Vesuvius)。ヴェスヴィオ山が噴火したのは西暦79年でした。埋もれた後、1600年以上忘れされて、1709年になって井戸掘りの最中に発見されたと伝承されています。この街がまだ存在していた1世紀ころの古代ローマ時代の文字を参照し、デザインされたのが、このヘラクネナムです。
文字幅は不揃いで、手書きのニュアンスがあります。現代でも使えるように当時はなかった「U」などの文字やアラビア数字も追加されています。
ヘラクネウムをどう使う?
日本の文化圏では使いにくいかとおもいきや、本のタイトルにこのヘルクラナムをつかっているものを見かけました。
パレオダイエットという旧石器時代の食事法を現代のレシピにしたこちらの本のタイトルに使われていました。なかなかしっくり来ているように思います。旧石器時代にはアルファベットおよび文字も存在していませんが、「すごく古い」というニュアンスは伝わると思います。
このようにグーテンベルク(15世紀)よりももっと以前の、というニュアンスを伝えるときのタイトルにヘラクネナムという書体は向いています。
ほかにもこんな使われ方をしています。
まとめ
日本語圏でグーテンベルク以前と以降を強く意識してデザインする機会はそうそうないでしょう。しかし「グーテンベルク以前」という概念を覚えておくのは、ちょっと有効かもしれません。「すごく古い」のニュアンスを伝えるアルファベットを探すときに、使える区分だからです。ヘラクネナム以外にもこの「グーテンベルク以前」というプログラムで制作された書体があるので、気になる方はLinotypeのウェブサイトを参照ください。