自己記録手続きを用いた教師の言語賞賛の増加が児童の授業参加行動に及ぼす効果
概要
教師の授業中の言語賞賛回数が自己記録手続きによって増えるか検討し、生徒の授業参加行動を促進するか検証することを目的とした。対象は、小学校通常学級の児童85名と担任教師3名であった。多層ベースラインデザインを用いて教師が授業中に自身の言語賞賛回数を帰庫記録する手続きを行った。その結果、3名の教師の言語賞賛回数が増え、各学級の平均授業参加率も上昇した。
方法
対象者 教員歴1~4年の担任教師3名。
場面 通常学級での授業場面であった。45分1セッション。
標的行動 教師の言語賞賛(定義:学級全体に聞こえる、賞賛内容が具体的である、学級全体・集団・個人に対する口頭の賞賛)と児童の授業参加行動(定義:教科書の指定ページを見る、指示された問題に取り組む、ノートを取る、話をしているひとの方を見る、発表する)とした。授業参加行動は、15分間隔のタイムサンプリング法を用いた。
研究デザイン 教師・学級間多層ベースラインデザイン。
手続き ベースライン期 言語賞賛が授業参加行動を促進することのみ教師に伝え、ほかの手続きは行わなかった。
介入期 介入開始前に教師に、(a)言語賞賛が授業参加行動を促進すること、(b)授業中の言語賞賛例、(c)授業参加行動が見られたらすぐ言語賞賛すること、(d)普段授業参加行動が少ない児童が授業参加できているときは特に賞賛すること、を伝えた。教師は、カウンターを利用して言語賞賛をカウントした。
フォローアップ 冬休み終了後、ベースラインと同様に実施。担任教師らに対して介入方法の受け入れやすさと支援の効果について6項目のアンケート調査に回答を求めた。
結果
平均言語賞賛回数は全ての教員で増加し、フォローアップでも高い水準で維持した。平均授業参加率も70.8%~88.9%まで上昇。自己記録手続きによって担任教師の言語賞賛が増えたことで、学級の平均授業参加率が上昇した。アンケート結果からも、担任教師にとって受け入れやすく実施しやすいことが示された。
考察
授業参加に困難を抱える児童が複数いる学級において、教師がどのような授業を行いながら児童を支援していけばよいのかを具体的に示した教育実践として貢献できる。また、教師が言語賞賛回数を記録したこと(自己記録)に有効性があった。
学級においては、授業参加行動を賞賛されたのを見たほかの児童が、模倣をする様子が観察され、また、喜ぶ様子もあった。小学4年生以上の児童にも効果があるか検討する必要がある。
課題として、教師が言語賞賛した対象を、学級・集団・個人に分けて記録できなかったことが挙げられる。今後は、言語賞賛内容を全体と個別に分けて記録し、その効果を検討する必要がある。
感想
・こういう、「ふつうに考えて、そうじゃん」って思われているテーマを論文化したことって本当に大切。こういう実践をしていきたい。どうやら自分は、指導者の指導スキル向上に関心があるようだ。
・研究プロジェクトに対して、意欲的な人が多い現場なら、やはり賞賛も多いし、増えるとは思う。しかし、現場では自己記録をしたくない指導者(自分の指導の芯がないから、指導に自身がないからなどの理由で?)は多いかと思う。学ぶ意欲や、よりよくしたいと思っている人は実践して、指導力を向上させていくが、大半の人はやらなくてもいいならやらないし、そもそも自分の指導を変えようとしない。教育の質のために、高みを目指す人を上げて、全体を引き上げていく方を重視するのか、底でやっている人たちを少しでも上にあげることが必要なのか…。この論文とはズレた感想になってしまった。
文献情報
庭山和貴・松見淳子. (2016). 自己記録手続きを用いた教師の言語賞賛の増加が児童の授業参加行動に及ぼす効果—担任教師によるクラスワイドな “褒めること” の効果—. 教育心理学研究, 64(4), 598-609.