かわいい? たまに人の顔に見えちゃう「ウムラウト」という符号
ビジネスに使えないデザインの話
ビジネスに役立つデザインの話をメインに紹介していますが、ときどき「これはそんなにビジネスには使えないだろうなぁ」というマニアックな話にも及びます。今回の話は、あまりビジネスには使えなさそうな話です。noteは、毎日午前7時に更新しています。
今回の話もまたマニアックなので、ドイツ語やスウエーデン語などを使う方以外には、ビジネスに関係して使うことはないだろう話です。
見たことはあるけど、ぜんぜん知らない「ウムラウト」
このようにアルファベットの「a, o, u」のうえに点が2つついて「ä, ö, ü」となる表記があります。ドイツ語、スウエーデン語のほか、オランダ語、アイスランド語、エストニア語などなどで使われます。この記号(符号)を「ウムラウト(umlaut)」と呼びます。これなにかというと、まず「ウムラウト」はドイツ語です。ウムラウトは、ゲルマン語派のいくつかの言語において見られる母音交替現象であり、この母音交替現象によって変化した母音を示すためのダイアクリティカルマーク(diacritical mark)です。このダイヤクリティカルとは、「発音を区別する」という意味です。このウムラウトを使う言語に接する機会がなければ、覚えておくべき理由は特にないのですが、好奇心旺盛の方向けに話を続けます。
母音交替
母音交替(ぼいんこうたい、英: apophony, vowel gradation, ablaut)とは、一つの言語の中で、母音が変化することにより単語が別の単語に変化するなどの現象です。日本語にもこの母音交替はあります。たとえば、「酒」は「さけ」ですが、「酒屋」は「さかや」と「け」が「か」に変わっています。「木立ち」の「木(き)」は「こ」に変わっています。
ウムラウトと同じ形で違う記号(符号)
a, u, o以外にこの「¨」がついていたら、それは「ダイアレシス」(Diaeresis)。同じ形なので、コンピュータシステムでは、どちらの形式も同じコードポイント(バイナリコード)だったりします。「ダイアレシス」と「ウムラウト」は、異なる音韻現象を示す発音区分なんですけど……、これもそんなに、これを使う言語に関わるひと以外は知る必要はないと思います。
発音の仕方
ウムラウトがついているとどう発音が変わるのか。こちらの動画で簡単に説明してくれています。
入力の仕方
入力の仕方は、ダイアレシスもウムラウトも同じです(だったコードが同じ)。
macの場合
optionキーを押しながら「u」を押し、つぎにウムラウトをつけたい文字を入力するとウムラウトやダイアレシスをつけることできます。
スマホの場合
aなりuなりoなりを長押ししていると候補に出てきます。
PCの場合
ちょっといろいろあるので割愛します。気になる方はこちら(英語)を参照ください。
かわったウムラウト
以下の「変わったウムラウト」は、ドイツ在住の日本人書体デザイナーである小林章さんのブログで紹介されていたものです。ドイツに住み、かつ書体の専門家であることでさまざまなウムラウトに出会うようです。
文字のなかに入っちゃったウムラウト
大文字の上にさらにウムラウトが付くと文字の背が高くなりすぎて、文字組みが不便になる場合があります。とくに活版印刷の時代だととても面倒。そんなわけで、大文字に付くウムラウトは文字のなかに入れてしまうことがあります。
点をひとつにしちゃったウムラウト
ウムラウトは、やっぱりちょっと邪魔みたいで、「Uのうえに付くなら中に入れてしまえ!」という具合に改良したウムラウトがあるようです。こちらは元来「FRÜHSTÜCK」という単語。本文ではこのような省略はされません。看板などにこういった変形版のウムラウトがあるようです。おもしろい。
点を使わないウムラウトがある
時代を遡るとドイツでは、ウムラウトの符号の代わりに小さな「e」を付けることもあったようです。
小林章さんが制作に関わったOptima Novaという書体にこのタイプのウムラウトが用意されています。
こちらから購入できます。
またOptima(オプティマ)という書体についてはこちらの記事でくわしく触れています。
なぜ人の顔にみえるのか
超絶に余談ですが、どうしてこう点が2つあるだけで、人の顔っぽくみえてしまうのでしょうか。これは「パレイドリア(Pareidolia)」という心理現象があるためです。パレイドリアとは、普段からよく知ったパターンを本来そこに存在しないにもかかわらず心に思い浮かべる現象です。たとえば雲をみて「くじらにみえる」などと別のなにかを思い浮かべたり、月をみてうさぎの姿を見つけたり、録音した音楽を逆再生すると別のメッセージが聞こえた気がしたりするのもこのパレイドリアです。
パレイドリアについては別アカウントでこちらに書いています。
まとめ
今回の話は、ほんとうにほとんど日本人の生活にもビジネスにも関わりが薄い話でした。しかしときどき眼にするが、あれなんなんだろう?とうすぼんやりと疑問に思っていた方には、霧が晴れるという効果があったかもしれません。ならば、こんどはアキュート・アクセントやグレイヴ・アクセントなどのダイアクリティカルマークについても扱ってみたいと思います。(需要ないんだろうなぁ……)