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「たそがれ清兵衛」

時代劇を見て、こんなに心が癒されるとは。美しい日本が描かれた、美しい時代劇でした。

舞台は幕末の庄内(現在の山形県)。下級武士の清兵衛は妻に先立たれ、二人の娘と、ボケはじめた老母の3人を養っている。仕事と家事と内職に励み、何とか生計を立てる清兵衛の元へある日、嫁いだばかりで離縁した幼馴染の朋江がやってくる。1つの時代の終わりを生きた武士の物語。

作品全体の慎ましやかで温かな空気に東北訛りがとてもよかったです。そして、朋江役の宮沢りえの美しい佇まいよ。凛とした武家の娘であり、次の時代を見つめる新しい女性であり、清兵衛を一途に思う乙女であり、優しく厳しい母である。これぞまさに理想の奥さん、という感じ。

あと、清兵衛と戦うことになる剣の名士を演じた舞踏家の田中泯の存在感がすごかったです。この人は、剣を手に歩くだけで芸術。立っているだけで只者ではないオーラ。

江戸という時代の終わりは、侍という存在の終わりでもあったわけで、それを考えると名もなき侍の素朴な日々が、より叙情的に感じられます。明治維新の直前まで、日本はこんなふうだったのかと、新鮮な気持ちでした。こんな日本に住んでみたい、と思わせる映画でした。

原作は藤沢周平の短編で、パッとしないけど実は剣の腕前がスゴいという下級武士たちを主人公にした8つの連作の1つ。8作品、どれも題名が面白い。「ど忘れ万六」、「だんまり弥助」、「ごますり甚内」あたり、気になります。

本作は2004年のアカデミー賞 国際長編映画賞にノミネートされているので、海外での評価も高かったみたいですが、英語のタイトルが「The Twilight Samurai」って、なんか変な感じ。トワイライトと聞くと、どうしてもドラキュラがチラついてしまう…。


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