ひとりそたぶ364 高校野球
364回目は「高校野球」です。
詳しく無さ過ぎるのでこんな感じで誤魔化してみました。
ではご覧下さい。
孤独なスメル
コント/ドラフト
何気なくテレビをつけていた。ドラフト会議をしていた。金の卵である高校球児達を指名し獲得する為に球団のお偉いさん達が揃い踏みしていた。
そして一巡目。僕がドラフト会議で一位に指名された。しかも四球団からもだ。
おかしい。僕は甲子園出場をしていないのは勿論の事、野球部に所属すらしていない。何なら野球自体やった事が無い。ボールも触ったかどうか怪しいレベルだ。
巨人・広島・ソフトバンク・西武。野球に詳しくない自分でも分かる位凄い面子が挙って僕を指名してきた。
そして指名者達が僕を獲得する為に激しく争っていた。
「やめて!!僕の為に争わないでくれ!!」
勿論そんな叫びもテレビ越しには届く筈も無く、良い大人が醜く殴り合っていた。野球で言うなら乱闘だ。
因みに一人称を私に変えて、自分とライバルがクラスのマドンナを奪い合うシチュエーションで言われたかった。
何故僕が言うんだろうか。よりによって下手したら三回りも上のオッサン相手に。聞こえちゃいないけれども。
てか指名が被ったら抽選で決める筈では無いだろうか。幾ら野球に詳しくない僕でもその位は分かっている。
なにゆえ高校球児でも何でもない名もなき帰宅部の僕の為に争っているのだろうか。もう何も分からない。
30分もした頃、決着がついた。初老の男共の殴り合いの結果、僕は巨人に入団する事が決定した。
血まみれの巨人のお偉いさんがナベツネに頭を撫でられ喜んでいる。異様な光景が続いた中で最も異様としか言い様が無かった。。
正直言って一番プレッシャーが掛かる球団が勝ってしまった。何となくだけど広島か西武よりはマシかもしれないが。
僕は原監督やナベツネ、そしてジャイアンツファンの期待に応える事が出来るのだろうか。否、出来る筈も無い。
野球選手は幼い頃から野球漬けで、高校でも勉強そっちのけで、坊主頭一択の連中のほんの一握りしかなれない憧れの、狭き門の職業だ。
こんな僕がなってしまって良いのだろうか。そんな刹那、電話が鳴った。巨人の血まみれのおじさんだった。
「有重君、おめでとう。君はこれから我が巨人軍の選手だよ」
さっきまで他球団のオッサン連中をボッコボコにしてたとは思えない位優しい声だった。恐怖しかない。
「あの、僕野球やった事無いので入りたくないんですけど」「ああ。大丈夫大丈夫。我が巨人軍は未経験歓迎だから」
アルバイトかよ。未経験者がどうやったら巨人の星として輝けるんだよ。高校生の伸びしろにも限界はあるんだぞ。
「それに契約金一億、年俸も三億でどうだい?」「やります!!!」
「読売巨人軍は永久に不滅です」と言っていたミスター、ごめん。金の魔力には勝てねえや。これも運命だと思って受け入れようじゃないか。
あれから数か月が経った。高校生の伸びしろというのは恐ろしい。未経験者があっという間にプロで充分以上に通用するルーキーとして成長してしまった。
「亡き沢村栄治の生まれ変わりは有重豊五郎という平凡な高校生だ」――――そんな噂が球団関係者の間で流れていたのを知ったのはずっと後の事だった。