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『普及版 世界の紙を巡る旅』プロジェクト!
こんにちは、嶋田翔伍です。ひとり出版社・烽火書房を運営しています。京都で活動していて、近頃はhoka booksという名前で新刊書店もはじめました。
そんな烽火書房が、2021年2月に発売しました『世界の紙を巡る旅』(著・浪江由唯)が、皆様のおかげで完売いたしました。
出荷済みの書店さんの店頭在庫があるかもしれませんが、こちらでは在庫状況は把握しきれていないのが現状です(ぜひ発見情報あればお知らせください)。
ありがたいことに、たくさんの方から増刷希望の声をいただくのですが、僕たちは『世界の紙を巡る旅』を増刷しないことを決めました。その代わりに「普及版」として新たな装いで出版することを目指します。
浪江さんが約300日をかけて旅をして、そこから一年間いろんな方のお力を借りながら完成した渾身の一冊。なぜ増刷をしないのか、そしてこれからの僕たちの目標をお知らせしたいと思います。
<特別な本を目指して>
『世界の紙を巡る旅』制作を始めた時、「紙が好きで旅に出たという紙の本を、普通の本にするわけにはいかない」という意気込みがありました。
数年ほど前、手製本教室に通った時、自分の手を動かして工夫することで見たことのない本ができていくところを目にしました。ひと手間かけることの面白さは無限大だとワクワクしました。
そんな背景とクラウドファンディングの達成に背中を押されて、『世界の紙を巡る旅』には思いつく限りのワクワクを詰め込みました。本文用紙を11種類使うことで「白い紙」も、ものによって違いがあるのを味わえるようにしたい。旅の臨場感を出すためにできるかぎりカラーにしたい。実際にネパールの手漉き紙を輸入してカバーに使いたい。シルクスクリーン印刷で手仕事感のある造本にしたい……。
そうして作り手である僕たち自身が楽しむことで、「なんか面白そうだなあ」とみなさんに感じていただけたのかなと考えています。
僕たちが想像した以上の速度と数でご好評いただいた結果、売り切った後のことを考えないといけないフェイズがやってきました。
クラウドファンディングを利用したこと、リッチな仕様を実現しようとしたこと、カバーの制作に膨大な手作業の時間を費やしたこと。これらは完成した本にとってプラスに働いたと思いますが、在庫がなくなれば増刷すること、そして仕様の都合それが難しいことに不器用すぎて今更ながら気がつきました(長く商業出版の世界にいらっしゃる諸先輩がたからは、笑われてしまうかもしれません……)。
<書店からなくならない本>
「このことをいろんな人に知ってもらいたい!」と感じた人物や物事を主題に本づくりをする。基本的な烽火書房の考え方です。ようやく本が出来上がると「印刷した○○部を売りきりたい!」と意気込みます。
あんまり売れなかったらどうしようとか、悩んだりするわけですが、とにかく一生懸命在庫がなくなるように頑張ります。狭い自宅に運び込まれた大量の在庫の段ボールが減っていくのを見ると、少しずつホッとしていきます。いざ在庫が少なくなってきたと思うと、あんなに嬉しかった在庫の減少が少し怖くなってきます。増刷したり、仕立てなおして本を作り直したりすることは、また大量の在庫を抱えることと同じです。狭い自宅に、また大量の段ボールが運び込まれます。
「この本は、フィニッシュということにして、次の本をつくろう」という気持ちにもなります。でも、なぜ本づくりをしているのか自分の原点に立ち戻ります。
「このことをいろんな人に知ってもらいたい!」
売り切れてしまった本は、もうよほどのことがない限り、新しい人の手元には届きません。いろんな人に知ってもらいたくて本をつくったのに、一息ついてそれをやめてしまったら、そもそも本づくりをしている理由がなくなってしまう。可能な限りずっと、伝えたいメッセージを伝え続けること。それに向き合うことが不可欠だと気付きました。
本を作って、印刷して、力の限り頑張って売って、また希望の声があれば、印刷して、またまた力の限り販売する。生み出した本が望まれる限り書店に並ぶよう努力する。そんな循環を、持続可能なものとして続けることが出版業なのかもしれません。
<もっとたくさんの人に知ってもらいたい>
「普及版」という言葉をみなさんは聞いたことがあるでしょうか。おそらくよくあるケースとしては上製本の特装版を少部数刷った場合に、広く行きわたるように並製本として作るものが多いと思われます。
そうした印象から、「普及版」は安価でシンプルな仕様の簡略化された本というイメージがあります。手に入るなら特装版の方がいい、という気もします。けれど、いまは自分が普及版にチャレンジしようと思って試行錯誤を繰り返しているうちに、普及版面白いんじゃないかと思うようになりました。
『世界の紙を巡る旅』の普及版をつくろうと思ったのは、世界を巡った旅の記録そのものを、読み物としてもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思ったからです。こういうご時世でもありますし浪江さんがした旅はものすごく貴重なもので、紙好きの人にももちろん、なにか自分なりのチャレンジをしようと思っている人にとってもきっと楽しんでもらえるテキストだと思っています。
そんな「旅の記録」「奮闘の日記」を、例えば電車や移動中でも読みやすく、手に取りやすい、流通もさせやすい普及版をつくることで、もっともっとたくさんの人の手にわたっていく本になるんじゃないかというのが、今の考えです。
旅を終えて、日本に帰国した浪江さんは、国内に目を向けて今も紙や工芸のことを探求しつづけています。今もなお続く浪江さんの「世界の紙を巡る旅 日本編」。紙に関わる専門家・職人さんたちとの対談なども新たなに収録した一冊として、読み物としての魅力をさらにアップさせていきます。
初版版の『世界の紙を巡る旅』を届けられなかったみなさんにも知っていただけるよう、制作を続けていきます。
<出版という紙の本を巡る旅>
この記事は『世界の紙を巡る旅』の単なるPRではなく、出版という「紙の本を巡る旅」も赤裸々に書いたつもりです。
読んでくださっている皆さんは、いつも応援してくださっている方や紙好きの方、もしかしたら既に前回の『世界の紙を巡る旅』を手にとってくださった方かもしれません。
そうした方にも魅力を感じていただけるような一冊にしたいと思っていますが、さらに厚かましいお願いをさせてもらえると嬉しいです。
もっともっとたくさんの人に知っていただけるよう、周りの人たちにオススメしていただいたり、書店さまやお店さまにはぜひお取り扱いを検討いただけたり、この本のことをいろんな人に知ってもらうための仲間になってもらえたら本当に嬉しいです。
商業出版のことをまだまだわかっていなかったことを実感した僕ですが、本作りも、流通も、販売も、本の意義を考え続けることも、楽しんで続けていこうと思います。
ぜひよろしくお願いいたします。
こちらのフォームから連絡先をお知らせいただいた皆さまには、発売が近づいたタイミングでいち早く発売情報などシェアいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。