小さな大文字「スモールキャップス」って何?いつ使うの?
英語が話せても知らないことが多い“欧文組版”
欧文組版とは、欧文を組む(レイアウト)するときのルールです。こんなことを知らなくても、欧米の言語圏の方々は、読めるわけですが、随所に不自然さを感じて「気持ち悪く」感じてしまいます。これが海外投資家に向けたアニュアルレポートだったり、海外展開しているブランドのカタログだったりで、感じさせてしまうとブランドイメージは大きく傷つけられてしまうでしょう。
しかしそんなものがあることを知らない場合が多いんです。なぜなら、その存在を知る場面が少ないから。英語を扱わないデザイナーは、欧文組版を学ぶ機会になかなか出会わないし、翻訳家も自身のフィールドではない知識です。海外展開している企業の経営者だって、やはり欧文組版など知る機会はほとんどないでしょう。
知っておくと何かとアドバンテージになるので「デザインを語るひと」しじみのnoteで少しずつご紹介していきます。ご紹介した欧文のルールはこちらのマガジンにストックしていきます。
最高に欧文組版をちゃんとしている日本ブランド「虎屋」
こんな日本人のほとんど知らないところに細部に渡り、気を使いちゃんとした組版やデザインをしているブランドがあります。それが虎屋。イタリックの使い方、スモールキャップ(スモールキャプス)、合字などなど欧文組版をちゃんと反映したデザインをしています。虎屋の商品を購入する機会や店頭に行く機会があれば、提示されている欧文をぜひチェックしてみていただきたいです。
スモールキャップスとは?
今回は、そんな欧文組版のなかひとつスモールキャップ(スモールキャップス)をご紹介します。スモールキャップスとは、Small Capsと書きます。この“Caps”は“Capitals”を意味しており、Capitalsは「大文字」を意味しています。ということで「小さな大文字」という意味になります。さてなぜわざわざ大文字を小さくするのでしょうか?そしてどんなときに使うのでしょうか?
スモールキャップスはいつ使う?
モールキャップスを使う理由は主に以下の5つ。
強調:イタリックやBold(太文字)
本の章の始まり
苗字(ラストネーム)
頭字語が長いとき
西暦(A.D.)、紀元前(BC)やA.M.などの略字
1. 強調:イタリックやBold(太文字)
欧文では、強調するときにイタリック体やこのスモールキャプスを使うことがあります。一方、和文では、強調するために鉤括弧「」を使います。そのため、よく強調のために使われいる鉤括弧を欧文に翻訳するさいに、強調のための鉤括弧がそのままクォーテーションマーク(“”など)に翻訳されていることがありますが、厳密には間違い(ふさわしくない)。
2. 本の章の始まり
欧文の書籍の章の始まりにスモールキャプスが使われていることがあります。
3.苗字(ラストネーム)
これが一番、ビジネスパーソンが関わるスモールキャップスの用法でしょう。名刺などの名前を表記するとき、ラストネーム(苗字)にスモールキャプスを使用することがあります。アジアと欧米では、ラストネームとファーストネームの順番が異なります。ローマ字表記のときだけ、ファーストネームを冒頭に配置して表記する場合もあり、漢字が読めなければ混乱の極みです。そこで登場するのがスモールキャップス。これさえ使っていれば、どちらがラストネームかすぐに分かります。
4. 頭字語が長いとき
たとえばFBIは、本来は「Federal Bureau of Investigationで、この長い名前の頭文字をとってひとまとめにした名前にしています。これを頭字語(とうじご)と呼びます。頭字語には2種類あって、ひとつはFBIなど1字ずつアルファベットで読むもので、これをInitialism(イニシャリズム)と言います。もうひとつは、続けて読む読み方で、たとえばNATO(ナトー)など。こちらは、Acronym(アクロニム)と呼びます。この頭字語が4文字以上のとき、文章に長々と大文字が来るのは読み手にとってしんどいのでスモールキャップスを使うことがあります。
海外の雑誌、The New YorkerやThe Economistでは、頭字語が4文字を超えるとスモールキャップスを使用しています。
5. A.D. B.C.やA.M. P.M.などの略字
西暦を意味するA.D.や紀元前を意味するB.C.にもよくスモールキャップスが使われます。そのほかにA.M. P.M.にもスモールキャップスが使われることがあります。
ところで、これらの略語、それぞれに元の言葉が何かご存知でしょうか?
A.D.
Anno Domini
中世ラテン語で「「我々の主(イエス・キリスト)の年に」という意味。
B.C.
Before Christ
キリスト以前を意味する英語
A.M.
Ante Meridiem
ラテン語の“Ante Meridiem”の略で「正午前」を意味した言葉。
P.M.
Post Meridiem
ラテン語の“Post Meridiem”の略で「昼から後」を意味した言葉。
スモールキャップスの歴史
マーガレット・M・スミスの研究によると、スモールキャップスの使用は16世紀初頭にJohann Frobenによって広められたと考えられています。1516年から広範囲に渡って使用されはじめました。
まとめ
5種類のスモールキャップスの使用法を紹介しましたが、最も利用頻度と利用価値の高い用法は3のラストネームの表記、ではないかと思います。日本ですらグローバリゼーションの渦中にある現在、さまざまな国の方々と交流する機会が激増していくことでしょう。そんななかでラストネームとファーストネームを明確に表記できるスモールキャップスはかなり便利なものになるでしょう。
もっと詳しく欧文組版についてしりたい!という方は、高岡昌生氏の『』をおすすめします。※高岡氏の「高」ははしごの「高」です。