【今日の論文】行動障害を示す自閉症生徒への機能的アセスメントと支援ツールに基づく作業行動支援
概要
本研究の目的は、校内作業と校内外現場実習についての2年7か月にわたる作業行動支援の経過報告と、学校場面から職場へのスムーズな移行の在り方について検討することとした。行動問題のあるASD児1名に対し、機能的アセスメントを行い、適切行動が自発・維持するための支援ツールを用いて支援計画を作成し、作業学習において支援を行った。その結果、支援ツールの活用により生徒は安定した作業従事が可能となった。
方法
対象生徒 養護学校高等部1年男子生徒。田中ビネーIQ31、CARS 53.5(重度自閉症)と評定された。教員個別対応。過去の出来事に固執。カレンダーなどの日時を覚えている。大声のエコラリア。機能的な会話は困難。教室飛び出しあり。
支援ツール キッチンタイマーとチェックリスト。タイマーがなるまでに目標作業量を達成したら合格。課題分析された①~⑩の項目に沿って実施し、⑩では、獲得した10円シールに応じて家庭で報酬を得る流れとなっていた。
機能的アセスメント 聞き取り、ABCE分析(園山 ,2000)から推定していった。その結果、不適切行動には課題からの逸脱と、逸脱により注目されるという機能が追加することが予測された。
手続き
(1)第1期 ①作業量の設定、②チェックリストの記入、③集中指導、④保護者と担任の協力
(2)第2期 ①目標作業量の修正、②自己教示の追加(独語の代替行動)(e.g.,「いち、にい、、全部まるでシール!」)
(3)第3期 ①目標作業量修正とカウンター導入、②カウンター導入、③10円シールの導入と保護者担任の協力
(4)校内及び現場実習 支援ツールを使用しながら実施。
アンケート調査 保護者、現場実習先担当者
結果 タイマー操作回数は増え、不適切行動の生起割合(タイマー操作1回あたりに対する不適切行動の割合)も減少した。作業種の変更があっても、タイマー操作回数は増えた。アンケートでは、支援ツールや教員ジョブコーチに高い評価を得、「接し方がりかいできる」「実習生が一人でできる」「ほかの従業員にも役立つ」点が特に評価された。
考察
・大声でのエコラリアを作業遂行のための自己教示に、落書き行動をチェックリスト記録行動に適切行動の形成を支援した。→ストレングスを最大限生かす
・タイマーツールは自発的行動を促した。複数の環境文脈において社会的環境を整備することとなり、生徒が安定して作業を遂行できた。また、成功体験とともに見通しをもち、理解できたため、行動が安定した。
・行動障害のある自閉症者には「これがあればできる」もののを見つけて育てる視点が重要
・担任、作業担当、進路担当、保護者らが長期的支援の見通しをもち、長い協力体制の構築が必要
課題
・実際の学校現場、職場における実践研究であったため、実験計画法の適用は困難であった。支援の有効性がより明確になる実験計画立案のために、今後は関係機関との連携による実践が必要である。
・実践研究をすすめるにあたって学校教育との連携の困難性がある(服巻, 2000;竹内・島宗・橋本, 2002)
・学校は、教育や支援の要であり、生涯にわたる支援の出発点となるべき機関であるため、スムーズな移行のためには学校教育から発信する連携の在り方が必要である。
・学校と職場(福祉施設)への実際場面での連携指導の必要性
感想
・類似した形態での代替行動として、音声刺激→ルール自己教示へ、落書き行動→チェックシートへの書入れへ、という発想はすごい。柔軟に、その子の好きなことから社会的に〇な支援を考案、立案することを忘れないこと!
・考察は、学校と施設とのかかわりの現状について大切なことを言っている。学校と外部との連携について、取り組みを増やしていくことが、障害児教育にとって、生徒たちにとって大切だと思う。
文献情報
高畑庄蔵. (2004). 行動障害を示す自閉症生徒への機能的アセスメントと支援ツールに基づく作業行動支援: 校内作業学習から校外現場実習へのスムーズな移行を目指して. 特殊教育学研究, 42(1), 47-56.