おさるケーキが食べたい【エッセイ】
幼少期、たぶん3歳のとき。
「おさるケーキ」のことを思い出す。
まだ覚えている。
「しぃの誕生日ケーキは何にしようかな?」
いつものショッピングモールのケーキ屋さんへ母と向かった。
家族の誕生日には、いつもデコレーションケーキを買うのがお決まりだった我が家。
4人家族の我が家は、1年のうち大体3ヶ月ごとに誰かの誕生日がくる。ちょうど良いイベントだ。
前回の姉の誕生日では白のケーキを食べたから、今回の私はなんとなく黒が食べたい。
そう思っていた時、なんと目の前にあのかわいい動物のケーキが現れたのだ。
ドーム型で、茶色いチョコレートがトッピングされていて、そして左右に大きなバナナ。
それが、私とおさるケーキの出会いだった。
ビジュアルがとても可愛くて、そしてとても大きくて、美味しかった記憶がある。家族みんなで喜んで食べた。
そしてまた来年もおさるケーキが食べたいと私はお母さんに言った。
しかしその後、そのケーキ屋さんにふらりと立ち寄ることはあっても、おさるケーキが現れることはなかった。
それから1年経ち、おさるケーキを待ち望んでいた私。そこのケーキ屋さんにおさるケーキはもちろんなかった。
母はおさるケーキを食べたがる私を見かねて、違うお店でおさるケーキを探して注文してくれた。
でも、そのおさるケーキは私が知っていたおさるケーキではなく、なんかちょっと違っていた。
確かに今回のおさるケーキもおいしかった。けれども、私にとってのおさるケーキはあのおさるケーキなんだ。
そう思いながら、かれこれ20数年間ずっとあのおさるケーキが食べたいと思っている。
大人になってから、ふらりと立ち寄ったとあるケーキ屋で、おさるケーキのようなルックスのケーキを見つけた。通りすがりにチラッと見えただけだが、私は「おさるケーキだ!」と興奮した。
しかし大人になった私にとって、ワンホールのケーキを食べきるのは一苦労だし、特に何もない日だし、そのおさるケーキは私の求めているおさるケーキではないんだろうなぁという考えが頭に浮かび、購入には至らなかった。
大人になったんだ。私も。
ずっと心の中に求めている。あの小さい頃に食べたおさるケーキ。
あれがまた食べたい。