自分史的なクリッピング史料
漸く、衆院選も終わり、予想通りというか、想定内というか、与党の惨敗で終わってしまった。どうするんだろう。政局の運営は難しくなるということは想像にかたくないけど、経済への影響など、今後も次々と課題が持ち上がってくる気がする。身近な話題として、日々働いている人への不安なども今後次々と課題が出てきそうだ。我が愚息も転職を繰り返してまたまた新たな職場を求めた。結局、話を聞いていると、楽しそうではないんだよなぁと思いつつも、自分だってどちらかと言えば、その尺度の中心がお金だったような気もする。なにせバブル世代でもあるからだろうか。でも会社人としての現役を退くと、やはり、もっと楽しい仕事ってなかったのだろうか?と考えてしまう。少なくとも、今は自分の残された時間は有限だと考え、何か納得のいくものを残せたらと思っている今日この頃という感じだろうか。
2022年2月2日 朝日 時代の栞「自分の仕事をつくる」西村佳哲 著 2003年刊
見出しといおうか、タイトルと言おうか、そこには「働く意味をみつめ役割探る」とある。
そして冒頭のテキストでは「他の誰にも肩代わりができない「自分の仕事」とは、どうすれば創り出せるのか。」で始まっている。こうした書籍はその後にもたくさん出版されているけど、この本そうした本の一つとして、座右の書として所蔵している。西村さんの本は他にも何冊かあって時折再読することが多い。記事の文中でも「若い世代のバイブル」と書かれていて、そういう意味では初老にとってもバイブルというかガイダンス本ではなかろうかと思う。西村さんはゼネコンの設計部を経て、有名無名の人々の働く現場を国内外に訪ねてよいプロセスあってこそのよい仕事という事実に着目したとある。本当にそうだようなぁと思う。その次に繋がる、周囲には馬鹿にみえるほどのトライ&エラーとある。そうなんだよ、決してスムーズにことは運ばないことばかりだから。
西村さんは、ものづくりの現場ではいかに使い手を気遣って作られているかということが現場では本当によくわかるという。そして社会は無数の良き仕事に囲まれて成り立っているんだと。政治の世界もそうあって欲しいなぁ。少々表面的な意見でしかないけど。勿論、すべてがそういうわけではなく、仕事の手抜きも散見されるとして、一人ひとりがそうじゃなくて、働く意味と誇りを持って仕事に臨もうという姿勢が大事だとも(こうした展開はやはり若者向けなのだろうか)。
本の編集を担当した人は、西村さんの「稀有な動機の純粋さ」をよく覚えているという。当時は無名の書き手ではあったものの、反響はすごかったと。
この本に収録されたインタビューは1990年代後半に行われたもの。バブル崩壊後の、仕切り直しが世間の風潮だった頃だ。「日本も変わらなきゃ」という気概。これはいつの世にも通じるテーマ設定だと思う。
会社には縛られない生き方、転職の当たり前、社内でも自由度の高い働き方などが2000年代初めに背景としてあったという。その流れは今でも続いている。甲南大の先生は、「時代の空気を映した一冊」と評している。雇用新時代のイメージの象徴の一つが、ものづくりに携わる人や職人だったからだとも。組織への忠誠、労働疎外のイメージの対極に自分らしさややりがいが必然的に浮上するとも先生はコメントされている。
西村さんは、そうした機運とは別に、低賃金、不安定な雇用関係の放置する社会構造を批判もしている。やりがいを搾取するブラック企業はごまんといる。この本でブラック企業の問題を提起してもいたということ。政府は「働き方改革法」を成立させたけど、これって有効にワークしているのだろうかとちょっと疑問。高給で地位も高いけど、どうでもいい仕事が現代資本主義との関連で「ブルシットジョブ」と話題になった。そしてAIの進展。代わりのきかない仕事って・・・。
地方移住者というのは、ある意味では社会の中で自分がどんな役割を持てるかを模索しているのだという。でも現総理も声高に叫んでおられるけど、地方創生はどうなんだ。個人的には、少なくともAIのみならず、テクノロジーの発展をもっと取り込むことや、リアルな交通網の発展によって、時間距離も短くなり、また子育てという意味での自然環境の豊富さなどなど、経済圏そのものが拡散されてもよいのではと考えたりして。地方に仕事があるとかないとかという前に、仕事を創るという姿勢が必要なのかもしれない。そういう意味で仕事とは何かを考えてもよいのかもしれない。
西村さんは、(記事掲載当時)最近まで7年間も徳島県神山町の地域づくりに携わっていたという。よい仕事を生み出す工夫と姿勢が大切ということは不変だとも。自分が納得して生きる大事さを伝えている。
この記事の左端には、書店Titleの店主、辻山さんのコメントが付されている。元大手書店員だった辻山さんのこの本との出会い、売れた訳などが分析的にコメントされているけど、仕事というのは結局自己責任。自分の人生を引き受けて自分が納得する人生を送ることだという。
この本が発売されてもう20年以上。その内容は今でも色あせていない。辻山さんもコメントしているけと、自己責任は政治家のそれとは全く違う。仕方なくやる仕事でいいはずがない。やはりプライオリティは自分ならではの仕事を人生の中心に据えることができたらどんなにいいか。愚息にも読ませたい本でもある。