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コラム:「年齢を重ねると、やる気を失う」は本当か?―幸福感とエイジズム

竹内義晴の「これからの働き方」――この番組は、これからの働き方、組織作り、地域づくりの実務家、竹内義晴が「楽しく働く」をテーマに、組織づくりやコミュニケーション、マーケティング、キャリアデザイン、複業、テレワーク、ワーケーションなどの視点でゆるゆるとお話をしていく番組です。

いま、noteさんの #創作大賞2024 #ビジネス部門 という企画に参加しています。『「仕事っぽいシゴト」が社会の課題を解決する』というタイトルの本を作るイメージで毎日お話しています。1本目、目次はこちらです。

昨日は、「ポートフォリオのつくりかた⑩―ポートフォリオをつくる「本当の意味」」というお話でした。

で今日はですね。 4章のまとめと、コラム的な話をしたいと思います。

テーマは……「年齢を重ねると、やる気を失うのは本当か?」です。

音声はこちらです。

なぜ、ポートフォリオをつくってきたのか?

4章では、ポートフォリオのつくりかたについてお話をしてきました。なぜポートフォリオをつくり必要があるのか? というと「社会との接点をつくるため」ですね。

会社で働いていると案外、社外との接点があまりありません。そのため、自分の経験や強み、スキル、自分が大切にしていることなどを、言語化する機会があまりありません。

そこで、外との接点を作るためにも、今一度自分の経験やできること、そして大切にしていることなどを棚卸しして、言語化してみよう……というのが、4章で話してきたポートフォリオのつくりかたです。

もちろん、ポートフォリオを作ったからといって、必ずしも、すぐに複業のような「仕事っぽいシゴト」ができるとは限りません。ですが、少なからず、社会との接点をつくっていく上で「自分はこういう人ですよ」ということを伝え、外に出していくことは、とても重要になります。

そこで、一度自分自身の棚卸しとして、ポートフォリオをつくってみることをおすすめします。

年齢を重ねると、本当にやる気を失うのか

今日の「年齢を重ねると、やる気を失うのは本当か?」という話なんですけど……

今日のテーマについて、実はこの1ヶ月ぐらいの間、「いま、人口減少がどんどん進んでいること」「今後、地域の企業は人材不足に悩むことになること」「だから、いままで地域の中だけで人を探していたものを、地域の外にも目を向けていこう」「複業のような新たな働き方をする人とつながろう」といった話を、いろんな人に話してきました。

また、働く側の人たちに対しても、「いままでは1社だけで働く働き方だった」「だが、人生100年時代、第2、第3のキャリアも考えたほうがいいのでは?」「そのためには、社会とつながること」「一気に会社を辞めるんじゃなくて、複業のような形で徐々に徐々に社会の接点を増やしていくことが大事」……そんな話をしてきました。「こんな仕組み作りたいんだ!」って、いろんなところで話してきたんですよ。

話の流れ的に、「第2、第3のキャリア」みたいな話をするケースが多かったんですけど、その時ね、何度か言われたショッキングな話があって。

それは……「ベテラン世代の人たちって、そんなに向上心ありますかね?」 とか、「やる気ありますかね?」とか、「成長意欲ありますかね?」とか
そんな風に言われることが、1回ならず何度かあったんですよ。

僕はいま、ちょうどその世代なのもありますが、正直、ちょっと悔しくて……(ちなみに、ここだけの話ですが、「ベテラン世代はやる気がない」の話になったとき、こころの中では「あなたも僕と同じぐらいの年齢ですよね? あなたはやる気がないんですか?」って思っていました(笑))。

確かに年齢を重ねると、若いころに比べると「徹夜してがんばる」みたいな、無理な働き方はできなくなっていくし、したいとは思いません。

ですが、「やる気がないのか?」って言われると……僕自身はそんなことはないです。むしろ、今までの経験や人とのつながり、そういったことを生かして「いまの僕の何ができるか?」と日々考えて、精力的に動いています。

あとは、若いころと比較すると、いまの方が物事を俯瞰的にとらえて「大事なのは、こういうことじゃないか?」「いまやるべきことは、こういうことなんじゃないか?」というアイデアや、社会課題を解決する取り組みは、むしろ以前よりもやっていると思っています。

加えて、いま自分ごととして捉えている人口減少問題とか、ビジネスパーソンの新たなキャリアの問題とかは、真剣に「形にしたい」と思っていて、毎日ポッドキャストやnoteで発信しています。

言っておきますが、毎日発信するなんて、そう簡単にできることではありませんからね。ふつうはやらないと思いますよ。

それにもかかわらず、「ベテラン世代は成長意欲がない」って言われちゃうと、ちょっと汚い言葉を使えば「ふざけんなよ」と(笑)。そんな感じがしちゃいますよね。

で、「本当なのかな?」と思うんです。「ベテラン世代になると、やる気がなくなる、成長意欲がなくなる」ということが。「データでもあるのか?」と思います。なんなら「それって、年齢による差別じゃないのか?」と、そんな気さえします。

