ベテランからの交渉は呑むべき?ベストな着地点を模索する3ステップ
発注担当者のよくあるお悩みに、プロフェッショナルの先輩がお答えする連載『発注あるあるお悩み相談室』第3弾 です。
今回、発注担当者のスケジュールに関する悩みにお答えいただくのは、数社のメディア制作を経験し、社内外調整のプロフェッショナルである、黒木 鈴華 さん(株式会社LANY)です。
発注あるあるお悩み相談室vol.3「自分よりもパートナーの方が業界歴が長く、コミュニケーションが難しい」
■業界歴が長い発注先との仕事で気を遣ってしまうのはよくあること
業界歴が長い仕事相手に畏怖の念を覚え、普段よりも仕事がやりにくくなったり緊張してしまったりするのは当然のことだと思います。仕事を発注する自分よりも先方の方がその領域に対する知見や実績が豊富であれば、無意識のうちに「相手の方が上」という認識が生まれやすいです。
すると、たとえ先方が自分の業界歴について驕り高ぶっておらず、発注者と対等な立場で仕事をするスタンスでいたとしても
などと勝手に思い込み、勝手に萎縮してしまうのは若手ビジネスマンあるあるの悩みだと思います。
今回のお悩みでは「あの手この手でスケジュール調整を要請される」とあり、先方サイドも多少は「自分の方がベテランだから、なんだかんだこちらの要望を汲んでくれるのではないか」と高を括っているような雰囲気が伝わりますね。
そうなると、若手発注者は対応の仕方に余計悩むのではないでしょうか。
■受発注者は「対等」な関係性が大前提!業界歴への忖度は不要
今回のお悩みにおいて真っ先にお伝えしたいのは、発注者と受注者は本来対等な関係であるということです。両者が納得して合意した法的効力を持つ契約に基づき、報酬の支払いと成果物の提供という義務を相互で負っています。
多くのケースでは、先方の「業界歴が豊富」という価値に対し、発注者側は主に報酬面でその価値を反映させた額を設定することで等価交換を完結させています。
そのため、プロジェクト進行における進め方やスケジュールの変更において、受注者の「業界歴が豊富」という価値を理由に発注者側がその要望を無条件に呑む義務はありません。
そもそも、発注者による進行管理の意義は「発注時に合意をとった納期までに、想定通りの成果物を納品してもらうための管理と調整を行う」ことにあり、それは発注先が誰であれ契約を締結している以上、変わることがない原則です。
つまり、今回のお悩みで本質的に解決すべきことは「業界歴の長い相手への対応方法」ではなく、「あの手この手でスケジュール調整を要請されることへの対応方法」だと黒木は考えています。
どうしても「相手の要望に応えるべきではないか」という心理が働きやすい相手だと思いますが、そういうケースの時こそ基本に立ち返り、「本当にスケジュールを調整する必要があるのか」という観点からフラットな判断を下すようにしましょう。
3ステップ|スケジュール調整を打診された時の考え方
ここからは、発注先からスケジュール調整を打診された際の考え方を改めて紹介します。
▼ステップ 1. スケジュール調整が必要な理由をきちんと聞く
「納期を◯日に変更してほしい」「〜〜の共有をあと3日待ってほしい」などの要望があがってきたら、まずは理由を把握することから着手します。
そもそも先方がスケジュール通りの進行を怠っていたと判断できるような理由であれば発注者側の負担を過度に増やして調整する義理はありませんし、スケジュール調整以外の対処で解決できる可能性もあるかもしれません。
ヒアリングをする中で「それは確かに調整したほうがいいかもしれない」と思うような正当な理由が挙げられたら、ステップ2の現実的に調整は可能なのか?の検討に移ります。
ちょっとややこしい補足ですが、「業界歴が長い相手の要望なら、無条件でスケジュール調整を呑む」必要はないものの、業界歴が長い人と仕事をする場合、結果的にスケジュールを調整するために動くことになるケースはしばしばあると思います。
理由はシンプルで、業界歴が長い人はその領域の第一線で活躍しており、多忙を極めている方が多いからです。本人はスケジュール通りに対応したいと思っていても、差し込みで別件対応に追われたり、急な出張が決まったりと、変則的な動きを避けられず唐突にスケジュール調整を依頼することがあります。
この場合も、スケジュール調整の要望が合理的かどうかを判断するようにしましょう。
▼ステップ 2. スケジュールを調整することによって生じる影響を整理する
スケジュールを調整したほうが良さそうだと判断した場合、そのスケジュール調整によって、
を整理し、該当者に対し調整後のスケジュールで進行しても問題ないか確認しましょう。
後工程に関わる人が発注者の社内メンバーのみであれば比較的調整できるケースが多いですが、社外のパートナーも関与している場合、スケジュール調整の申し出が直前になればなるほど、調整の難易度は当たり前ですが高くなる傾向にあるため注意が必要です。
なお、調整を打診するときは「予定よりも1営業日前倒しでの対応をお願いしたいです、可能ですか?」とだけ聞くのではなく、スケジュールを変更しないといけない事情や「最大限早く提出してもらえるように、私からも引き続きこまめに連絡を入れるようにします」といったスタンスも一緒に伝えることで、理解と協力を得られやすくなります。
▼ステップ 3. スケジュール調整が難しい場合、事情の説明や代案の提示を試みる
スケジュール調整が可能で、先方の要望に応えられる時は問題ないのですが、どうしても社内のリソースが埋まっており対応が難しいケースや、自社側にも譲れない事情があり先方の要望をそのまま受け入れて調整できないケースもあるでしょう。
しかし、「それは無理です、調整できません」と突っぱねてしまうと何も解決しない上に「いや、こちらも今のスケジュールでは対応できないから相談してるんじゃん、なんとかしてよ」と先方の態度も硬化してしまい、その後の進行に支障をきたすおそれがあります。
そのため、スケジュール調整が難しい場合は自社の事情も丁寧に説明した上で「希望のスケジュールでの調整は難しい」という事実を明確に伝え、納得してもらうよう試みましょう。
この時に代案をセットで出すと、落とし所を見つけるための建設的な議論に持ち込みやすくなります。
代案の切り口としては、
などが考えられます。
このように、発注先事情によるスケジュール変更の要望に対しても、最大限の共感や協力の姿勢を見せることで、フェアに交渉を進めることができるでしょう。
YESマンにならず、建設的に向き合うことで先方にも認められる
繰り返しになりますが、先方の年齢や業界歴に忖度してYESマンになったり対応を変えたりするのは悪手と言えます。あくまでも先方がスケジュール調整を打診するに至った理由に焦点を当てることで、調整に応えるのが正解か否か、進行管理の観点から最適な判断を下すことが大事です。
当然ですが、自社と発注先のどちらか一方が進行管理上の皺寄せを受けるようなパワーバランスでは、持続性のあるビジネスパートナーとして良好な関係を構築することは難しいです。ぜひ自社と発注先の両社にとって、均衡が取れるベストな着地点を建設的に模索することを常に意識しましょう。
煌びやかな経歴に対する過度な緊張感や卑下の感情を出さず、真摯なスタンスで先方と向き合い、時には自社視点の主張もしっかり伝えながら安定感のある進行管理ができれば、たとえ業界歴が浅いあなたであったとしても先方も「プロの発注者」としてリスペクトと信頼感を持って一緒に仕事をしてくれるようになるでしょう。
【著者プロフィール】
イラスト:みけ みわ子 編集:丸山恋(比較ビズ編集部)
制作協力:CINRA, Inc.