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エッセイ | 自分の機嫌を自分でとる

4歳の長女ちゃんは、ママのことが大好きだ。

だから、保育園は嫌いじゃないけれど、ママと一緒にいたいから行かない!となってしまうことがしょっちゅう、いや毎朝のようにある。

親の都合で行かせている面もあるわけだから、出来るだけ優しく寄り添うようにしてきた。
そうだね、頑張ってるね、今日はこんな楽しいことがあるよ、なんて宥めながら送り出して、なるべく笑顔で行ってらっしゃいが出来るように。

しかし現在、わが家には低月齢の双子がいる。
悲しいかな、毎日毎日丁寧に長女ちゃんに対応してばかりもいられないのが現実だ。

ある朝、家の玄関で事件は起きた。

そもそもその日は、双子の機嫌が悪かった。ミルクを終えてお腹はいっぱいだけれど上手く眠れず、二人そろって泣きぐずっていた。

当然家を出る時間も押しており、登園時間にはもう確実に遅刻。どうにか泣き叫ぶ双子を一人ずつベビーカーに乗せ、おしゃぶりをくわえさせ、ベビーカーを揺らしてあやしていた。

その最中に飛び出した長女ちゃん渾身の、「今日は保育園おやすみ!」。

なかなかの迫力だ。靴どころか靴下を履くことすら拒否している。
気概はじゅうぶん伝わってきた。行きたくないよね、休み明けの月曜日だし。
しかしいくら育休中とは言え、毎日休ませるわけにもいかない(特別なお休みはたびたび別に取っている)。

「ダメ、行くよ!」
「いやだ、行かない!」
「ほら、双子ちゃんも泣いてるし、早く歩かないと泣き止まないよ!」
「いや!」

そんなやり取りをどのくらい繰り返しただろう。
長女ちゃんは本気。私も必死。終わらない双子の泣き声。双子がいては、長女を無理やり引っ張り出すことも難しい。

そこで私はふと、言った。

「じゃあ、どうしたら保育園に行ける?」

決して建設的な思考から出た言葉では無かった。正直なところイライラもしていて、どうにか家を出て欲しくて、強い口調でそう言い放った。
しかしここで長女ちゃんが、予想外の反応を見せた。

「…ぬいぐるみ持ってく」

なんて真っ当な返事だろう。

そんな答えが返ってくると思っていなかった私は驚きつつ、いいよ、と頷いた。長女ちゃんはすぐに室内に戻り、最近手に入れた大きなぬいぐるみ(プリキュアのニコ様)を持ってくると、ご機嫌に抱きしめて靴を履いた。
それはもう、すんなりと。

そうして拍子抜けするほど唐突に攻防は終わり、長女ちゃんはにこにこ笑顔で外へ飛び出した。
その後の登園はもちろん、信じられないほどスムーズだった。「帰りもニコ様とおむかえに来てね」と笑う長女ちゃんの笑顔が眩しかった。

子どもってなんて素直なのだろう。
母が投げやりに口にした「どうしたいの」を、彼女は真正面から受け止め、自分なりに考えて答えを出した。

見事に、自分で自分の機嫌をとったのだ。
そして試練を乗り越えることに成功した。

こういうこと、大人になってもやらなきゃいけない場面がたくさんある。そしてその意外と難しいこと!

私も長女ちゃんを見習って、自分の機嫌をとる方法をしっかり模索しながら日々を過ごさねばと反省した。

そしてこの偶然の産物のような得難い日常の積み重ねが、長女ちゃんがこれからの長い人生を幸福に生き抜く練習になりますようにと願うばかりだ。



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