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「知る」ことで私があなたの、その手を取るから


きゃーーー!!
にげろーーー!!


幼稚園の園庭は騒然となった。
慌てふためく園児の波にのまれ、私はあっという間に室内に押し込まれた。

背伸びしてのぞき見た園庭では、大きな身体の園児がひとり、駆け回っていた。

彼の顔は今も覚えている。
ゆがんだ形の頭はいつも揺れていた。
片目はうまく開かず、ウインクしているみたいだった。
いつも口が半開きだった。



そんな、なにかを抱えていた、彼のこと。


彼は楽しそうに、頭を揺らし園庭を駆けていた。

その予測できない動き。大きな身体。
幼稚園児からしたら異質だったんだろう。



ねえ。
怖くないよ?



私は、そうささやいたつもりだった。
でも。
彼の元には、行けなかった。


ひとり残された言葉が、ぽつんと宙に浮いていた。



園庭で解き放たれたように駆けていた彼。
心の中では、泣いていたんだろうか。




父は、養護学校の教員だった。
父は私と兄2人をたびたび学校に連れて行った。

体育館で卓球したり、生徒と共にプールに入りおぼれかけたり、文化祭の合唱を聴いたりした。

「みんな、楽しそうだね」

合唱中。こっそり父にそう伝えた。
教え子たちを見つめたまま、父は微笑んだ。


この世には、障がいをもつ人が沢山いて、ともに生きている


この常識が。
亡き父から受け取った私の財産。


笑顔の次女


私の次女は発達障がいだ。
すぐにパニックになる彼女を見て、私は
「彼女の生きづらさを知りたい」と思った。


児童発達支援士の勉強を始めた際。
テキストの数字が心に重く、のしかかる。


10代~30代の死因 第1位は「自殺」


障がいを持つ人に限った統計ではない。
でもこの数字の中に、障がいを周りに理解されないために、精神的に病み、鬱や不登校などの「二次障がい」を抱えた人も多いことは確かだ。


「理解」がなければ、そこから「離れる」選択を取るしかなくなる。
それを止める術なんて、知ろうとしない私たちにはない。


だからこそ、私たちはもっと「知る」ことを選ばなくてはいけない。


幼稚園での異様な光景を私は忘れない。
誰もがただひとりの園児におびえていた。彼を恐れていた。


それは「知らなかった」から。


でも、これから生きていく中で。
知らないことは大きな罪になるかもしれない。




私の無知が誰かを傷つけないように。
知っていきたい。この世界のことを、もっと。



いつかの記憶の中の彼の手をとって。

「楽しいね!」

そう言って今度はいっしょに。
隣で走れるように。


次女と私





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