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ジェイソン・ステイサムが映画で腕時計「パネライ」をしている理由

ビジネスに使えるデザインの話

デザインの知識は、デザイナーや広告代理店にすべて委ねるわけにはいかないものがあります。なぜなら、企業やブランドがデザインを使ってやりたいことは、「意志の伝達」や「ポジションの獲得」だからです。アウトプットの是非が判断できないって、デザインというコミュニケーションの主体として、かなり怖いディスアドバンテージになります。ということで、知っておくとビジネスでも役に立つデザインの話をこちらのマガジンにまとめています。


映画『トランスポーター』に登場する腕時計「パネライ」

映画『トランスポーター』(2002年)より

ジェイソン・ステイサム(Jason Statham)が主演をつとめる2002年のアクション映画『トランスポーター』。かなりのヒット作であり、現在もNetflixやAmazon Prime Videoなどで継続的に観られている映画ですので、ご存知かもしれません。この映画では、ジェイソン・ステイサムが腕時計に「オフィチーネ・パネライ」をしています。映画で使われることで大きな宣伝になるので、メーカーやブランドは映画で自社の製品を使ってもらうことを依頼することがあります。このような宣伝方法を「プロダクト・プレイスメント」と言います。しかしこの映画におけるオフィチーネ・パネライの登場は、なかなかの必然性があり、みごとなはまり役といえます。

ジェイソン・ステイサムの役どころ

フランクしている腕時計は何かと出てきます。
映画『トランスポーター』より

映画の舞台はフランス、ニース。ニースはフランス南部にある海沿いの観光地でもあります。そこでジェイソン・ステイサム演じるフランスは闇の世界で商う熟練のドライバーで、頼まれたものを高額で確実に運ぶ運び屋をしています。フランスは元軍人で寡黙ながら恐ろしく強い。さてそんなフランクはなぜ腕時計にオフィチーネ・パネライをしているのでしょうか?

軍用だった腕時計、オフィチーネ・パネライ

Officine Panerai オフィシャルサイトより

オフィチーネ・パネライは、イタリア(現在はフランスのコングロマリット、リシュモンの傘下)の高級腕時計ブランドです。どのくらい高級かと言うと安くて70万円弱くらい。このような高級路線にパネライをしたのは、リシュモンです。買収されるまで、パネライはどういう腕時計だったのかというとイタリア軍、イスラエル軍、エジプト軍などに卸す潜水のための軍用腕時計でした。

この大きな数字は、水中で暗くても読めることを目的としたものです。さらに蓄光により暗い環境でも時間がわかるようになっています。蓄光機能を向上させるために数字の盤の下に、蓄光塗料を塗った盤を乗せています。だから数字の9や6が閉じていません。もうひとつのパネライの特徴は、大きなリューズガード。これはリューズを抑える機能をもっており、これにより密閉性を向上させていました。これにより100m防水だったものが200mまで潜水可能な腕時計になっています。


フランクがパネライをしている理由

映画『トランスポーター2』より

このようにパネライには、軍用のガッチリしたタフな腕時計という記号があります。ニースの海沿い(1)で闇稼業により裕福(2)に暮らし、元軍人(3)であるフランク(ジェイソン・ステイサム)が好んで身につけるには、潜水用に作られた(1)、現在では高級ブランドになっている(2)、もともとは軍用に開発された(3)パネライはぴったりなわけです。

パネライが持つ記号を映画『トランスポーター』のコスチューム・デザイナーMartine Rapinやプロダクション・デザイナーのHugues Tissandierが上手にフランクのキャラクターにマッチさせたわけです。

この話のどこが「デザインの話」なのか?

デザインというものが何なのかは、アートと対比するとわかりやすくこちらの記事で解説しています。

ここで簡単に説明すると(記事でも簡単に説明していますが)、デザインとは機能です。ちょっとだけ言葉を付け足すと

デザインとは、見た目や形を媒介とした機能

です。ならば、テーラードのスーツをビシッと着ることで、「優秀でちゃんとして成功しているビジネスパーソンだと思わせられる」ことに成功したとすれば、都合の良い印象の形成をスーツという見た目で可能たらしめているので、これはデザインとも言えるわけです。もうちょっと定義をおいておいて直感的に言うと

何かを使って印象を形成する

ということはデザインの真骨頂なわけです。映画に出てくるシャンパン、腕時計、車が印象を形成し、その印象を欲する人々がそれを所有し、さらにそれを所有していることで、映画で形成した印象を所有者に対して抱く(抱くんじゃないかなーと所有者が思い込む)というこの一連は、別の言葉でいうとブランディングです。

映画などの作品とそこに登場する商品の関係というのは、デザインが持つ機能の意味のとてもわかり易い例となります。

余談:映画『トランスポーター』のプロダクション・プレイスメントはオランジーナ

舞台はフランスということもあって、フランスの炭酸飲料水「オランジーナ」が、この映画にはちょいちょい出てきます。

まとめ

ブランディングがうまくいくと記号を形成できます。記号というのは、それを観ることで何らかの属性を伝える機能を持つ見た目です。メルセデス・ベンツを乗っていると裕福、革ジャンを着ていたらバイクに乗る人かも?みたいなのが記号。実は、これ、書体、デザイン、香り、紙などを使ってデザイナーがしようとしていることなんです。記号を利用して「なんとなく」を伝える。映画には、このような記号がいっぱい溢れているので、そういう視点でみてもとてもおもしろいです(内容に関係なく!)。

これのどこがビジネスに使えるのか?デザインというものの本質や機能を理解することは汎用性のある知識となるので、それだけでも役に立ちますが、そのほかに、

身につけるものが与える印象

ということについて、より注意を向けるようになるのではないでしょう。どんな腕時計がどんな印象を形成するのか?という知識はやっぱりビジネスシーンでも軽視できない知見になるはずです。

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