でも、「年齢を重ねるとやる気がなくなる」というのは、きっと多くの人が無意識に思っていることなんじゃないかなと思うんです。

このような、年齢による差別のことを「エイジズム」と言いますが、多くの人が無意識に、年齢に対する偏見を持っているんじゃないかと思います。

「年齢を重ねると、本当にやる気を失うのか」のアンサー

この偏見について「本当なのかな?」と思って、データを調べてみようと思ったんです。その前に、とってもいい本があるので、今日はこの本を引用します。

引用する本は、法政大学の石山恒貴さんの『定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考~』という本です。

この本の「はじめに」、いまお話ししたような「年齢によるやる気の喪失は本当か?」とか、エイジズムの話など、言いたいことが端的に書かれているので引用します。

はじめに
 定年前と定年後の働き方は、個人の思考ひとつで大きく変わる。本書では 50代以降の個人をシニアと呼び、その働き方の思考法について考えていきたい。そのシニアの働き方の思考法の鍵を握るものは幸福感だ。
 幸福感と年齢の関係には謎が多い。この謎はU字型カーブやエイジング・パラドックスなどと呼ばれる。どういうことかといえば、個人の幸福感は20代・30 代では高いが、その後低下し 40 代の後半で底をうつ。そして、その後は年齢が上昇するにつれ、幸福感も上昇し続けるのだ。
 この年齢と幸福感の関係を示すカーブは、U字型カーブと呼ばれる。なぜ 50代以降は、年齢の上昇に伴って幸福感も上昇し続けるのだろうか。高齢期に加齢することは、身体の衰えなど様々な喪失を伴うものと思われる。そのため、むしろ幸福感は低下していくことが想像されるだろう。それなのに幸福感が上昇するという謎が、エイジング・パラドックスと呼ばれるのだ。

 実は、このU字型カーブとエイジング、パラドックスこそ、シニアの働き方の充実度を左右するヒントなのである。近年、シニアの働き方と幸福感の関係については研究が進んでいる。それらの研究では働き方の思考法を変えることで、幸福の追求ができることが明らかになっている。つまり、U字型カーブとエイジング・パラドックスという謎こそが、シニアが幸福に働く鍵だったのだ。
 ところが、シニア個人の働き方と幸福の関係を考えた書籍は、実はあまりないように思える。というのも、シニアの働き方については、定年再雇用や役職定年など組織側の施策に焦点が当たることが多い。あるいは、働き方ではない定年後の生活(健康や余暇など)のあり方と幸福の関係を解く本が多いのではないだろうか。
 もちろんシニアの働き方自体をテーマにしている書籍もかなり見受けられる。しかし気になることは、それらの書籍では、悲観的な捉え方が基調になっていることだ。たとえば定年前であれば、シニアは新しいことを学ぶ気がない、上から目線で過去の経験を語り続ける、役職定年や定年再雇用などきっかけにモチベーションが低下する、など、定年後であればシニアは「自分ができる仕事は部長」だと言い張って再就職ができない、希望にみあう処遇と役割の仕事はない、仕事がなく社会的孤立に陥ってしまう、など。
 筆者は企業の人材育成や個人のキャリア形成の研究をしている。その際、企業の人事部門の方々からも、シニアについての意見を聞く。それらには、次のような意見が多い。「日本的雇用では個人のキャリア開発が重視されてこなかった。そのため、シニアは自身のキャリア開発について積極的ではない」「役職定年や定年再雇用後の処遇の低下に伴い、シニアの動機づけをどうすればいいか悩んでいる」「年上部下になったシニアは、年齢を気にする人が多く、マネジメントが難しい」

 こうしたシニアの働き方、悲観的な捉え方を無視することはできない。しかしこれらの捉え方は一面的なものに過ぎない。シニア個人は多様であり、悲観的な捉え方があてはまる人もいれば、まったくそうでない人もいる。それなのに一面的な見方が支配的になってしまうのは、日本社会では、ある類型の人々を集団的にくくって捉えてしまうことが多いからだろう。

出典:定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考~

引用はここまでです。

いま、お話しした通り。この本ではベテラン世代――このご著書の中ではシニア世代と呼んでいますが――はむしろ、50 代以降になってくると幸福感が増すと書いてあります。

この感覚は、僕は確かによく理解できます。人から言われたわけではないのに、いま「課題だ」と思っていることに対して取り組んでいます。それなのにベテラン世代は「やる気がない」とか、「向上心がない」とか、「生産性が低い」と言われるのは、個人的にはとても心外です(笑)

むしろ、さまざまな経験を積んだ人たちを、エイジズムのような見方で差別的に捉えるのではなく、一人ひとりの個性や強み、想い、そういったものを、これからは見ていく必要があるんじゃないか? と。

そのためにも、ポートフォリオの整理をきっかけに「自分は何ができて」「何が得意で」「何が強みなのか」、そして「自分にとって大切なことは何なのか?」「何を実現したいのか」「今後どうしていきたいのか」――そういったことを、自分自身で言語表現し、内外の人たちに伝えていくこと。

それが、第2、第3のキャリアを形成する、あるいは形成する準備をする上で、すごく大事なんじゃないかと思います。

というわけで、今日の話はこれで終わりにします。

次の記事:理想と現状のギャップを埋める①―地域の「話し合う場」づくり

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