世代間ギャップは「コミュニケーションの問題」だけじゃなかった
竹内義晴の「これからの働き方」――この番組は、これからの働き方、組織作り、地域づくりの実務家、竹内義晴が「楽しく働く」をテーマに、組織づくりやコミュニケーション、マーケティング、キャリアデザイン、複業、テレワーク、ワーケーションなどの視点でゆるゆるとお話をしていく番組です。
いま、noteさんの #創作大賞2024 #ビジネス部門 という企画に参加しています。『「仕事っぽいシゴト」が社会の課題を解決する』というタイトルの本を作るイメージで毎日お話しています。1本目、目次はこちらです。
昨日は、「若手社員が会社を辞める本当の理由」というお話をしました。
今日は、「世代間ギャップは『コミュニケーションの問題』だけじゃなかった」というお話です。
音声はこちらです。
組織づくりやコミュニケーションの講演をする中で見えた「世代間ギャップ」の課題
僕は、しごとのみらいというNPO法人で、組織作りやコミュニケーションに関する企業研修や講演を行っています。
以前は、組織作りやコミュニケーションと言ったら、「コミュニケーションを良くするためにはどうしたらいいか」とか、「働きやすい職場を作るためにはどうしたらいいか」といった、組織づくりやコミュニケーションそのもののテーマで、研修や講演のお話をいただくケースが多かったんですよね。
しかし、近年ですね。「世代間ギャップ」がひとつのテーマになっているんです。
なぜ、「世代間ギャップがテーマになっているか?」というと、ベテラン世代から見ると「若い世代の方が、何を考えてるのかよくわからない」という課題感を持っているし、若い世代のみなさんからみると「どうやって上司世代と関わったらいいのかよくわからない」という。
両方の世代が、それぞれの世代に対して「関わり方がわからない」という課題感を持っているようなんですよ。「何を考えてるのかよくわからない」という。
世代間ギャップというのは、必ずしもいま、始まったわけではなくて、もう、ずいぶん昔から言われている話ですよね。「最近の若い世代は……」とか、「おじさんはこれだから……」とか。こうした話は、世代や年齢の差がある以上、おそらく、人類が始まった時から言われているんじゃないかと思います。
ですが、近年になって世代間ギャップが取り上げられている、と。それが最近の特徴だなと思います。これは、現場にいて感じていることです。
なぜ近年「世代間ギャップ」が問題になっているのか?
なぜ、近年「世代間ギャップがテーマになっているのか?」というと、依頼されてくる方は「コミュニケーションの問題」だと思っているところにあります。
「異なる世代と、どう接すればいいのか?」とか、「それぞれの世代の価値観は何か?」とか。つまり「コミュニケーションの問題を解決すれば、きっと解決するはずだ」と思っている……そういった依頼が多いんです。
問題は「世代論」や「コミュニケーション」の課題ではない
ですが、実際には、単に「世代論」とか「コミュニケーションの問題」ではなくなってきているんですよね。
それは何か……と言えば、もちろん、一部はコミュニケーションの問題もありますが、単にコミュニケーションだけではなく、キャリアの問題も関わっている……ということなんです。
その、キャリアの問題とは何か? というと……
世代による「キャリアのギャップ」
中堅、ベテラン世代の人たちの、これまでのキャリア形成の仕方といったら、一般的なもので言えば――もちろん、人によって違いはありますが――、大学なり、高校なりを卒業したら会社に入る。そして同じ会社で生涯を過ごし、定年まで働いたのちに定年退職をする。それから、退職金と年金をもらって暮らす……というのが、いままでの、ひとつのパターンでしたね。
つまり、「教育→仕事→退職」という3つのステージが大きなパターンでした。
なぜ、3つのステージが大きなパターンだったのか? それは、かつてからよく言われる「右肩上がりの時代」の場合は、「未来はこうなっていく」というのが、なんとなく予測できたからです。
会社に入ったら、だいたい何歳ぐらいで肩書きがついて、何歳ぐらいでこんなポジションにいて、このぐらいで退職する……みたいなものが、なんとなくイメージできました。
現代は「未来が予測できない時代」
しかし、近年は「失われた30年」といわれ、VUCAと呼ばれる「未来が予測しにくい社会」です。その中で、近年、社会人になった若い世代のみなさんは「将来どうなるのか?」ということがよくわからない時代の中を生きています。
それは、かつてより「変化が早い」こともありますし、少子高齢化といった、中堅・ベテラン世代がそれほど意識する必要がなかった要素が事実として起こっていることもあります。つまり「社会が、今後どうなっていくのかよくわからない」ということ。
少なくとも、いままで、ベテラン・中堅世代の人たちがもらっていたような年金すらも、もらえるのかどうかもわからない……。
それはそうですよね。年金は「高齢者の方々を、若い世代が支える」という仕組みです。しかし、人口構造が逆になって、中堅・ベテラン世代の人たち多くなって、若い世代の人たちが減っていく……。
少子高齢化の社会になるこれからは、いままでのように、年金がもらえるかどうかは、保証もありませんし、単純に考えれば「もらえたとしても、少なくなる」というのは、おそらく致し方ないだろう……と、多くの人が思っていると思います。構造的に。
そうすると、「ひとつの会社だけで、ずっと働いていていいのか?」「自分の市場価値を高めて、できるだけ長く働けた方がいいんじゃないか?」というふうに考える人がいても、おかしくはないですよね。
また、会社に入ったからといって、必ずしも順調に進めるかどうかもわからない……といった状況であるならば、何かしらの力をつけていく方がいいんじゃないか? と思う人は、一定数いるんじゃないかなと思います。
もちろん、いままでの価値観のように「会社に入って、大きな組織に入れば安心安定だよね」という人もいます。いまも人気の職業のひとつに公務員もありますからね。不安定な社会ほど、安定を求めることも、自然なことかもしれません。
ですが、少なからず、今後、自分がどうなっていくのかよくわからない状況の中では、やっぱり「力をつけておいたほうがいいんじゃないか?」と思う人もいると思います。
自分の成功体験をもとに関わると「キャリアの世代間ギャップ」が起こる
そういった若いみなさんに対して、中堅・ベテラン世代の方々が、自分が経験してきた正しさ――たとえば、分かりやすい例で言えば「石の上にも3年」とか、「とりあえずやってみなよ。やればわかるさ」とか、「若い頃とにかく努力をすることが大事」みたいな――をベースにしたコミュニケーションの仕方を、若い世代のみなさんに対して行うと、ただでさえ、先行きがどうなるのか分かりにくい状況の中で、ギャップが生じてしまうのは当然です。
「俺たちの時代はなぁ……」といった、かつての時代に培われた成功体験で、「だから、こうしなさい」と言われても、「いやいや、以前といまとでは、時代が違うし……」という状況になりがちですよね。
そして、「この人にこれ以上言っても無駄だな」と思われたら、最後の選択肢は離職しかなくなってしまいます。
しかし、会社を辞めるときには、そこまで本音を言って辞めてはいかないために、「なぜ、退職するのかがよくわからない……」という状況で、離職率が増えている……という話を、現場の人事の方から非常に多く聞くわけです。
ですから、世代間ギャップを、単に「価値観が違うよね」といった、コミュニケーションの問題だと捉えるのではなく、その背景には「キャリアの不安から来ている要素もある」ということを、いま一度、とらえ直していく必要があるんじゃないかと思っています。
では、今日の話はこれで終わりにします。