あなたは私の、もう一人の育て親
「なんでむすめちゃんのいうこと、わかんないっていうのー!!」
顔を真っ赤にして、すごく怒りながらめちゃくちゃ大泣きしている。
ふと見れば窓が開いてる。
この声量なら外に聞こえてるんじゃないだろうか。
なんでって言われも、30年以上生きててもわかんないことはあるよ。
でもきっとそれを言ったら、火に油だ。
どうしたもんか…
最近娘が反抗期だ。
第一反抗期の入り口の「魔の二歳児」をしっかり経て、今はもう4歳。
未だ反抗期真っ只中だ。
普段はニコニコしてて、活発でマイペース&マイワールドで遊んでるような娘だが、
ここ2、3週間は大変だった。
こんな会話があった。
「き(木)ってどんななかまがある?」
「仲間?例えば、桜とか桃とか梅とかかなー。いっぱいあるよ」
「ちがくって、どんななかまがあるの?ってきいてるの」
「え…いっぱいあると思うよ」
「ちがくって、どんななかまがあるの?ってきいてるの!!」
「いや、桜とかじゃなくて?質問がよくわかんないよ」
「なんでむすめちゃんのいうこと、わかんないっていうのー!!」
ギャー!と大泣き。
始まってしまった。
今の答えってなんだったんだ…?
私がギャン泣きのスイッチを押したのか…?
こうなるともう何を言っても話しても、次の泣きのスイッチになってしまう。
だんだん私もイライラしてくる。
何度か先ほどのやり取りが繰り返され、どうにも状況が変わらない。
「一旦この話はここでおしまいにしよ。喧嘩になっちゃってるよ」
「やめないで!!けんかのつづきしようよ!」
おっと…
もう本人も最初の理由はわからなくなっていて、とにかくパニックというか癇癪っぽくなってる。
これがしんどい。
こどもの大きな泣き声と、全然解決できない内容が延々と続き、頼むからもう勘弁してくれ、と言う気分になる。
これが一度でも起こると、その日の私の気力体力を全て消耗し、家事も、何もかも気持ちが失せてしまう。
まるでHP0。もう戦闘不能。
誰か私に、回復魔法をかけてくれ。
「なんで勝手に座るの!」と理不尽極まりない発言を浴びながらとりあえずソファに座ると、娘も隣に来た。
すんごいプンプン怒ってる。
まだ続くのかな...?
回復魔法なんてないのだから、どうにかするしかない。
できるだけ気持ちを落ち着かせて、木の仲間のことを聞きたい気持ちはわかってるよ、と言ってみる。
「でもおしえてほしかったの!」と繰り返すが、
気持ちはわかるよ、知りたかったんだよね、と何度か伝えると少し落ち着いてきた様子だ。
今度は、お母さんにもわからないことがあるとゆっくり説明してみた。
わかってくれたようだ。
ソファに座ったのもよかったかもしれない。
ふう、しんどい。
この日は、このやり取りが夕方でよかった。
戦闘不能状態からでは、家事などなにも手につかない。
取り込んだ洗濯物は明日畳めばいいし、夕食は食べ始めの時間が遅くなるくらいだから、まあいいだろう。
そのあとはソファに座りながら、娘の好きなテレビを見て気を取り直した。
完全に落ち着いた娘からは、
「おかあさんにしらないことがあるなんて、しらなかったから。さっきはごめんね」
と言ってくれた。
いつの間に、こんなに「ごめんね」が上手になったのだろう。
あんなに混乱極めてるように見えたのに、
振り返って自分の言葉でまっすぐ私に伝えてくれる。
大きくなったな….
「お母さんも、怒っちゃってごめんね」と仲直りのギューをした。
HPが微弱ながら復活してきて、なんとか食事やお風呂まで終えると、
娘はすっかりいつものお調子者に戻っていた。
私はお皿など洗い物を片付けてから寝ることを娘に伝えると、彼女は自分一人で寝るとのことだった。
少し前から一人で寝ることができるようになってきた娘は、
先日寝室の壁に貼った、光るシールでできた星空を気に入っていて、添い寝をしなくても寝られるようになったみたいだ。
「じゃあ、お母さんはお皿洗ってるからね。何かあったら起きておいでね」
「うん。おやすみ」
「おやすみ。大好きよ」最後にギューをして、寝室に入って行く娘。
本当に大きくなったな。
一人で真っ暗な部屋に入って、しっかりドアまでしめるなんて。
でもいつものように、きっと何か理由をつけて何回か起きてくるんだろうな。
案の定すぐにドアが開いて、喉が渇いたと言う。
コップにお茶を注ぎ渡すと、ぐびっと一口飲んで「おやすみ!」と言い、心なしか足取りルンルンで部屋に戻って行った。
こうやって一人で寝ることが、少しお姉さんっぽいという実感があるのかもしれない。
可愛いな。
これでもう寝るかな。
油汚れが残る食器を洗っていると、またガチャリと寝室のドアが開く。
あれ、寝れなかったか。次はなんだろ?
やっぱり一緒に寝よって言うのかな。
そうなったらもう食器洗いは諦めるしかないな。 夜のうちにシンクを綺麗にしておきたいのだけど…
トタトタと歩いてキッチンまで娘が来た。
「どうした?」
「あのね、おかあさんにわたすものがあったの」
え?渡すもの?
保育園からのお手紙かな...
廊下に置いてあった保育園のリュックから何かを取ってきて、私に渡す。
「おかあさんへの、おてがみ」
不器用に4つに折られた紙を開くと、2人の人物の笑顔が描かれていた。
どきっとした。
「おかあさんとむすめちゃんかいたの」
今日の、このタイミングで…
「ありがとう!お母さんと娘ちゃん描いてくれたんだね!とってもかわいいね。」
ドキドキしながら私のリアクションを待っていた娘が、満面の笑みになった。
ありがとうの言葉で伝わったかな。
とてもとても嬉しくて、愛しい気持ちが。
「さっそく飾るね」
リビングの壁の一面には、これまで娘が描いた絵が何枚か貼ってある。
そこに今日の1枚も加える。
こうやって、娘が私へのプレゼントといって絵を描いてきてくれたのは、今日が初めてではない。
壁に張り切れないたくさんの絵がこれまでもあった。
きっと、朝7時台の登園の後とか、延長保育のお迎えまでの時間に、
子ども用の低いテーブルと椅子に座って、
不器用ながらも色鉛筆を握りながら描いているかもしれない。
その姿を想像すると、日頃がんばって登園してくれてることに感謝の気持ちが溢れる。
「本当にありがとう!娘ちゃん大好きよ」
そういって再びギュッとした。
どんなに喧嘩しても、お互い泣くほどの言い合いになっても、いつも変わらずあなたを大好きだということが、
抱きしめる腕の強さを通して、伝わっただろうか。
大人になると喧嘩とか口論になった後は少し気まずい思いをして、相手に素直になれないことが私にはある。
けど、娘のように、ケンカの後でも気持ちがこもった手紙を遠慮なく渡すということを、恐れずにできればいいなと思う。
娘は、私ができないことをたくさん見せて、教えてくれる。
ごめんねの言い方も、手紙の渡し方も、好きの伝え方も、娘の方が何枚も上手だ。
私に足りない部分を、日々の生活の中で見本を見せてくれている。
やっとわかった。
子どもが親を育てるというのは、本当だ。
あなたが教えてくれるから、
私はこれから自分の言葉でごめんねを言って、
照れ臭くても好きという気持ちを誰かに渡せるようになれる、気がする。
ありがとう。大好きよ。
娘は私のもう一人の親だったんだ。
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